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東雲氷菓は目を瞑る

「あた、あた、あん、ああああ――!!」


 目をかっぴらき、氷菓はパクパクと口を開きながらこっちを指さす。


「な、何を言いたのかわからん……」

「どうしたんだろう、氷菓ちゃん。おーい、こっちおいでよ~」

「呼ぶの!?」

「何か混ざりたがってそうじゃない?」

「んなわけないでしょうが!! あ、あ、あんた達何やってるのよこんなところで!!」


 と、勢いよく氷菓が俺達の方へとやってくる。


「何って、め、飯を食ってただけだが……」

「ま、またいかがわしいことしてたでしょ! 見てたわよ!」

「……し、してたか?」

「してないよ~?」


 そうだ、良く言ってくれた。してたなんて言ったらまた昨日みたいに暴れ出すぞ。


「私が食べさせてあげてただけだよ?」


 それのことだよおおおお!!

 馬鹿なの? この子バカなの!?


「やっぱりしてるじゃないの!! 校内でそんな……」

「まて氷菓、別にいかがわしいことじゃない」

「はあ?」

「友達同士なら誰でもやることだ」

「んなわけないでしょうが!」

「いや、まじだって。何なら俺がお前に食べさせてやろうか?」

「!」


 ま、氷菓が俺から食べさせてもらうなんてことを許容するはずがねえだろうがな。

 だが、まあこれでいい。こいつの謎の怒りの矛先を、俺が食べさせてもらったという事実から逸らして、俺から食べさせてもらうなんて願い下げよ! って方向にもっていければいい。


 二つのことに同時に怒るなんてのは無理な話だ。上手く誘導出来れば普段通りの罵倒で丸く収まる。我ながらなんて天才的な作戦なんだ……俺って頭脳派だったっぽい?


「あっえっ……? そう……?」


 すると、氷菓は少し動揺した様子で視線を泳がし、意を決したように陽と反対側――つまり、俺の右隣りに座る。


「は……?」


 ――いや待て、何でこいつ俺の隣に座ったんだ……?


 氷菓はぎゅっと目を瞑ると、少し震えながら口を開く。


「……氷菓さん?」

「と、友達同士だったらするっていうなら……食べさせてみなさいよ!!」

「!?」


 タベサセテミナサイヨ?


 一瞬逆に俺が混乱する。

 なんだって? こいつ今なんて言った?


「いやいやいや、まじ?」

「な、何よ、友達だったら誰でもやるんでしょ?」

「そ、そうだけど……」


 と、友達だったか? こいつと俺は……。

 何かよくわからなくなってきた……でもここで友達じゃねえよ! なんて言ったら余計ややこしくなりそうだし……。


 つーかそもそもこいつは何で俺と陽が何かしてるとキレてくるんだよ……寂しがり屋か? 今までストレス発散に使ってたサンドバッグが他人に取られてストレス溜まってんのか?


 よくわからねえが……このままじゃどうにもならんことだけはわかる。


「何よ、やっぱり無理なんじゃ――」

「やってやるよくそ!!」

「! や、やってみなさいよ!」


 氷菓はあーんと口を開いて目を瞑っている。


 白い肌にぷるっとした唇……ぴくぴくと震える瞼。やば、何かこの絵やばいだろ……。落ち着け、これは氷菓だ。見慣れた女だ。いつも暴言ばかり吐く氷の女だ……動揺するな、俺。


 俺は恐る恐る右手に鮭おにぎりを持つと、ゆっくりと氷菓の方に近づける。

 少しずつ距離が近づく。おにぎりと氷菓越しに、陽がワクワクした表情でこちらを見ている。


「んっ……」


 おにぎりが氷菓の口に触れる。ぷにっとした感触が、おにぎり越しに僅かに伝わる。


「はむっ……」


 そのままおにぎりに噛みつき、氷菓はモグモグと口を動かす。


「…………まあ……無難に美味しい……」

「そ、そうか……」

「うん……」


 なにこれ!? 何この状況!?

 何で俺は氷菓におにぎり食べさせてるの!? なんで奥の陽はそんな楽しそうにこっち眺めてんの!?


