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vermilion 前章  作者: 久蘭
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ウロボロスの守る罪3

 父の騎士団葬が済んで一週間が過ぎた。

 本来は、そろそろ公爵位の継承式と、修道騎士団長の就任の準備を整えねばならないが、その件について、公爵家に連なる従家、及び修道会内にも異論を唱える者が少なからずあった。

 継承するべき当主はまだ七歳。

 この場合、従来のしきたりとして、当主がそれなりの年齢に達するまで、筆頭従家の当主が代行するものであったからである。

 しかし、ベィデノン候爵夫人は頑としてそれを認めなかった。

「公爵に立つのは、血筋からみてもこの子をおいて考えられませんでしょう。

 公爵家の当主としての切り盛りは、私の目の黒いうちは、従来どおり私が致します。

 騎士団長としての職務は、亡き公爵を支えてくださった修道会の方々も引き続きご助力いただけましょうし、子供はすぐに大きくなりますよ」

 ベィデノン候爵夫人には、頑なにならざるを得ぬ理由があった。

 筆頭従家ガラナ候爵は、先々代の第二夫人の子である。第二夫人とはいえ、薄からず古家の血統を次ぎ、従家の身分が許されている。ベィデノン侯爵夫人としては、とても好ましく思える相手ではない。性格にしても、昨今の宮廷のあり方に流されるばかりで、とても芯のあるようには見えない。それは、息子であった亡き公爵も同じようなものであったが、この度の凶事は、下々の心を省みない貴族としての風潮が招いたものではなかったかと夫人は危惧する。

 なぜ、民が海賊行為に走るのかといえば、それは生活する環境が、普通に働いて、生きるに足る要件を満たさないせいもある。

 力ある古家としては、再び対応を誤るわけにはいかない。自分がラヴィロアの背後に立ち、いまだ政治の場に残る侯爵夫人の旧知の賢臣たちとの連携を図りながら、公爵家としての立場を築こうとする意図があった。

 ラヴィロアの幼さに異を唱える者は、一族の者ばかりではなかった。騎士団内にも、暫定空位でよいのでは、という意見もあり、公爵位の継承の件はともかく、騎士団長としての就任の時期もまだ決まってはいなかった。

 とりあえず、この落ち着かぬ有様では、若君の健やかな育成の場としてふさわしくない。

 ベィデノン侯爵夫人は、ひとまずある決断をした。


 だが、ラヴィロア本人にとって、そういった事情はどうでも良いことである。

 葬儀以来、ホージュオン島の邸宅に暮らすことにはだいぶ馴れたが、廷内は服喪のためにとても静かで、たまにラヴィロアの継承の件で行われる話し合いの他は、しんみりとした雰囲気に包まれており、退屈したラヴィロアが気持ちのままに子供らしいエネルギーを発散できる様子ではなかった。

 乳母は領地に小さい子供を持つ身であったので、葬儀の際には王都に同行したが、こちらが落ち着くと、一旦領地に帰ってしまった。

 そして、入れ替わりに来るはずの教師はまだ到着していなかった。

 大人しく読書をする気にもなれず、仕方ないので、広い玄関ホールで、冷たい大理石の床の上に転がって、天井の装飾画を眺めているぐらいしかやる事が無かった。

 たまに床の上で、背中を軸にしてコマのように両足を使ってぐるぐる回転することが楽しいと発見したが、五度もやると気分が悪くなって、すっかり飽きてしまった。

 今度はうつぶせになって、頬やおでこで床の冷たい感触を楽しんだりしてみた。そして、床の上に一匹の小さな虫を発見して、おや、と思った。

 今度は床に映る柱を数え、そして、また天井画を見上げ、乳房の形が母上のとは違うな、と思ったりした。

 どんなに頑張っても、そんなに時間は潰れないし、ここには大した玩具も無い。

 あの祖母が簡単に新しい玩具を買ってくれるわけもない。

 コロンと横になったまま、ボーっとしていると、ラヴィロアの顔を覗き込む男の姿に気づいた。

「若様、退屈なさっておられますな」

 いつぞやの修道士であった。

「葬儀の日以来でございます。

 ザエルでございます。

 これを、総司令より預かってまいりました。

 騎士団の司令母艦をもとに作られましたフィギアでございます」

 ラヴィロアは箱を差し出されたので、慌てて起きあがり、そして笑顔で受け取ろうとしたが、あまり上手く笑えなかった。

「ありがとう」

 普段なら、もっとたくさんの言葉で、嬉しいことを表現できるのに、なんだか気持ちがついていかない。

「お気持ちが晴れないのは、当然でございましょう。

 もし、若様がよろしければ、修道会で預かる子らと一緒に、遊んでみられませんか。

 少しはご気分も晴れるのではと」

「子供がいるのですか」

「若様と同じほどの子供たちも暮らしております。

 修道会は、幼くして親を亡くしたり、ご両親の都合で一緒に暮らすことのできない子らを預かり、育てる仕事もしておりますし、神々の学問を究めるために、幼い頃より修道を学ぶ道に進もうとする子らもおります。

 侯爵夫人にお伺いする話では、若様はご領地では領民のお子様方の中に出て行かれ、親しく遊んでおられたとか」

「友達になれますか」

「ええ。若様がそれを望まれるなら。

 そして、私と一緒にお勉強も致しましょう。騎士団長として、修道会と、神々と、そして騎士団のことについて。

 一緒にいらっしゃいますか」

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