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vermilion 前章  作者: 久蘭
10/11

桎梏の時が見せる夢2(ミスチア10才)

 姉王女の部屋に続く廊下を、ミスチアはできるだけ音を立てないように、それでいて軽やかで優雅な足取りを心がけながら歩いていた。

 ラジサンドラ王国の太陽の日射しは強く、建物は窓を小さくしてその影響を受けぬように作られていた。

 姉王女は今日もミスチアに語る。

 姉王女が降嫁することが決まった古家は現在ラジサンドラ王国の筆頭であり、婚約者の少年は姉王女の元に頻繁に遊びに来た。

 その二人に加わってミスチアもゲームを楽しんだりするのだが、その仲の良い様子は、時折ミスチアにひとりだけぽつんと孤立した感じを抱かせた。

 それは、ミスチアが二人よりも三つも年下で、話題についていけないせいもある。

 でも、もっと根本的なものの何かが違う。

 そう思った。


 ミスチアは望まれて王家の養女となった。

 そして、ラーフェドラス王家に嫁ぐことが決まっている。王妃として。

 最初は、姉王女が嫁ぐ予定であった。しかし姉王女の健康を理由に、国王は古家の血統の正しいミスチアを養女にし、これを姉王女の代わりに嫁がせる事に決めた。

 王妃としての公務に耐えぬため、として、ラーフェドラス王家にも了解を求め、そして今、ミスチアがラーフェドラス王妃となるべく、教育を受けている。

 姉王女は、小走りでミスチアの前を走り抜け、婚約者とともに遮光ドームに守られた中庭に出てゆく。

 とても公務に耐えぬゆえの辞退とは思われない。ただ、その将来には、仲むつまじい古家の夫人としての、幸福な暮らしがあるように思えた。


 秋の頃、ミスチアは図書室に一人残されて、読み飽きた書物の絵を開いたまま、うつらうつらと眠ってしまったことがあった。

 気がつくと長椅子に横たわり、薄いブランケットが掛けてある。

 気持ちがよいので、そのまま目を閉じてまどろんでいると、侍女たちの声が聞こえて自分が王妃として嫁ぐに至った真実を知った。


 当初、ラーフェドラス皇太子はランディラ公グラーノであり、姉王女のほうが少し年上になるが、ちょうど釣り合いのとれた微笑ましい婚約であった。 

 ところが、この頃、ちょっとした異変があった。

 ラーフェドラス王国のファーマムール王国の国境線にあるイドリア星域のファランティア星付近、そのあたりの廃棄された鉱石惑星に住み着いた流民に、反政府軍組織が介入した。討伐を任されたのは、ラーフェドラス王族であるソルドレア伯グリーダで、採掘ドームの再利用を目的とした討伐であったので、地上戦部隊が投入された。

 そして、その際、流民の抵抗が激しく、やむなく全員死亡として報告されたが、真実はソルドレア伯による虐殺であった。女性や子供も容赦なく、その様は凄惨を極めたというが、公にはされていない。

 その事件の直後、ラーフェドラス・アストレーデ聖典の開示が行われたことが正式に公表され、グラーノは継承位を一位退き、ソルドレア伯グリーダがランディラ公として、あらためて皇太子となった。

 公式に否定されているとはいえ、愛娘を恐ろしい虐殺の疑いのかかる者になど嫁がせる気持ちにはなれず、急遽ミスチアを王女に仕立て上げ、この恐ろしい新しい皇太子に差し出すことにしたのである。


 眠ったふりをしながら、その話を聞く間、ミスチアは恐ろしくて背中が凍り付いた。

 その虐殺の話を、幼い頃に父親と身分にふさわしくない取り巻きたちが、酒飲み話にしているのを聞いてしまったからである。


 まさか、王妃は殺しはしないでしょう。

 それでも、伝説の中には様々な狂王の話がある。

 太陽系連邦の地球の古い話には、宗教的な理由で離婚ができないので、結婚した王妃を次々に殺して新しい王妃を迎えた王もいたという。


 リボンをくれた少年は、まだミスチアのことを愛してくれているのだろうか。

 あのとき、そのリボンの意味を知り、そして自分が頷いて一緒に生きることにしたら、こんな怖い思いをしなくて良かったのだろうか。


 嫁ぐことは、死者の国への階段を踏むように思えた。

 あのリボン、どこにやったのだろう。

 ミスチアは思い出そうと記憶の中を探った。


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