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東雲氷菓と薄着

「やっぱり居たな、ひょう――――か…………あっ」

「だーかーらぁ…………!」


 目の前には、キャミソールにパンツという恐ろしい程の露出でしゃがみ込む氷菓が、涙目で俺を睨みつけていた。


 キャミソールから見える谷間や、しゃがみ込む足のライン……。


 あっこれやばっ――


「待てって言ったでしょうがあ!!!」


 氷菓の渾身の右手ビンタが、俺の左頬を捉える。


 バチーン!! っと、耳が破裂するほどの音と、身体の芯から震える衝撃。一瞬で走馬灯が頭の中を駆け巡る。


「す、すいませんでしたああ!」


 俺は反射的に目を瞑り、すぐさま全身全霊で土下座する。颯爽と意を決して氷菓の部屋に飛び込んだというのに、この仕打ちはあんまりだ。


 だって思わないじゃん! こんなラフな格好で部屋にいるとか!! もっとこう、着の身着のままで落ち込んで座り込んでるとか思うじゃん!? なんでそんな恰好なんだよ! もっとそれっぽく落ち込んでろよ!


「……本当最悪……」


 虫を見るような目で氷菓が俺の前に仁王立つ。もちろん、着の身着のままな訳だが、俺が頭を上げられる訳もなく、素足だけが視界に写る。


「すいません……」

「……部屋、出てて」

「え?」

「着替えるから、外で待てっていってるのよ」

「あ、ああ……」


 俺は氷菓の方を見ないように、そっと氷菓の部屋のドアを開けると、廊下に出る。


 後方でパタンと扉が閉まる。


 何とか家には入れて貰えた……のか?


 しばらくして、中から上にパーカー、下にショーパンを履いた氷菓が出てくる。


「お待たせ……」

「お、おう……」

「さ、帰って」

「さ、帰ってって――はあ!? せっかく来たのに帰れってか!?」

「当たり前でしょ! 不法侵入! 変質者! さっさと帰ったら私のあられもない姿を見た事は許してあげてもいいわ。だから帰って」

「おま、おま……!」


 言い訳出来ないのがつれえ。

 つれえが、ここで引き下がるわけにはいかない……!!


「た、頼むから少し話しようぜ? な?」

「やけに今日は引き下がらないわね……あんたと話すことなんてないから……」


 氷菓は少し俯き気味にそう言う。


「……少しくらいいだろ? 減るもんじゃねえし」

「そう言う問題じゃない。今はそう言う気分じゃないの。本当しばらくそっとしておいて」

「氷菓……」

「もう話すことないわ。私を怒らせないで。……いいから帰って」


 予想意外に頑なな氷菓。さすがにこれ以上は無理か……。

 やっぱり出直して――


「あらあ!? あらあらあ!? もしかして……伊織君!?」

「え?」


 階段の下から声を掛けてきたのは、氷菓と同じような顔をした、これまたスタイルの良いほんわかした女性……そう、氷菓の母さんだ。


「お、お母さん!? いつ帰ってきたのよ!?」

「今よ、今! まさかまた伊織君が来てくれるなんて……何か食べ物出すわね!」

「いいってお母さん! もう帰るんだから!!」

「隣なんだからまだいいでしょ。ほらほら、部屋に入って待ってなさい。いやー嬉しいわね。また二人が仲良さそうで」


 そういって、おばさんはルンルンでキッチンへと向かっていく。


「……」

「……」


 俺と氷菓は顔を見合わせる。氷菓ははぁ!? という顔を浮かべ腰に手を当て抗議する姿勢を見せるが、俺はどうしようもないだろと肩を竦める。


 少しして、氷菓は大きくため息をつく。


「――はあ。もういいわ。お母さんに捕捉された以上もう無理……。少しだけ上がって行けば」

「お、おう……!」

「私があんたの話とやらを聞くかはわからないけどね」


 こうして、おばさんの協力? もあって、俺は何とか氷菓との話し合いの場につくことが出来た。

 今度お礼をしないとな。ナイスタイミングで帰ってきてくれたもんだぜ。


◇ ◇ ◇


「…………」

「…………」


 沈黙した重苦しい空気が流れる。


 さっきから氷菓は一言も発さず、体育座りをしてじーっと自分の指の爪を眺めている。


 俺は俺で、何から話していいか分からず、正座した状態で爪を見る氷菓の方をぼんやりと眺める。


 くそ、部屋に突入するまでは言ってやるぞ! って気分で来れたんだが、いざ到着すると決心が揺らぐ……。


 だが、ここで引き下がってたら来た意味がない。

 何としても何らかの話はする! たとえ今後二度と関わることがなくなったとしても!


 俺は意を決して一言目を口にする。


「……氷菓?」

「…………」

「氷菓さん?」

「…………何よ」

「あの――」


「はーい、お菓子持ってきたわよ~! あとジュース!」


「「!?」」


 俺は慌てて正座を正す。

 さっきまで何を話そうとしていたかは一気に頭から飛んだ。


 エプロン姿の美人な母親は、おぼんからお菓子やジュースをテーブルに並べると、ニコニコした顔で俺を見る。


「いやあ、伊織君大きくなったね?」

「は、はあ……」

「絶対イケメンになると思ったわよ! 予想通りね」

「そ、そうですかね……はは」


 なんで知り合いの母親ってこうも気まずいんだろうか。

 向こうは相手が子供だからずけずけ来るんだろうが、こっちとしては大人の対応は難しい……。


「氷菓も伊織君と話さなくなってから元気なくてねえ」

「お母さん!!!」

「何よこの子ったら……でね――」

「いいから! かえって!」

「あらあら、二人の方が良かった?」

「そう言う意味じゃないけど……ああもう!」


 どうやら氷菓と言えども母親には逆らえないようだ。

 完全に手玉に取られているな。


「じゃあごゆっくり~! お母さんは下で静かにしてるわね」

「うるさい! ああもう! 早く!」

「はいはい、じゃあね」


 そう言って、氷菓がぐいぐいとおばさんの背中を押し、やっとのことでおばさんは階段を降りていく。


 氷菓はやや強めにドアを閉めると、ドサッと座り込む。


「……はあ。何か毒気抜かれたわ」

「そうだな……何か懐かしい気分になったよ」

「……で、話って何よ」

「聞いてくれるのか?」

「聞かないとあんた帰らないでしょうが! いい? 私は今あなたに心底幻滅してるの! 会ってあげてるだけでも感謝してほしいわ!」

「そ、そうっすか……」


 さて、何から話すか……。

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