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vermilion 前章  作者: 久蘭
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桎梏の時が見せる夢3(ラヴィロア14才)




「ルーサザン公、早すぎないか」

 皇太子ランディラ公グラーノ・エスファナは、着慣れない国軍候補生の制服を窮屈そうに身につけていた。

「殿下、馴れない事ですから、早めに行動するのが肝要かと存じますが。皇太子としてのおつとめであれば、行事は王族に合わせてくれますが、今回、殿下は一学生としてのご身分で学園生活を送るのです。行事の進行は本来停滞されるべきではありません。ましてや、王族をはじめとして、古家の我々が絡むと、馴れない集団の側では特に配慮なさいますので、余計に時間をとらせます。

 先日来、申し上げているとおり、キビキビとしてくださいませ」

 ラヴィロアも同じものを身に付けていたが、中身の尊大さに比べてやや貧相な感がある。制服は着慣れているのでそれなりに見えるにしても、ベージュの候補生の制服に騎士団の黒の制服ほどの威圧感はない。

「なんか、窮屈で落ち着かない」

 ラヴィロアはそう云うグラーノの制服の襟を少しいじった。

「少しはいいですか」

「まあ、少しはね」

「今日から寮住まいですが、なに、心配いらないですよ。僕がいますから。

 同じようにすればいいんです。その代わり、勝手は僕が許しませんので」

「頼むよ、ラヴィ」  

 その年、ラヴィロアは十四才となり、来期よりランディラ公爵グラーノの国軍予備学校の入学に合わせて、一時的に国軍予備学校に入学することになった。

 それは国王の依頼があったからで、宮廷しか知らず、かしずかれて育ったグラーノの生活を、修道会において寄宿生活になれたラヴィロアが一緒にいることにより、少しでも快適に過ごせるようにとの配慮ゆえであった。

 おそらく、グラーノ一人で入学させるなら、せっかくの鍛錬であるのに、寄宿舎側の対応やらを考えると王族として特別扱いされかねない。ラヴィロアが一緒であれば国王の意図を汲み、集団生活に対する甘えも抑えることができるという面もある。

 国王グリーダは元軍人である。継承位が低く、母親であるバレイユ妃も貴爵家の出身であったので、自ら望んで王族でありながら国軍予備学校から貴族の師弟向けの上級士官学校に行かず、そのまま軍務について下士官から始めた。アストレーデ聖典の開示直前の頃には、地上攻撃師団の中佐となった現場主義者であり、非現実的な宮廷儀礼と、生ぬるい人間関係を何より嫌った。その一端を学ばせるべく、将来軍に身を置くとはとうてい思えないグラーノを予備学校に送り込んだのである。

 グラーノが地上車から降り立つと、周囲は騒然となった。校門の前を一般人が列をなし、学校に一歩入れば、校内中が遠巻きにしてグラーノを注視している。

 注視されているのは、ラヴィロアも一緒であるが、ラヴィロアは至極自然にそれに無関心で歩いて行くのに対して、グラーノは思わず手を振ってしまう。

「公式行事ではありません。殿下は、あくまで学生の身分ですので、校内に入られましたら、全て無視なさいますように」

 ラヴィロアがバッグを差し出して忠告する。

「殿下、ご自分でお持ちください。私は殿下の侍従ではございません」

「あ、ああ、ごめん」

 素っ気ない態度のラヴィロアからバッグを受け取り、思わず謝る。


 入学式はあっけないほど型どおりに進行してつつがなく終わった。その後、入学三ヶ月は、専門科の区別なく基本的な行動訓練を行う。この予備学校の門を叩く大半の者が大貴族の師弟であり、領地において、学校ではなく家庭教師によって教育された者も少なくない。よって、集団生活そのものから始める必要があるのだ。

 最初、各人寮に振り分けられ、当然特別な配慮なのだろう、グラーノとラヴィロアは同室であった。四人部屋であり、他に古家であるエイオラ公爵家のユーラ・エランドラ、

 そして、各寮の階ごとに寮長が決められ、全てのことが寮長の指揮によって行われる。

 寮は階段を挟んで翼状になっており、男子と女子に別れるが、階ごとなので寮長の指揮下に入るのは男女とも同じ階の者同士である。

 寮長は、三ヶ月ごとの試験の成績で決まる。最初の三ヶ月は、振り分けられたメンバーの中の入学試験での最終者ということで、平民出身の女学生ベリア・エルダに決まった。ラヴィロアは試験の当日は修道会の行事で抜けられず、後から特例で入試を受けたので、試験の上の成績は同点であったが、最初からペナルティとして減点されていた。

 教官の指示に従い、第一日目は無難に過ぎた。

 グラーノは無難というわけにもいかず、日常のことをラヴィロアはいちいち教えなければならなかった。

 寮のビュッフェでは、自分のトレイを取って並び、用意してあるものを自分でいちいち取ることや、嫌いなものは少し、好きなものは多めに、でも一人ぶんづつ分けてあるものは例外というふうに。

 ラヴィロアが暮らしてきた場所が修道会だったので、予備学校の寮よりもさらに厳しい戒律が課せられていたので、むしろここのほうが楽であったが、グラーノは1日めにして、少しくたびれてしまっていた。

 就寝の点呼は、全員廊下に出て、自室の扉の前に並んで行う。その場で翌日の行動予定やらも確認されるので、非常に重要な時間である。

 初日なので、寮長に教官がついて指導して点呼を終え、そのまま就寝となった。

 消灯まで、二十分ほど間があり、歯を磨いたり、少し本を読んだり、翌日の予定を確認したり用意したりなどをする。

 だが、グラーノは消灯を待たずに、すぐに夢の中に行ってしまった。

 ラヴィロアは、修道宣誓こそ行っていないが、修道士の初戒を学ぶ身である。

 就寝用意の時間に、自室で略式の就寝前の礼拝を行う。一切を無駄にせず、神々の恵みと、慈悲を祈り、それからベッドに入った。

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