東雲氷菓はつい口を滑らす
無事氷菓の家に入れて、話を聞いてくれるような雰囲気になってはいるが……さて、何から話したものか。
息苦しい……思い立ったが吉日と駆け込んだが、息苦しいな……。
そもそも、氷菓が怒って家に帰ったのは俺がいらんことを言ったせいだ。思い返せば、あの時俺が氷菓に投げつけた言葉は、簡単に言えば「お前は幼馴染なんかじゃねえ」だ。
だが、元はと言えば氷菓が俺に対して辛辣すぎたというのがある。そう、氷菓は俺にとって幼馴染だった存在だ。決して今幼馴染であるという感覚はない。まあもちろん、氷菓は他の女子に比べて格段に話しやすい(というか話せる)ことには変わりはないのだが、正直俺たちは終わった関係だと思っていた。
しかし、氷菓はどうやら違ったみたいだ。
――というのが、この一連の氷菓の行動でわかる。
まあもちろん俺の言葉がきつかったのもあるが……。それでも、普段の氷菓なら俺に背を向けて帰るなんて言い出すことはなかったはずだ。絶対罵倒してくるもんな、反撃しない訳がない。
あれこれ考えている間も、氷菓は気まずそうに口を尖らせ、体育座りで自分の脚先をコネコネと触っている。
仕方ない、話さなきゃ始まらねえしな……。突撃までした訳だし。
俺は何とか息を吸い込み、氷菓の方を見る。
「氷菓……」
「何よ」
「昼間はその……悪かったな」
「…………思ってもないくせに」
「んなことは……! ……いやまあ、正直めちゃくちゃ悪いとは思って……ないけど……」
すると、氷菓はキッと俺を睨みつける。
「ほらやっぱり! あんた何て所詮その程度の生物よ!」
「生物!?」
「こっちの気も知らないで、勝手に被害妄想して……有り得ない!」
「被害妄想だあ?」
おいおいおい、それは聞き捨てならねえぞ。
「被害妄想ではねえだろうが! 散々罵倒され続けたんですけど!」
「ば、罵倒はそうだけど……愛の鞭みたいなものでしょうが!」
「愛の鞭ぃ!?」
思わず虫唾が出る言葉を放つ氷菓に、俺もただ事ではないのだなと改めて実感する。
やはり、俺達は何かずれている。
「おま……お前に愛なんかねえだろうが!」
「あるわよ、多少は!」
「俺のこと絶対嫌いだっただろうが! 急に話しかけなくなったり、罵倒し始めたり!」
「罵倒イコール嫌いとかどういう方程式よ! ボケとツッコミって関係もあるでしょうが!」
「それはお互い信頼してるから出来ることだろうが! エンターテイメントだよ!」
「ああもう、ああ言えばこう言う!! そういう所は嫌いよ!」
「余計なお世話だよ! お前の何考えてるか分からないところは俺も嫌いだよ!」
俺たちは肩で息をし、思ったことを次々と口に出していく。
幼馴染だったのは中学まで。もう何のかかわりもなく、たまたまクラスが同じになってしまったただのクラスメイト。気が付けば罵倒され、鼻で笑われ、ボッチと罵られる。陽が氷菓と友達になったから俺もなし崩し的に関わり合いが増えただけだし。……陽が居なきゃ一緒になんか出掛けなかった。
「……お互い嫌いならもういいでしょ。この話終わり。もう帰ってよ」
「ああ、帰ってやるよ! せっかく来てやったのによ!」
「あんたが勝手に来たんでしょ、バカみたい」
「ちっ……うぜえな。陽だって心配してたから来てやったんだよ」
「いいのよ、雨夜さんはもう友達だし。伊織が居なくても話せるし」
「陽は俺の為に高校に来たんだぜ? 俺とお前どっち取ると思ってんだよ」
「何その言い方……。どうせ好きなんでしょ、雨夜さんのことが。本当単純」
「はあ!? 何でそうなるんだよ! ただの幼馴染だって言ってんだろ!」
「ハンッ! どうだか。デレデレしちゃって」
意味わからねえ奴だな……陽のどこがそんな風に見えるってんだよ。
……まあ確かに距離感近くて心臓持たないことはあるが……。
「本当中学から変わってない。有り得ない。だから私からも見放されてボッチになるのよ」
「うるせえな! そもそもなんで急に無視しだしたんだよ! 俺何もしてねえだろうが!」
「したわよ!」
「何したってんだよ、言ってみろよ!」
「嫌よ、面倒臭い」
「ああ、そうかよ。どうせ嘘なんだろ。誰かにそそのかされたとか、下らない理由なんだろ」
「違うわよ! そんな奴らと一緒にしないでよ、私はイジメでやったんじゃない!」
「じゃあ何だってんだよ、お前の名誉の為に言ってみろよ」
「んん~~!!」
は、どうせ大した理由もねえだろう。こんな話どうだって……。
すると、氷菓は眉を八の字にし、少し気恥ずかしそうにしながら俺の目を見る。
「どうした、どうせ言えない――」
「あんたが…………」
「俺が?」
「あんたが…………あんたが変な女好きになるからでしょうが!!!」
「……は……はあ!?」
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