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お狐様の恋愛事情  作者: 橙矢雛都
第1章 出会いと再会と気づき
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6.雪宮家と結界のお札

誤字脱字報告ありがとうございます!

私が読む側の時も、見つけてもスルーしてそのまま読んでしまうことが多いので、改めて見てみると「ほんとだー!」ってなりますよね(笑)





~*~



「もうっ! ここどこ!?」



最初はちょっとした好奇心だった。

人の家、といういつもと違う環境にダメだと思いつつも、穂香はその好奇心に負けた。



「あはは! 見事に迷っちゃったねぇ」

「なんでクロはそんな風に笑えるの?」

「え、なんか楽しくない?」

「全然っ!」



無駄に広い雪宮家は、広大な土地に木造平屋の一軒家。横に広い家。

黒羽と言い合いをしながら、穂香はどの方向へ行けば稀莉の自室へ辿り着けるのかと右往左往していた。

そもそもどうしてこうなったのかと、穂香は数分前の自分に文句を言いたくなってきた。

殴れるものなら殴りたい。そんな気分だ。

だけどそんなことはできないので、何故だか一緒になって迷っている黒羽に八つ当たりする穂香。正直、今だけは黒羽の楽観的な様子が羨ましかった。

雪宮家に到着して、少し早めの夕飯をいただいて、先にお風呂をどうぞと言われたので穂香はその言葉に素直に甘えることにした。

お風呂の後、まっすぐに稀莉の部屋に行けばよかったのに、来た廊下と反対の暗い闇が続く廊下に、発動してはいけない好奇心が発動してしまったのである。

穂香が迷っていたほんの数秒後に、同じく迷っていたらしい黒羽が穂香と合流した。



「でもまぁ、穂香ちゃんが迷うのも無理ないと思うよ」

「どういうこと?」

「だって雪宮家の人間ですら迷うらしいからね。稀絵(きえ)ちゃんも未だ迷うってさ」



雪宮稀絵は、雪宮稀莉の妹。以前の、同級生にお守りを取られ、失くされた子でもあった。

最終的にお守りは稀絵の元に戻ったが、稀絵は姉も認めるほど穏やかでぽやっとした子だ。またいつ失くすことになるやらと、穂香は少し心配していた。

稀絵は今小学4年生。いくら広いといっても、家の中で迷子になるような歳でもないはずだった。

雪宮家の人と黒羽の交友関係が少しばかり気になる穂香だが、何かに気づきふと足を止めた。



「このお札、さっきも見たような…」

「これは結界用のお札だね」

「……ってことは…」

「俺たち、同じ所をぐるぐると歩いてるってことかな」

「やっぱりかぁ~…」



予想したことが当たってしまい、穂香はがっくりとうなだれる。

おかしいはずだった。歩いても歩いても行き止まりになったりしないし、廊下を曲がったりもしなかった。

来た廊下を戻ったこともあったが、お風呂場にすら戻れなかったのだ。

もっと早くにその可能性に気づくべきだったと後悔したのちに、どうすれば抜け出せるのかを考える。

いずれは稀莉も気づいて動いてくれるだろうが、そうなる前になんとかできるものならなんとかしたい。

そう思って、自分よりかはどうにかできる手段を知っているであろう黒羽に聞いてみることにした。



「クロ、何か方法ないかな?」

「…穂香ちゃん、1つ試してみようか」

「え?」

「教えてあげるからさ」



何を、と穂香が聞き返す間もなく、黒羽は何かを呟いた。

呪文か何かだろうと思った穂香のその考えは正しく、真っ暗だったその場に人魂のような明かりがいくつも灯る。

照らされてよく見えるようになったので、壁に貼られていたお札をもう一度よく見つめる。

よく見たところで何か分かるわけではないのだが、お札自体は何の変哲もない普通のものだった。

普通じゃなかったのは込められた霊力の方。

たかが結界、されど結界。使われた道具が普通のものでも、使用者や作成者が異常であればその効果も変わってくる。



「このお札の作成者って、もしかして…」

「…稀莉ちゃんに聞いた話だけど、この家にあるお札だったりの道具のほとんどがおばあちゃんが作っていたものなんだって」



さらに黒羽が聞いたことは、それらは使われずに蔵の中にしまわれていることが多いのだという。

しまわれているはずのものが何故ここで使われているのか、謎なことはいくつかあったが、一旦後回しにすることにした。

今はどうやってこの結界から抜け出すか。

試してみようとは言っていたが、何をどうするかは穂香には分からなかった。

分からなかったけれど、穂香は黒羽が行う動作の1つ1つをよく見ていた。何かを見て覚えるのは得意なことだった。

自分も何か術を覚えられるという興味の方が強かったが、教えてあげると黒羽が確かに言ったので、穂香はその言葉を信じて黒羽からの次の言葉を待つ。


