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お狐様の恋愛事情  作者: 橙矢雛都
第1章 出会いと再会と気づき
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小話2 稀莉と黒羽

小話その2です。

穂香が雪宮家に到着する少し前から始まります。

主に稀莉メイン。




~*~



そわそわ、そわそわ。

まだかまだかと、稀莉は家の前で穂香を待ち続けていた。

黒羽と2人で待っていた時、ふと嫌な予感がしたのだ。それは中々消えてくれなかった。

穂香に、何かあったのかもしれない。

そう思って黒羽に様子を見に行ってもらった。彼ならば自分よりも早く穂香の元へと辿り着き、なおかつ助けることもできるだろうと思ったからだ。

行ってもらったのがほんの数分前。家の中でじっと待ってることなんかできなくて、家の前で待つことにしたのである。



「稀莉?」



さらに10分が経過した頃。

稀莉は自分の名を呼ぶ声を聞き逃さなかった。



「先輩! よかったぁ…」

「心配かけてごめんね。クロも来てくれたし、大丈夫だったから」

「なかなか切迫した状況だったけどね」

「余計なこと言わなくていいの」



本当に何もなかったかのように会話をする穂香を見て、稀莉はやっと緊張状態から解放された気分になった。

でもやっぱり、という思いもある。嫌な予感、というのは穂香ほどではないが稀莉もよく当たる。

無事は無事だが、何かはあった。


穂香の周りでおかしなことが起きるようになったのは、本格的なのは穂積山での一件がきっかけだったが、実はそれ以前から起きていた。

一番初めは、今年の春。

始業式で黒い靄を見たと穂香が言った。

その後で行われた入学式では稀莉は何も見なかった。その黒い靄は穂香のいる場所にいて、穂香に見えていたということだ。

その頃はまだ穂香が妖を見始める前。本当ならその黒い靄も()()()()()()なのだが。



「さ、入ってお茶でも飲みながら休んでてください。少し早いですが夕飯作っちゃいますね」

「私も手伝うよ」

「いえ! のんびりしてもらうって決めてるんで!」

「なにそれ」



稀莉が少し強めにそう言うと、穂香は笑いながらも「じゃあ…」と言って受け入れた。

雪宮家には侵入防止用の結界が張ってあるため、敷地内にいる限り穂香の身の安全は保証される。

自分の家ではないものの、ゆっくりしてもらおうと今日が来るよりもずっと前に決めていた稀莉は気合いを入れた。

穂香を部屋に案内してお茶を出して、稀莉は台所で食材を前にしていた。



「稀莉ちゃん」

「クロ? クロも休んでていいよ?」

「ちょっと話したいことあってね。穂香ちゃんのことなんだけど」



穂香のこと、と聞いて稀莉は手を止め黒羽と向き合った。

付き合いは浅いが、黒羽のことは稀莉は信用している。理由なんてない。直感だ。

黒羽は稀莉に、先程の穂香の状況を話した。穂香は心配かけまいと言わなかったことだけど、稀莉に対しては言った方がいいという黒羽の判断だった。

聞かされた稀莉はショックを受けた。けれどショックを受けている場合ではないと気を持ち直した。


きっと、穂香なら術か何かを覚えようと行動をする。そうすると分かっているので、便乗、ではないが稀莉もそうしようと思った。

それは自分がずっと避けてきたことだった。

祖母に教わろうと思えばそうできたのに。稀莉は妖への恐怖から覚えようとしてこなかった。

後悔よりも、未来に目を向けなければ。



「それでね、俺も穂香ちゃんに教えようと思う」

「…え、クロが?」

「疑うねぇ。これでもそれなりのことはできるつもりだよ」

「……」

「穂香ちゃんなら攻撃系も覚えられると思うけど、それよりも守備系を教える方が…」

「クロ、私も覚えたい。穂香先輩みたいにはできないかもしれないけど、何もできないのも嫌だから… 教えてもらえませんか?」



もちろん稀莉は自分でも勉強するつもりだった。

妖に師事を願い出るなんて、雪宮家の者としては異端の内に入るかもしれない。

けれど稀莉にとってはそんなことはどうでもよかった。祖母に教われない今、教わるのにちょうどいい相手が黒羽であっただけ。


稀莉からそう言われると思ってなかった黒羽は意表をつかれた顔をしていた。

けどすぐにいつもの顔に戻り、いいよと了承する。



「よし、まずはご飯作っちゃおう!」

「…見ててもいい?」

「いいけど… そういやクロって何が好きなの? ついでだし作ろうか?」

「俺は…… …味噌汁?」

「……」

「何?」

「いや、意外だったから」



妖は基本、食事をとることはない。

しいて言えば霊力摂取が妖の食事になる。それは黒羽もそうだった。

けれども、全く口にしないということではなかった。長く生きる年月の中、何かしら口にすることはあるらしい。

そんな中で黒羽が思いついたのが味噌汁。どこで食したのかは覚えていなかったが、黒羽にとっては思い出深いものだった。



「分かった。具沢山の作るね」



笑いながらそう言う稀莉を見て、黒羽の心の奥に光が灯る。ぽかぽかと温かく、心地良いものだった。

その感情の名前を、黒羽は思い出せない。久しく感じていなかった()()は次々と溢れてくる。

文月丸に言ったように、稀莉を利用する気は黒羽にはない。たとえ、自分の故郷を救いたい思いがあったとしても。

こんないい子を、巻き込んではいけないと。



「クロ?」



きょとんとしながら見上げる顔。黒羽にとって心地の良い霊力の波長と感情。

黒羽という妖は、雪宮稀莉という1人の少女に惹かれた。




稀莉・・成績は上位の方。

    勉強も嫌いではないので、先生さえ良け

    れば術の覚えは早そう。

    家族も大切だが、今は穂香の方が大切。

    母と妹がちょっとあれなので基本しっか

    りしている。


黒羽・・ふざけているように見えて実は誰よりも

    真面目。面倒見もいい。

    穂香に少しだけ術について教えるつもり

    が、稀莉にも教えることになって責任重

    大。


    訳あって故郷を離れ、文月丸の近くにい

    るようになった。

    故郷を救うには巫女の力が必要だとされ

    ているがはたして…?



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