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東雲氷菓は現れる

「ふぁあ……」


 俺は寝ぼけ眼を掻きながら、シャカシャカと歯を磨く。

 寝癖が跳ね上がり、なんとも無様な姿だ。


 昨日は混乱しすぎて頭がショートし、帰ってくるなり風呂に入ってそうそうに眠りについてしまった。


 早く寝たからと言って寝起きがいいかと言われればそんなことは全くないのが人間の不思議なところで、俺は逆に身体のだるさを感じながらボケーっと学校の仕度をする。


「お兄ちゃん、私もう先行っちゃうよ!」


 そう言って、瑠香が玄関から大声で声を掛けてくる。


「遅刻しちゃうよ!」

「……わかってるよ」

「もう!」


 痺れを切らした瑠香が玄関のドアを開けて外に出ると、不意にピタリとその背中が止まる。

 瑠香は動きを止め、階段を降りる俺の方を振り返る。


「ん? どうした妹よ。俺が恋しくなったか?」

「いや、そうじゃなくて――」

「お、おはよう伊織」

「氷菓……? なんで……?」


 そこには我が幼馴染、氷菓の姿があった。


 確かにあの幼馴染に戻った一件以来、氷菓は俺への態度を大きく変えた。一緒に話すことも少なくなくなったし、ゲームだって教えてくれと向こうから言ってくるようにもなった。


 だがそれでも、一緒に登下校するという行為だけは絶対にしないようにしていたのだ。


 たとえば俺が朝家を出たとき、氷菓も丁度家を出たとする。

 すると、「一緒に登校はしないから!」と捨て台詞を吐き、凄いスピードで自転車を漕いでいってしまうのだ。


 それは恥ずかしさからなのか、さすがにそこに一線を引いているのか、思考回路は定かではないが、とにかく氷菓は俺と一緒に登下校だけは頑なにしなかったのだ。


 それが……。目の前には、少し気恥ずかしそうにクルクルと髪の毛を指に巻き付け、塀に寄りかかる氷菓が居る。


「氷菓ちゃん!」

「瑠香ちゃん、おはよ」

「おはよ! 何しに来たの? 珍しいからびっくりして少し固まっちゃったよ」

「うーんっと……まあちょっとそこの後ろの奴に用があるというか」

「え、また何かしたのお兄ちゃん!?」


 瑠香の鋭い視線が俺の眉間を刺す。


「いやいやいやいや! 断じてしてないから! お兄ちゃんを信じて!?」


 してない! なんだその言いがかりは! ……してないよな?


「ふーん……」


 瑠香の人を疑うじとーっとした目。


「い、いいからお前は早く学校へ行けよ」

「何もしてないということは……普通に……」


 と、瑠香はなにやら察したのか、口元に手を当てにやにやとしながら学校へと向かっていく。「頑張ってお兄ちゃん!」と最後に捨て台詞を吐いていった。


 で、問題はこいつだ。

 氷菓は、ちょっとだけ気まずそうにしてこちらを見る。


「……で、何か御用で?」

「ご、御用って……別に用が無きゃ来ちゃいけないっての?」


 そんなツンデレみたいなセリフ言われても……。


「いや、用がないと来ない人間だろお前は」

「…………一緒に学校行くわよ」

「あれ、嫌がってなかったか?」

「お、幼馴染なんだからそれくらいしてもいいでしょ! 文句言わないの!」


 そう言い、氷菓はくるっと踵を返し、「行くわよ」と呟く。


「はあ……。いやまあいいんだけどよ。氷菓がいいなら」

「いいの!」


 何が原因かは知らないが、どうやら氷菓の中で何かが変わったらしい。

 なんだ? 何があった? うーんわからん……。


「早く行くわよ! 先行っちゃうわよ!」

「なんで無理やり迎えにきた側が偉そうなんだ……」

「何か言った!?」

「言ってませんよ」


 そうして俺と氷菓は一緒に登校した。


 いろんなところから視線を一身に浴びる。興味の視線や、冷やかしの視線、射殺す視線……。しかし、氷菓はどこか満足気に堂々と突き進む。


「あ、お、おはようございます……!」


 と、校門付近であったのは、ピンクの髪をした少女。

 流星佳だ。


 そうだ、何か不思議な感じだが後輩何だった。居て当然だよな。


「お、おう。おはよ」

「氷菓ちゃんも、おはよ!」

「おはよ、星佳ちゃん。私達幼馴染だから一緒に登校してきただけよ?」

「??? う、うん?」


 星佳はポカンとした様子で氷菓を見る。

 

「急に何言ってんだお前は……」

「いや、別に」

「はあ……」

「いいなあ。私もあのその……一緒に登校したいな……なんて」

「えっ」

「えぇ!? お、幼馴染じゃないでしょ星佳ちゃんは!」

「そ、そうですけど……。ゲームの話とかもしたいし……」


 と、もじもじと恥ずかしそうに星佳は俺に精一杯伝える。

 わかる、わかるぞ星佳よ。俺はもう流星佳と言う人間がどういう人間かをわかってきた。ネット弁慶で、私生活では恥ずかしがり屋。恐らく、この発言もかなり勇気を持ってい言っているのだろう。なんだか自分と重なるところがある。


 そうして、俺はなんだか保護者のような感情を抱き、大きく頷く。ゲーム仲間なのはかわらない。たとえ女の子だったとしても。


「もちろん、たまには一緒に登校しようぜ」

「……! ありがとうございます!」

「はあ!? 本気でいってるの伊織!?」

「ん? いいだろ別に。お前だって仲良くなったんだから一緒に登校すりゃいいだろ」

「そ、そうだけど……」


 と、なんだか少し不服そうな氷菓さん。

 どうしたんでしょうか。今日は一段と情緒が不安定なこって。


「てか遅刻するからいこう。星佳も急いだほうがいいぞ」

「は、はい!」

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