黒羽はこの先、自分や文月丸が関わることがなくとも、穂香が厄介ごとに巻き込まれるであろうということを確信していた。

だから自分が使える「身を守る術」のいくつかを教えておこうと思った。まぁ、今回の結界内に一緒に閉じ込められたことは単なる偶然にすぎないのだが。

黒羽が今、穂香に教えようとしているのは解呪の術。(まじな)いの力が込められたもの、結界などの術を解析し、無効化させるものだった。

術の種類もいくつかあり、それぞれにランクが存在する。



「ランクなんてあるんだ…」

「でも結局は霊力の量と質に術の効果は左右されちゃうんだけどね」

「…ちなみにこれは?」

「解呪の術としては一番下だけど、霊力の高い人はこの術1つで何でもできちゃうよ」



やっぱり才能というものは末恐ろしいと穂香は思った。

とはいえ穂香もそういった才能の持ち主。もっといえば雪宮姉妹もそうだ。世間は狭い。



「よし、それじゃあ… 俺の手に穂香ちゃんの手を合わせて」



言われたとおりに、穂香は自分の右手を黒羽の左手に合わせる。

少ししたら黒羽の手に熱がこもり、微かに発光する。穂香は今感じているそれが霊力の流れであると思った。

その流れがどのようであるか、どのくらいの量なのかを集中して感じ取り、少し無理矢理に体に覚えこませる。

黒羽はその術に必要な技術を、口であれこれ教えるより体験させた方が早いだろうと判断した。

実際穂香には良い方法だ。座学が不得意なわけではないが、感覚派でもあるので体験した方が覚えがよいのだ。



「大丈夫そう?」

「うん、むしろもっと複雑だと思ってた」



穂香の言葉1つで、こういった術においての才能がどれだけあるかが分かる。

元々頭の良い穂香は、気を感じ取るのも上手かった。



「それじゃあ今のを、今度はこのお札に手をかざしてやってみて」



穂香は小さく頷いて言われたとおりにする。お札に手をかざし、黒羽が教えてくれた霊力の流れをそのまま実践した。

かざした手に、ほんのりとした熱と少しの灯りが発生する。

暗闇に浮かぶその灯りは、温かく、優しく、儚くも見えた。



「お!」



感心したような黒羽の小さな声が漏れる。

穂香が行った解呪の術は完璧に作動した。結界に使用されたお札から、術式の文字が消えたのだ。

それはもう、ただの紙だった。効力を失ったからなのか、はらりと穂香の足元にそれは落ちた。

穂香はパッと黒羽の方を見る。何も言わなかったが、ニッと笑みを浮かべて頷いたので、ちゃんと成功したんだということが穂香に伝わった。



「あ、お風呂場…」

「戻ってこれたね」



結界内で迷っていた時間は穂香には分からなかった。

そんなに時間はたっていないと思いたかったが、携帯などの時間が分かるモノを持っていなかったので何とも言えない。

あーだこーだと考えていても仕方ないので、とりあえず稀莉がいるはずの部屋へと行くことにした。

初めて術などというものを使ったからか、穂香の右手のひらはまだ微かに熱を持っていた。

そもそも、人外の存在と関わっていることが普通じゃない。分かっているのに、穂香は自分が術を使ったというのが信じられなかった。目にしたことはあっても、まさか自分が使うなんて、という気持ちだ。



「あ、穂香先輩! お湯かげん大丈夫でしたか?」



途中で稀莉に遭遇した。稀莉はたくさんの資料を両手で抱えている。

穂香と黒羽が自分の家で、結界のお札の作用で迷っていたとは露ほども思っていないようだ。安堵の表情を浮かべた穂香に対して、稀莉はキョトンとしている。

これは… 話すべきかどうか迷うところだった。知らないのなら心配性の稀莉にわざわざ言う必要がないと思ったのもある。



「いや~、結界の中に閉じ込められて、家の中で迷ってたんだよね」

「ちょっ、クロ!」

「……結界? 閉じ、込め…?」



穂香が言いよどんだのに黒羽があっさりと言ってしまった。

慌てる穂香の予想通り、稀莉は顔面蒼白になり、バサバサッと持ってた資料を全て落とした。

拾おうとかがむ穂香の目の前で、稀莉が勢いよく土下座した。床にめり込みかねない勢いだった。

稀莉のせいじゃないだろうに、と思いながらも、そうなってしまった原因は分かっているようなので、それは後で詳しく聞こうと思った。思ったのだが。



「本っ当にすみませんでしたっ!!」



稀莉による勢いある謝罪が止むことはなかった。それはもう、穂香も若干引くレベル。

とはいえこのままこの場所でそれをされ続けたのであれば、穂香は別の意味で疲弊しそうだと思った。

なので稀莉を落ち着かせるためにも、部屋に行こう、と普通のことを提案するのだった。





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