01 大雨の後
・紫宮羽黒 固有スキル unknown
学長推薦で選ばれ、生き別れた姉を探しに学園島にやってきた。
・花園栞 固有スキル 不滅の愛
不敗の女王という名を連ねており、ランキングは一位だが、ある悩みを抱えている。
・仲川瑞希 固有スキル 干渉無効Lv.5
栞専属の使用人で、巧みな話術で相手を翻弄する。
・白百合唯李 固有スキル 確率変動Lv.5
羽黒の専属使用人となったツンデレ系女子。瑞希とはライバル関係(?)
『固有スキル』 各自一つずつ与えられており、ランクに応じて能力が異なる。レベルアップも可能。S〜Dランクの五種類がある。
『サブスキル』 EVENTで勝利したプレイヤーが使用できる。固有スキルと最大二つまで併用可能。
『ランク』
S~Gランクの10種類(A2,B2がある)で分かれており、Sランクは学園島内でも5人しかいない。
『島内通貨』
島内の物が購入でき、ランクに応じて毎月支給される額が異なる。
「いきなり欠席とかどうかしてるだろ、おい」
そんな愚痴を漏らしながら俺、紫宮羽黒は乗ってきた船を降りた。
昨日まで降り続いていた大雨のせいで、俺の乗っていた船は足止めをくらい、俺は入学式を含む三日間も学校をいきなり休む羽目になったのだ。
入学式には出られなかったものの、学長との連絡を取りつつ、どういったことを行ったかなど、少しだけ詳細は聞いていたが、ゲームに関してはまた後ほどと話を逸らされ、何一つ話を聞けずじまいだった。
この学園島では教育方法は通常の学校と変わらないが、一つ他とは異なった最大の特徴がある―それがゲー厶だ。
しかし、そのゲームの制度があるからなのか、この島の卒業生たちは世間をあっと言わせるほどの多くの業績を残しているのだ。
そんなこともあってか、半世紀くらい前にできたこの学園島に属する生徒数は、ここ数年で劇的に増え、今では約五十万人にも及ぶらしい。そのため、入学するのが困難になっているくらいだ。
そんな中、俺はこのえげつない倍率になっていた入学試験を余裕で合格、頭脳明晰の天才現るなんて大口叩いて受けたが、当然のように落ちた。否、ボロボロだった。
ありとあらゆる角度から攻めてきた問題に全く歯が立たなかったのだ。でも何故か、発表から数日後に学長本人から電話があり、推薦枠で合格になったと言われた。そして、現在に至る。
俺が属することになった学園島十二学区の高等学校―私立緑坂学園だ。
俺は船から降りる前に入島審査を受けた際にもらったタブレット端末を手に取り、学長に到着の報告をいれる。
『おっ、紫宮くんじゃんか。ようやく着いたみたいだね、おつかれ』
「やけにご機嫌ですね学長」
『もう、学長なんて堅苦しい言い方じゃなくていいから、柚月ちゃんって呼んで。さっ、リピートアフターミーユズキチャン』
「ユ………ユズキチャン………」
柚月ちゃんこと、本名佐伯日葵(にわかには信じがたいがみんなには自分のことを柚月ちゃんと呼ばせているらしいがほっておこう)は二十五歳にしてこの緑坂学園の学長に就任するという偉業を達成したらしい。二年前からここに務めているとか。
『で、紫宮くんは何か用かい?』
俺が嫌々言った柚月ちゃん呼びをしれっとスルーして聞いてきた。
「用って、そりゃゲームについてですよ。それがこの島では一番重要なことなんだし、後ほど話すって言ってたじゃないですか!」
『あーたしかにそんなことも言っていたような気もするわね。じゃあ紫宮くん、一回端末のホームボタンを押してみて、そしたら右上に人形のマークがあるアイコンのアプリがあるでしょ?それを押して』
学長に言われるがままに俺は端末を操作する。
「あーありました」
そこには、名前、性別、生年月日、所属学園など色々記入されていた。
でも、数ヶ所空欄の部分があった。
「学長、俺のランクと固有スキルの部分が空欄になっているんですけどどうなってるんですか?」
『ランクはね、君が推薦枠だからまだ確定してないのよ。で、固有スキルに関しては、それはガチャを引いてもらうんだよ。スキル強化ってかかれたマークがあるだろ?そこに表示されているやつを押してみるといいよ』
言われた場所を押すと、赤い枠に“スキルを獲得しますか?”と書かれたものが表示された。
試しにそれを押すと、ガチャを回すショートムービーが流れ、その後、白い玉が落ちてきた。
その玉が割れて、中から出てきたものからスキルが表示―されなかった。
(は?)
玉から現れたそれは白いもやがかかっており、何が出てきたのかさっぱりわからなかった。
(これ、バグってるのか?)
