幼児になった俺氏。プロを目指して修行してみる。
父は俺を風呂に入れる。そして家族で夕飯。終わるとリビングでテレビの野球中継を見ながら晩酌。これは前世の父となんら変わってはいないのだな。
俺の前世の父は学生時代は野球に打ち込み、社会人になっても弱小チームだったが二年ほど現役を続け、結婚を経て俺の誕生を機に、引退して以後子煩悩なパパになっていたがその辺はまったく変わっていないようだ。
俺は父の隣に座っていたがそろそろ眠くなってきた。父は俺の頭を撫でながら言った。
「健ちゃん。健ちゃんの名前はケン・グリフィス・Jr.から貰ったんだぞ。」
そいつは誰だよ?あとで知ったことだが当時のメジャーリーグで最高の若手選手だ。走攻守揃った逸材で、引退後スポーツ記者たちの圧倒的な支持で殿堂入りを果たした名選手である。
すまんな親父。俺は万年補欠で終わる運命にあるしがない息子なんだよ。親父は一応弱小チームではあったけどずっとレギュラー張ってたもんな。ごめんな、期待ハズレの息子でさ。
しかし、おぼろげながら策はあった。俺の持つスキル、支援魔法は自分に対しても使える。たとえば加速。20%アップの効果の魔法なら100mを10秒で走れるなら8秒で走れる計算になる(実はそうはならないんだけどね)。だから異世界でも筋トレは欠かせなかった。身体強化しないと魔法効果が切れたあとにくる反動に耐えられないからだ。
だからまず身体を魔法で強化し続けなければならない。今から始めれば俺も一流選手になれるはずだ。そして胆沢によって狂わされた人生を修正してやる。ソッポを向いた野球の女神の肩を掴んでこちらに振り向かせてやるんだ。
ここから「万年補欠」だった俺の下克上が始まるのだ。時系列だが、俺の前世は昭和45年生まれ、事故で死んだのが高校3年生だった昭和63年。どうも翌年から元号が「平成」になっていたようだ。
カレンダーには平成4年となっていた。俺は2歳児なので平成2年生まれということになる。前世の両親には親より早く死ぬという最低最悪な親不孝をしてしまった以上、今回はうまくやってやろう。
幼児の俺にできるトレーニングは使える魔力量の拡大と身体の成長だ。魔力量の訓練とは異世界と同じく一日できっちりと魔力を全量使いきることだ。
翌年、妹の美咲も誕生し我が家はさらに賑やかになる。
母は前世の母同様かなり優秀な専業主婦で、子供のおやつさえ自作するタイプであった。お前ら「バニラビーンズ」が効きまくったシュークリームとか卵の味がするプリンとか食ったことある?ちなみに従妹はプッチンプリンしか食ったことなくて母の本物のプリンを「不味い」と言ったのが親戚内でずっとネタにされていたのだ。お前が普段食ってるプリンが偽物なんだって。
さて、俺はまず身長を伸ばすため食生活と睡眠に気を配ることにする。前世の俺の身長は171cmで野球選手としては小柄に分類される。一流を目指すならプラスしてあと15cmくらいは欲しい。そのためカルシウムを含む乳製品やタンパク質を含むものを好んで食べるようにした。チーズや枝豆など3歳児らしからぬチョイスであったが、母親からすれば「偏食しない良い子」であり、乳児の世話で消耗している母にとって「手がかからなくて良い子」でもあった。これは後々おねだりをするための布石でもあった。
また、よく眠るようにした。ねむたくなければ自ら「睡眠魔法」をかければいいのだ。俺は毎日睡眠魔法を自分にかけ続けた結果、魔法の強さと効果の相関性を理解し、目覚まし時計のようにきっちりと時間を決めて眠れるようになったのである。