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真島伊織は後悔する

「何だよ氷菓のやつ……」


 怒ったのはわかるけど、帰る必要ねえだろ……。いつもみたいに罵倒すればいいじゃねえか。

 なんで急に……。


「伊織……さすがにないよあれは……」


 陽が、寂しそうな顔で俺を見る。


「……お前まで氷菓の肩持つのかよ」


 わかっている。今回ばかりは俺の方が100%悪い。わかってはいるが……今までのことを考えればトータルでプラマイ0のはずだ。なんで俺が攻勢に出ただけでこうなるんだよ。


「だって氷菓ちゃんの友達だもん」

「俺たちは幼馴染だろ?」

「尚更だよ……。私は伊織がそんな奴じゃないって知ってる……事情はわからないけど……。転校してからの伊織のこと全然知らないのが凄い悔しいけど、氷菓ちゃんとの仲がただの幼馴染じゃないってのはわかるよ。でも、口から出た言葉は簡単に消せないよ。嘘でも本当でも」

「…………」


 陽の言うことは、ぐうの音も出ない程正論で。自分ではそれが正しいことを言っているとわかっている。

 けれど、どこかで認めたくないのも事実だった。


 言ってやったという達成感と、言ってしまったという罪悪感。

 本音と誇張と嘘が入り混じった言葉を吐いてしまった以上、簡単に否定できないのだ。人間が嘘を付けない生き物だったならば、どれだけ楽だったか。


 陽の顔はさっきまで元気ハツラツとは打って変わり、どんよりと曇っている。

 さすがにこのままはマズイか……。


「……電話でないね。電源切ってるみたい」

「しょうがねえ……。折角だし二人で続き回ろうぜ。もしかしたらあいつも戻ってくるかもしれねえし」

「そうだね……いこっか」


◇ ◇ ◇


「い、いいんじゃねえか? この服とか。何か、キラキラしてるしー……」

「どうかな……」


 女物のアパレルショップは正直居心地が悪すぎる……。男物でさえ店員の目が怖くて十秒以上滞在できないってのに、ハードルが高すぎるんだよ!


 陽の中ではきっと氷菓と二人でワイワイ見て、俺はそれを外からのんびり眺める……みたいな予定だったんだろうな。


 しかし、案の定と言うべきか。陽のテンションは氷菓が帰る前とは雲泥の差で、どの服を適当にいいんじゃね? と言ってみても、反応が薄い。


「……次行くか?」

「そうだね。あっちにいい雑貨屋があるんだ。ちょっと気になってて」

「行こか」


 こじゃれた雑貨屋には、皿やコップに始まり、ちょっとした小さな家具や、キッチン用品まで幅広く取りそろえられていた。引っ越してきたばかりの陽にはちょうどいい店だ。


「そう言えば陽ってこっちでどうやって住んでるんだ?」

「アパートだよ。一人暮らし」

「まじかよ……羨ましいな」

「だから今物が全然ないんだ。ちょっといろいろ見たくて」


 やっぱりな。

 一人暮らしとは予想外だったが。すぐに俺と再会したのも寂しさがあったのかもなあ。


 しかし、雑貨を見る目はやはりどこか悲し気で……。


「氷菓ちゃんとも来たかったな……」

「……あぁもう、悪かったよ! 俺が悪かったって!!」

「そんなこと――」

「わかってるよ、自分で……はぁ。なんであんなこと言っちまったかな……」

「……氷菓ちゃんって結構物怖じしない性格だよね」

「ん? まあそうかもしれねえけど……」

「私、転校生だからなのか、皆からまだ距離があって……。男の子は話しかけに来てくれるけど、女子は殆ど話してくれなくて」


 あ~……これだけ美人だと男は寄ってくるけど、女は嫉妬で近づかないって訳か。


「でも氷菓ちゃんは私と友達になってくれた初めての女の子だから。……まあ殆ど強引にだけどね、えへへ」

「……氷菓も満更じゃない様子だったけどな。あんな素っぽい氷菓はクラスじゃ見れないぜ?」

「素っぽい?」

「あぁ。あいつクラスだとカースト上位勢のリア充と絡んで、いつも楽しそうに話してるぜ。でも、多分ありゃ無理してるな。普段俺に言うような暴言とかも無くていつもニコニコしてると言うか――」


 ……あぁ、そうか。

 その時、ハッとする。俺もなんやかんやわかってるじゃないか。


「…………」

「伊織?」

「早くあいつと話した方がいいな、多分」


 すると、陽の顔がパーっと明るくなる。


「うん……うん! そうと決まれば行こう! 今すぐ!」

「そうだな。行こう」


◇ ◇ ◇


『ピーンポーン』

『ピーンポーン』


 チャイムを鳴らすが、誰か出てくる様子はない。

 まだ帰っていないのか、居留守なのか……。


「出ないな」

「そうだね……明日出直そうか?」

「だな。ここで粘っててもしょうがねえし」

「……今日はありがとね。途中からああなっちゃって残念だけど……映画は楽しかったよ」

「あぁ。俺もすげー久しぶりに土日に外出たよ。意外と悪くねえな、幼馴染も」

「あはは、良かった。また遊ぼうね。今度は家に遊びに来てよ」

「おう、陽の家――って一人暮らしじゃねえの!?」

「そうだよ? 遊ぶなら丁度いいでしょ?」

「そ、そうだが……」


 こいつ、余りにも無防備すぎねえか……?

 こんな美人の家にホイホイ人上げてどうするんだよ……悪い男に騙されそうだな……。


「もう少し警戒心もてよな。一人暮らしはあぶねえぞ。人なんてポンポン上げてたら何かあってもしらないぞ」

「誰でもじゃないよ。伊織だから家に入れるの抵抗ないだけだから」

「…………」

「――あと、氷菓ちゃんもね」

「だっ、だよな!?」


 あぁ、びっくりした……本当こいつはよくわからん……。


「それじゃあね。明日また氷菓ちゃんと話そう。夜一応もう一回電話かけてみるよ」

「あぁ、頼む。それじゃあな」


 そうして陽と別れた。


 無人の家の鍵を開け、自分の部屋へと上がる。


 シーンと静まり返った家。瑠香は出かけ中か。


「…………」


 氷菓……くっそ、何で俺があいつの為にこんなモンモンとしなきゃいけねえんだ。


「……はあ。当然か。あれは俺が悪かった」


 ――だめだ。


 明日になったら、きっと俺はまた氷菓との距離が戻る気がした。

 せっかく陽との出会いがきっかけで、また氷菓との距離が縮まった気がしたのに。明日の俺はきっと、そんな気持ちなんか忘れてまたどうでも良くなるんだ。俺はそう言う男だ。


 明日やればいいやって思ったことを、翌日出来たためしがない。


 部屋の窓から隣を見ると、カーテンが閉まっていた。

 この時間からカーテンが閉まっている……つまり、()()ということだ。


「今しかねえよな。踏み出すなら」


 俺は窓の鍵を開け、そっと開いた。


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