すると、端末に『固有スキルのインストールが完了しました』と通知が届いた。
嫌な予感しかしないため、自分のプロフィール画面を見てみると、固有スキルの部分が《unknown》と表示されていた。
「学長、端末がバグっていて俺の固有スキルが《unknown》ってなってるんですけど大丈夫なんですか?」
『えー何それ、聞いたことないんだけど………ちなみにガチャの色は?』
「白ですけど」
『ふむふむ。白の玉が出たということは、君のスキルはSランクだということは確定だね』
学長の言葉に俺は耳を疑った。
「Sランク!?それって一番強いランクのスキルなんじゃないんですか?」
『そうだね。この島にも数人しか持っていない。それに君以外の推薦枠の生徒の四人も強くてもAランクのスキルだったからね。でも強いのはスキルの内容を熟知してかつそれを使いこなせる能力を持っている人に限るけどね。だから、君の場合はSランクのスキルを持ってるけど、まだ何に使うのかすらわかっていないし、それを使いこなせる能力も皆無。正直今のままだと一番雑魚の一番雑魚のスキルの規約変更よりも使えない』
学長からの結構きつい言葉をもらいかなりメンタルが削られた。
「ソウナンデスネ………」
『でも心配することはないと思うよ。ゲームをしている内に使えるようになるかもしれないし、君のスキルが新種だからそっちの端末が処理できていないだけかもしれない。こっちでも今、君のスキルについて解析中だから、今日から始まるイベントが終わったときにアップデートをする予定だからそこまでにわかるようにしておくよ』
確かに新種のスキルを引いてしまった可能性もある。
だけどそれ以前に………
「あの学長、イベントって何のことですか?」
『え?紫宮くん知らなかったの?昨日参加者リストとルール説明をメールで送ったじゃない』
「送ったじゃないって俺さっき端末渡されたばっかりですよ!知ってるわけないじゃないですか!」
『えーじゃあベルのマークがあるアイコンを押して。そこにメールとかの通知があるから』
「さすがにそれくらいのことは知ってますよ。ってか何めんどくさくなっちゃってるんですか!」
『だって君意外にもめんどくさボーイじゃん。そんなことしてたら女の子にモテないぞ』
(余計なお世話だっつーの)
というか俺だって付き合っていた幼馴染みと縁切ってまでこっちに来たんだからな?と、内心でそう言いながら、通知欄をスクロールしていくと下の方に【イベントについて】と書かれたメールを見つけた。
「ちなみに、このイベントって俺は参加しないとだめなんですか?」
『そうだね。推薦枠の子は強制参加だよ。その他にも抽選で選ばれた百人が参加するよ』
なんとなくだが今のを聞いてランクがわかっていないこととの関係性が掴めてきた。
「そのイベントの結果に応じて推薦組の初期ランクが決まるってことですか?」
『その通り。物わかりがいい子は嫌いじゃないよ』
「めんどくさいな………」
正直このイベントはやりたくない。今までずっと船に揺られて疲れている。それにスキルも何もわかっていない状態でなどでは勝てるはずもない。
そんな俺の心の声を察したのか、学長が念押しをしてきた。
『くれぐれも私の期待を裏切らないようにね。そうじゃないと君のお姉さんに会えないわよ?』
「うっ………」
“姉”という言葉に少し動揺してしまった。
そう―俺がこの島に来た“目的”は昔、何らかの理由で生き別れてしまった姉に会うためだ。そのためにいろいろなものを捨ててきた。
わざわざこんなことをしてまですることじゃないと思う人もいるかもしてないが、俺にとっては命を懸けてでも目的を達成しなければいけないのだ。
「そのイベントってやっぱりスキルを使わないと厳しいですかね?」
『ほぼ不可能だろうね。でもやってみないとわからないよ?』
「そうですか………」
『他に何か聞いておきたいことはあるかい?私も学長だから忙しくてね』
「じゃあ最後に一つだけいいですか?」
『なんだい?』
俺は推薦で合格してからずっと気になっていたことがあった。
「なんで学長はテストでボロボロだった俺を推薦なんてしてくれたんですか?」
『なんだそんなことか、確かに君のテストは終わっていた。でも、面接の時に君のことが気に入ったんだよね。』
「それって、俺のこの学園の志望動機にですか?」
『いや、正直君の志望動機はどうでもいい。むしろ個人の問題だ。自分一人でやってくれ。私が気に入ったのは君の目だ』
「………」
意味がわからなかったので思わず黙り込む俺。
『まあいずれわかってくると思うよ。じゃあ最後に私から一つアドバイス。今回のイベントでは君のスキルは役に立たない。だからそれ以外の手で挑まなければいけない。なら、君の特技を活かしたゲームで挑め。相手からではなく自分から。それ以外だと初心者の君はほぼ確実に勝てないだろう。君はお姉さんのためにすべてのゲームで勝利しなければならないのに』
「姉のため?それにすべてのゲームに勝利するてどういう………」
『知っているかはわからないが君のお姉さんは大学の序列で現在一位に君臨している。彼女はこの島に来て才能を開花させた。でも変わってしまった。いわゆるゲーム狂ってやつだね。彼女は自分に見合った相手をいつも探している。だから君は勝ち続けて彼女に見合う男になりなさい。君の願いが叶ってほしいなら一度も負けるな。勝って勝って勝ち続けろ』
(その条件ってかなりの無理難題だと思うんですけど!?)
と少々顔を引き攣らせる。
………でも、そんなことで諦めてたまるか。
「わかりました。やってみます。もし負けたら、自分にはまだ姉に会う資格はなかったということです」
『その意気だ。最初は難しいかもしれないがそれを乗り越えればいけるはずだ。私が君を推薦した甲斐
があったよ。それに、新人の君がイベントを制したら瞬く間にその情報は拡散されるはずだ。運が良ければ彼女の方から接触してくる可能性があるかもしれない』
「どんな困難が来ようとも絶対に乗り切ってやる」
『イベントは正午からスタートだ、期待しているよ』
学長との電話を終えた羽黒のほぼ真上の位置で太陽が輝いている。
(そういえばもうすぐお昼時か、近くで何か買っておいた方が―ん?)
学長が最後に言った言葉が脳裏に蘇ってくる。
(あれ?イベントって正午からスタートって言っていたような………)
すぐに端末を起動させ、時間を確認する。
「あと五分で始まるじゃねえかよ!?」
時刻は午前十一時五十五分。
港でそう叫ぶ俺に、いきなり最初の困難がやってきた。
そして、ついに理不尽なゲームの火蓋が切られた。
“NEW EVENT《王様ゲーム》START”
最初のイベントが始まりました!