「へへ~いいねえ。私のも食べてよ氷菓ちゃん!」

「は、はあ!? あんたとは別に友達じゃ――」

「いいからいいから! あーん!」


 そう言って、陽は強引に氷菓にから揚げを押し付ける。


「ちょっ……んぐっ……」

「ふふふ、どう?」

「――美味しいけど……」

「わーい! これで友達だね、私達も」

「なんでそうなるのよ!?」

「食べさせあったら友達なんでしょ?」

「そんな訳ないでしょ! 何言ってるのよ!」

「えー、だってそうだから伊織から食べさせてもらったんじゃないの?」

「!! …………そ、そうだけど……」


 おうおう、なんかすげー氷菓が押されている……凄まじいな陽……。

 いいぞもっとやれ。何がどうなってるか俺もよくわかんなくなってきたが、もっとタジタジさせてやれ。


「あっ! 氷菓ちゃんも一緒にお昼たべようよ!」

「はあ? いいわよ私は。なんで伊織なんかと一緒に食べなきゃいけないのよ、誰かに見られでもしたら自殺もんだわ」

「おいおい……言いすぎだろ。泣いちゃうぞ」

「ここ誰も来ないから大丈夫だよ? って伊織が言ってたし、いいじゃん!」

「……」


 陽のカラッとした押しに、気付けば氷菓は根負けし、急いで教室に戻ると自分の昼ご飯を持って帰ってきた。


「おい、いいのかよ。一ノ瀬さんと昼食べるんじゃなかったのか?」

「いいのよ。梓は急に彼氏に呼び出されてどっか行っちゃったから」

「そうか」


 こうして何故だか三人でもぐもぐと昼ご飯を食べることになった。

 ただでさえ陽と食べるという訳わからん状況だったのに、それに氷菓まで加わるとは……。


 遠くから見れば俺は美少女二人に挟まれた状態ということだ。男子が見たら発狂もんだな。人気が少ない場所でよかった。俺の平穏が脅かされるのだけは勘弁してくれ……。


「そうだ、ねえねえ伊織?」

「なんだよ」

「今週末さ、一緒に買い物行かない?」

「ぶっ!! ゲホッゲホ」


 陽の提案に、突然氷菓が咽だす。


「はあ!? あんた図々しすぎでしょ!」

「おいおい、別にお前は関係ないだろ……買い物って何買うんだよ?」

「買い物はついでで、実は見たい映画があってさ~。映画見て買い物してってしたいんだけど……友達って伊織しかいないし、一緒にどうかなって」

「…………」


 映画か……確かに最近見てないな。そういや近所の映画館が改装したっていってたよなあ。

 ちょっと気になってたんだよな。映画ってどうしても一人じゃいかねえし、瑠香のやつも興味ないから行く機会なかったんだよなあ。


「――まあ、たまにはいいか。行こうぜ」

「やった!」

「はあ!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ伊織! あんたに映画が楽しめる訳!?」

「なんだよその訳の分からん心配は……」

「いや、だからその……伊織の頭で映画をその、理解できるのかって話よ!!」

「バカにし過ぎでは?」

「うぅ……」


 氷菓はなにかアワアワした様子で眉を八の字にしている。

 余程俺が映画を楽しめないと思っているらしい。


 ――あっそうか、俺が楽しめないと陽が楽しくないでしょうが! っと陽のことを心配してるのか。意外と友達思いなんだなこいつ。


「心配なら氷菓ちゃんもついておいでよ! 一緒に行こうよ」

「えっ、私も!?」

「うんうん、伊織のことが心配なんでしょ? ふふふ」

「…………別に心配とか……」

「じゃあ二人でいこっか、伊織」

「あ、ああ別に俺は構わないけど――」

「行く!! 行きます!! あんた達だけじゃ不安だわ! 私も映画見たかったし!」

「決定~!」


 こうして、俺達は映画に行くことが決定したのだった。


 友達と映画を見に行くなんて一体いつぶりだろうか。

 ……いや、初めてかも。

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