2 BLなんてカンベンな!
一昨日赤星に命を救われてからというもの、寝ても覚めても考えてしまうのは赤星のこと。色んな場面の赤星の表情が浮かんでは消え、そのたびに俺の心臓は高鳴った。もしかしてこれが恋───?
んなわけあるか。俺はホモじゃねえ! と否定した傍からまた赤星の顔を思い浮かべる。
どうしちまったんだ、俺! しっかりしろ! エロDVDはどこだ、エロ本はどこだ!? お気に入りのAV女優SAKUちゃんで頭をいっぱいにしなければ……!
そして気づけば俺は裏山にいた。犯人は現場に戻るって言うけど、それってこんな心理なのかしら。つまり、もう一度現場の臨場感を味わいたい。しかし現場はいたって平和だった。赤星が殺したイノシシも消えている。
岩に腰かけぼけーっと空を眺めてどれくらい経ったときだろう。草木を踏みしめる足音がして、俺はびくっと顔を上げた。またイノシシが出たのかと身構えたが、違った。
「赤星……」
「あれ、小林?」
きゅん。休日にばっかり出くわすなんて、う・ん・め・い♡
じゃ、ねーよ俺の心臓!! しっかり一定のリズム刻んでろよアホンダラ!
「ちょうどよかった。いっしょに飯食おうぜ」
「飯?」
ひとつ、ふたつ、みっつ。赤星はコンビニの袋を掲げて見せた。
「買い過ぎちゃってさ」
俺たちは並んで岩に腰かけ、昼飯を食った。実にのどかである。俺の心も平静を保っている。なあ、と俺は聞いた。
「赤星は宇宙人なのか?」
赤星は握り飯を喉に詰まらせた。
「は? 宇宙人?」
「だってお前『人間』じゃないだろ」
目を泳がせ、少しの沈黙。
「『人間』だよ。───まあ、普通とは違うけど」
赤星の声に滲む、少しの悲壮感。
……納得できねえ。他人とは違う特別な力を持ってるくせに、なんでこいつ、こんなつまんなそうなんだ?
赤星はいつもそうだ。勉強も運動もできて女にもモテて、人一倍楽しそうな環境にいるくせに、つまんなそうな顔をする。お前が持ってる全てのものは、俺たち凡人が必死に望んでも手に入らねえものだってのに、感謝しろよとか文句言っても、たぶんこいつは「そんなの俺が望んだわけじゃないし」とか飄々と言ってのけるんだろう。ムカつくぜ。
「ああ、剣を出せるのは普通じゃない。あ、もしかして異世界から来た『勇者』だったり──」
赤星がぷっと吹き出した。ゲラゲラ笑いだす。
「妄想力たくましいね、小林クン」
「じゃなかったらなんだよ」
むっとして言い返した時、俺は背後の女の存在にまったく気がついていなかった。
なんせ森は平和で、ピーピー鳥なんかが鳴いてて、空は突き抜けるように青い。俺は完全に気を抜いていた。
「『魔女の眷属』ですわよね、赤星くん?」
ふいに耳元で囁かれた声に驚いた俺は、岩から転げ落ちた。赤星も岩から飛び降りていた。俺たちが座っていたところには、女が座っていた。え……何この子、めちゃくちゃ美人なのだが。黒いローブの下にちらりと見えた制服。間違いない。あれは鈴蘭女学院のものだ。そうだよな、と確認しようと赤星のほうを向いてぎょっとする。赤星は剣の切っ先を女に向けていた。
「お前がこの森の魔女か」
「うふふ、どうかしら。……やだ、怖いお顔。野蛮ですわ」
長い黒髪をかき上げた女は、優雅に足をくんでみせた。うむ、生足エロい。あの太ももになら挟まれて死んでもいいかもしれない。
ていうか、「ですわよ」言葉使う使う女子リアルにいんだなー。ちょっぴり感動。やっぱお嬢様学校の生徒は違うわ~。
ところで魔女ってなんのこと赤星くん?
説明求むの視線は交わされる。というか、二人とも俺の存在などまったく意識していない。
「あのイノシシはお前の眷属だな?」
「だとしたらなんですの?」
「趣味悪いね、あれ、だいぶキモかった」
「は? お前のような汚い赤髪に趣味云々を語られたくないですわ」
「俺のビジュアルの良さに気付けないなんて残念だな。お前処女だろ」
「下種」
なんか言い合い始まったし。勝手に盛り上がっちゃってるし。
いいよ、もう。どうせ俺はモブで主要キャラには一生なれねえよ。もう地面でお絵かきしとくもん。と実際しゃがもうとしたところで、足首に何かが巻き付いた。
「へっ? ぎゃーーーーーーー!」
「小林ー!!!」
足首に巻き付いたのは植物のツタだった。ツタの先は木の枝に絡まっている。ぶら、ぶら、俺は高さ20メートルの位置にある枝から逆さ吊りにされた。
俺は悟った。そっか、俺はそういう役回りなんだな。毎回命の危機にさらされ、主人公に助け出される姫役。よかったじゃん、モブじゃなくて。
すん。俺は繭の中で冬を越すサナギのように冬眠を決め込んだ。
「卑怯だぞ!」
「戦いには卑怯もクソもなくってよ」
「何が目的だ」
「別に目的などありませんわ。私はただ遊びたいだけですの」
「……俺が遊んでやる。だから小林は離してやってくれ。そいつは関係ない」
カッと目を見開く。
───おいおい。関係ないだって?
赤星、それは聞き捨てならんな。だって俺はスーパーマンの親友、ジミー・オルセンだ。
命の恩人のために死ぬくらいの覚悟はできてんだよ。
「俺は赤星の大親友。超・関係者だバカヤロウー! さっきからチラチラとよぉ、生足で誘惑しやがって! パンツ見えてんだよビーーーーッチ! 殺したきゃさっさと殺してみろってんだ! 赤星、俺のことは気にせず思いきり戦え!」
言った! 言い切った!
いまだかつて、誰かにこんなにもはっきりものを言ったことがあるだろうか。いや、ない。
なんだこれ、超キモチー!
「チッ。面倒ですわね」
「あ」
「小林ーーー!!」
足首のツタが切れ、俺の体が浮遊感に包まれる。
3日の内に二回も高い所から落ちるなんてな。神様どんだけ俺のこと嫌いなんだよ。
宙で体が回転すると、こっちに向かってくる赤星と目が合った。赤星はマイケル・ジョーダンもびっくりな跳躍力で15メートルの位置まで飛んでいた。手を伸ばせば届きそうだ。にわかに希望が見えた時、ぞっとするほど冷たい女の声が割り入ってきた。
「〝エクスチェンジ〟」
赤星の体が眩い光に包まれた。最後に見たのは、驚愕に染まった黒い瞳。
どうやら俺はしばらく気絶していたらしい。痛む体を起こした時、そこにはもうあの女の姿はなかった。すぐとなりには、地面にうつ伏せの状態で倒れる赤星が。
「おい、赤星、赤星、大丈夫か?」
「ん、んん……」
赤星が上半身を起こす。違和感にはすぐに気がついた。腰に流れる赤髪。細い腕。きゃしゃな肩からズレ落ちたTシャツ。たわわなふたつのふくらみ───
黒い瞳が俺を見る。そこにはまごうことなき美少女がいた。
赤星(♂)が赤星(♀)になった。え、これなんてエロゲ?
茂みが揺れる。一匹の黒猫が、ゆっくりと俺の方へ歩いてくる。
作者は小林くんが好きだぜ★




