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ある日突然『魔女』になりまして  作者: 灰羽アリス
第三章 『惚れ薬』騒動
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7 イケメン英語教師を誘拐した!


「で、連れて来ちゃったと……」


「てへっ」


「ひなこちゃん、これ誘拐だよ?」


「主人が犯罪者とかさいあく」


 私のアパートの部屋。

 赤星くん(赤星ちゃん?)とジジが呆れたため息をつく。


「だって、危なかったんだよ? 宮崎さん、中村先生のこと押し倒してるし。いまにも美味しく頂かれちゃいそうだったんだから!」


 去年の冬だったか。中村先生の自宅で同僚教師数人を集めての鍋パをするというので、私もちゃっかり参加した。なので、中村先生のアパートの場所も部屋番号も把握済。

 中村先生のお部屋さくらコーポ601号室のベランダに降り立ち『通り抜け魔法(初級)』で室内に侵入。眼前に飛び込んできた光景に、私は大いに焦った。

 ブラに制服のスカートだけ身に着けた宮崎さんが、ベッドに横たわる中村先生の服を脱がせにかかっていた。


「ぎゃーーーーー!!!」


 私の悲鳴に宮崎さんの手がストップ。振り向き、彼女もまた絶叫。無理もない。そこには真っ黒なローブ(理科室の遮光カーテン)に身を包んだ怪しげな女が強風(魔力の暴走)をまとって立っていたのだから。どっから入ってきた? 玄関の鍵は閉めたのに。まさか窓? ここ6階なんだけど。てか、誰!? って顔してた。


「キエーーーーーッ!」


 私の体は俊敏に動いた。唖然と固まる宮崎さんに向かって突進。頭突きを食らわせてはっ倒し、半裸の中村先生を確保。続いて中村先生の体に『浮遊魔法』をかけ、引っ張るようにして一緒にベランダからダイブ。そして無事、私のアパートに連れてきましたとさ。おわり。


 なんて完璧な奪取劇。侵入から退散まで1分という特殊部隊もびっくりの早業だ。

「ぎゃー!」「キエー!」しか発言していないので、まさか中村先生を連れ去った黒衣の女のが『社会の森山先生』だとは宮崎さんも気づくまい。


「で、どーすんの、これ」


 中村先生の額を赤星くんがつんと押す。押された方向にぱたりと倒れる中村先生。倒れたまま、微動だにしない。その目は空虚だ。


「人形みてえ」


 そうなのよね。『惚れ薬』による魔法がかかっているうちは魔法をかけた相手、つまり宮崎さんにしか反応を示さないのか、彼女がいないこの場の彼はまるで人形だ。なされるがまま。しゃべることもしない。


「えいっ! えいっ!」


 『痛いことをしているのに何も反応を示さない人間』が面白いらしい。ピンキーちゃんがえいえい中村先生の頭を蹴っている。ちびっこ幼女に蹴られる巨人男。なにこの弱肉強食をがん無視した図。1ミリも痛くないだろうけど、視覚的にアレなんで止めておく。


「ひなこちゃんの薬飲むまでずっとこの状態?」


「いや、『惚れ薬』の効果時間は一週間だから、『解呪の薬』を飲まなくても一週間経てば自然と元に戻るわ」


「……まさかとは思うけどさ、このまま中センを一週間ここに監禁するつもり?」


「つもり!」

 

 だって、このまま家に帰したら宮崎さんの餌食になることは目に見えてるもん。

 いますぐ『解呪の薬』で治してあげられるならいいけど、それもできないし。


「はぁ? どうすんだよ、学校は」


「そこはうまくごまかすから大丈夫」


 ふふっと笑うと、赤星くんが一瞬口ごもる。ねえ、と問いかける視線には非難めいたものがあった。


「……なんでそんな楽しそうなの?」


「そりゃもちろん、」


 目くるめくラブラブ同棲生活が待っているからさッ!


 中村先生はこの通り、動かぬ人形。促さない限り、立ち上がりも、歩きもしない。トイレにも行かないし、ご飯も食べない、お風呂にも入らない。じゃあ、誰が中村先生をトイレに連れて行く? ご飯を食べさせる? お風呂に入れる? それはもちろん、わ・た・し!


「その顔やめろよ、バカアホ変態!!」


「そーだ、そーだ、バカアホ変態~」


 ……赤星くん、それは言い過ぎでは。あれこれ想像してちょっとデレッとしてただけじゃん。そしてジジ、こんなときだけ合いの手いれないでよね、腹立つ。


「だって好きな人が家にいるんだよ、テンション上がらない方がおかしいでしょ」


 すると赤星くんが可愛い顔を歪めてむすっと言った。


「……風呂には俺が入れるから」


 まったく、やれやれだぜ。赤星くんてば、まだ私への恋心をこじらせてんのかい。

 早く勘違いだって、気づければいいけど。


「お風呂はだめだよ、赤星くん」


「なんで」


「だって赤星くん、いま女の子じゃん。間違いがあってはいけないので、男性と二人きりでの入浴を許すわけにはいきません。教師として」


「間違いなんて起きねーよ!!」


 数分後、やたらそわそわしてた赤星くんがおもむろに立ち上がり、どこへ行くのかなーっと目で追っているとトイレに入った。ああ、尿意を我慢してたのねと納得していると、青ざめた赤星くんが肩を落としてトイレから出てくる。ふらふらーっと床に倒れ込み、一言。

 

「ち○こがない」


 さめざめと泣く赤星くん。さすがに可哀想になった。そもそもこんなことになったのは、私が赤星くんを眷属にして魔法の世界に巻き込んだせいだもん。なんか、笑ってごめん。

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