万年補欠の沢村くん
「野球を愛することと野球に愛されることは別。」
―俺、沢村健の人生はまさにそれだった。―
「沢村、道具そろってねーぞ!」
同じ三年生なのにレギュラーに怒鳴られる。自分のグラブやスパイクくらいは各自で管理しろよ。
「サワ先輩、給水のヤカンが重いんで持って行ってください!」
なぜか女子マネたちに同僚だと思われている。しかも重いもの担当。手伝いは吝かじゃないけど俺は選手だし。おい、ティー用のボールのコンテナ運搬は俺担当かよ。
「先輩!ボール拾い行きますよ!」
なぜか一年生にも同い年だと思われている。俺はこれから守備練習なの!
ただし「なぜか?」というのは愚問に過ぎない。それは俺が万年補欠選手だからだ。体格も野球選手としては小柄な方だし、性格も大人しいというか「びびり」なので女子にも後輩たちにも全く威厳はない。二年生のレギュラーに至ってはきちんと「沢村さん」とすら呼ばれない。同級生が呼ぶ「サワ」にさん付けするだけだ。
もちろん、練習後のボール拾いとグラウンドのトンボかけは率先してやる。三年生の俺がやれば流石に下級生たちもやらざるを得ないのだ。
「みんなでやればさっさと終わる。さっさとやってなんか食いに行くか?」
「うーーーーす。」
俺は父親が社会人野球の選手、と言っても強豪の企業チームじゃなくて弱小なクラブチームでプレーしていた影響もあって小さい頃から野球に取り組んできた。
リトルリーグからシニア、高校野球までやってきたけどただの一度もレギュラーを取れたことがない。お情けで練習試合で代走か守備固めに起用されたことがあるくらい。公式戦に出たことがないのだ。
それに関しては父ももどかしかったようで色々とコーチやアドバイスをしてくれたのだが結局芽が出ずに終わってしまった。その代わりチームの雑務はなるべくこなすようにしている。それが俺のというか父から教わった美学でもある。
「明日、予選の登録選手の発表ですよね?」
帰りに寄った駄菓子屋で「もんじゃ」をつつきながら後輩が言った。
「もしサワさんが選ばれたらどうします?」
二年の女子マネージャーが聞く。いったい俺をどんな場面で使うねん?俺が逆に自虐的に尋ねるとみんな気まずそうに笑った。
「で、⋯⋯伝令とか(コーチャー)ボックスとか?」
は?俺は一瞬イラッときたけど一度大きく息を吐く。
「⋯⋯ま、そんなところか。」
俺はコテですくったもんじゃを口にしてから呟いた。ただ、その経験すらこれまでなかったのが事実だ。
「万年補欠⋯⋯だもんな。」