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東雲氷菓はニヤニヤする

 電車に乗り込み、横一列に陽、俺、氷菓の順に座る。

 土曜で人が多いが、俺達が座れるだけのスペースは空いていた。


「んで……今日の予定はどうなってるんだ?」

「今日はね、まず十一時の映画を見て、十三時にお昼を食べます」

「へえ。昼は決まってるのか?」

「何個か候補はピックアップしてあるよ、任せて!」

「すごい準備ね。どんだけ楽しみだったのよ」

「楽しみに決まってるよ! 転校して最初の友達とのお出かけだからね。しかも幼馴染の伊織まで!」


 すると、氷菓が身を乗り出して咆える。


「私がいつ友達になったのよ!」

「えーお弁当食べさせあった仲じゃん」

「そ、そうだけど……はぁ、まあいいわよ。別に友達なんて多くても困るものじゃないし」


 素直じゃねえなあ。

 でも最近、氷菓の態度は前より柔和になった気がしないでもない。陽の影響だろうか? まあ相変わらず俺に対してはツンツンだが……いや、でも前よりは俺に対しても甘くなったか……?


 氷菓も大人になってきたということか……感慨深いねえ。


「――で、十四時くらいからショッピングモールでお買い物!」

「いいんじゃないの、無難な計画で」

「無難な計画って……もっといいかたないのかよ……」

「褒めてもらえて嬉しい!」

「褒められてねえんだよ! お前も大概だな!」


 はあはあ、こいつら、噛み合ってないんだか噛み合ってるんだか……俺がおかしいのか?

 そうだよな、美少女に挟まれてる男がおかしくない訳がなかった。


「でも私、氷菓ちゃんにはすっぽかされると思ってたよ」

「いや、私を何だと思ってるのよ……」

「割と誘うのも強引だったからね。伊織がくるから来たんでしょ?」

「ばっ……! んなわけないでしょうが! あんたがどうしてもって言うから来たのよ、勘違いしないでよ!」


 そうだぞ、そんな発言してたら鉄拳が飛んできますよ。

 今はまだ距離感探りあぐねてるから抑えてるだけだぞこの氷の女は。


「ふふ、どうだかなあ。でも、今日は氷菓ちゃんとも仲良くなりに来たんだ」

「どうせ伊織と二人で来たかったんじゃないの?」

「それはまたいつでもこれるから」

「……なかなか言うわね」


 なんだか見えない火花が散っているような気がする……俺を間に挟んでやるな、鬱陶しい!

 仲良くなってきた気がしたのは気のせいか?


「だから今日は氷菓ちゃんともっと親しくなるプランを練っております!」

「へえ、楽しみにしてるわ。精々私を楽しませてね」

「任せて!」


◇ ◇ ◇


 しばらくして。

 目的の駅に着き、プラプラと歩きながら大型の映画館へとたどり着く。


 改装された映画館はかなり巨大になっていて、シアターがなんと8つもある。この街にそんな一気に人が来る可能性があるのかよ思わないでもないが、現に中には人が大勢いた。さすが土曜日と言う感じだ。すでにこの人ごみに俺は酔いそうになる。


「うっぷ……人ごみは慣れん……」

「ちょっと、人ごみで具合悪くならないでよだらしない」

「悪い……久しぶり過ぎて……」

「ひきこもってばっかりだからよ」

「大丈夫大丈夫、今後は私がもっと外に連れ出すから!」

「か、勘弁してくれ……」


 何とか人ごみを抜け出し、俺達は上映予定の映画ポスターが並んだ壁際へとやってくる。

 恋愛ものやサスペンス、ホラー、アクション、アニメ……より取り見取りだ。


「映画ってどれ見るのよ? 結構あるけど……」

「予定は十一時だし何見るか決めてきてるんだろ?」

「もっちろん! 男女で来ると言えば、ホラーでしょ!」


 そう言って指さすのは、女の幽霊がでかでかと映ったいかにもな和風ホラー映画だ。

 こういうの苦手なんだよなあ……。


 と、不意に陽が俺の腕に抱き着いてくる。


「うおぁ!? 急に抱き着くな!」


 む、胸が……! なに、何ですか!? ご褒美ですか!?


「出た変態女! 毎回毎回何やってんのよ!」

「あはは、合法的に抱きつけちゃうでしょ、ホラーなら」

「あんたホラー見る前から抱き着いてるじゃない……古い知り合いだからって限度があるわよ……」

「い、いいから放せ! 周りが見てるだろうが! ――ったく、何がしてえんだ……」


 俺は何とか陽の抱き着きを振りほどき、服を正す。

 正直離れたくはなかったが、さすがに外で平気なほど脳はピンクにはなっていない。


「ふっふっふ、私が男じゃないってことを証明してあげようと思ってね」

「今更思ってねえけど…………証明するのに必死かよ」

「何その話、気になるんだけど」

「それは昼の時にね。ささ、チケット買いに行こう! ホラーが待ってるよ」



 レジも長蛇の列で、陽はチケット列に、俺と氷菓は売店の列に並ぶ。

 俺たちがジュースやポップコーンを買って後で合流する寸法だ。映画と言えばポップコーン! 外せねえよなあ! ……まあ家で映画見るときにポップコーンなんて食べたいと思ったことは一度もないが、こういう場所にくるとつい買いたくなるんだよなあ。


 と列に並んでいると、壁際の方で誰かを待っている風の男を見かける。

 あれ、どこかで見た事あるような……。


 金髪で、やたらイケメン……ってあれ……まさか。


「おいおい、あれ……お前の友達じゃね?」

「え、どれ? ……うっわ、真人だ……最悪、こんなところ見られた!? 絶対健吾も居るじゃん! バレない様に……」


 っと、氷菓が俺のジャケットの裾を掴み、俺の後ろに隠れる。

 ――が。


「……うわこっち見てるよ……バレたし…………」


 真人というイケメンは、なんだか少し驚いたような表情をした後、ニコっとはにかみ軽く俺たちに会釈してくる。少しして、真人の横にこれまた氷菓とよく一緒にいるギャル男っぽい男が(おそらくこいつが健吾だろう)合流すると、そいつもこっちを見て元気よく手を振ってくる。


「んん!? あれ……おーい、ひょう――んがっ!」


 と、健吾が氷菓に声を掛けようとしたところで、真人が強引に健吾の口を抑えてどっかへ引っ張っていく。チラッとこっちを見て、少し申し訳なさそうな顔で頭を下げる。


 まるで、()()()()()()()()()()()()()。とでも言いたげな表情で。

 

「あれ、完全に勘違いしてるよな……?」

「最悪……月曜に弁解して回らないと……。真人だけならまだしも健吾にみられたのはヤバイ」

「勘弁してくれ…………俺の命が脅かされるんだぞ……」

「はあ!? 私があんたと二人で映画行ってたって噂される方が百倍屈辱なんですけど!?」

「あぁ!? 学年のアイドルと一緒に映画にいった陰キャがいるって全校生徒敵に回す俺の方が悲惨だろうが!!」

「あ、アイドル……?」

「あっ……」


 くっそ、そういうのは絶対に言わないって決めてたのに……!


 氷菓は急にニヤニヤした表情で俺のことを見上げる。

 心なしか少し赤くなっている気もする。


「へえ、アイドルって思ってたんだあ……」

「思ってねえ! 周りがって話だ! 俺は微塵も思ってないからな!」

「へえそうかあ、へえ」

「ああうっさい!! ほら、順番来たぞ、買うぞ!」

「はいはい」

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