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お狐様の恋愛事情  作者: 橙矢雛都
第1章 出会いと再会と気づき
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小話6 霊能協会と少年

小話その6です。

今回は『少年』視点がメインになります。





~*~




「待たせたな」



高級そうな椅子に座る少年にかかる声。

その人はピシッとしたスーツを着て、()()()()()感じを醸し出している初老間近の男性。



「いえ、こちらも早く着きすぎちゃいまして」



にっこりと、あくまでも自分は客なのだと低姿勢な少年。

けれど少しの隙も見せない、そしてそれを相手に感じさせない少年はやはり強者だった。


少年がいるそこは、霊能協会の本部の応接室。

だが少年は霊能協会に所属しているわけではない。まだ中学生の彼は所属する資格はないのである。

でもその能力の高さから将来有望視されている。協会側も、彼を野放しにして何かあってはたまらないので、そうなるくらいなら協会で囲んでしまおうと思っていた。

所謂これは『勧誘』である。

しかし何度も何度も勧誘して、協会側は少年に毎度断られている。



「わざわざ来てもらってすまないのだが、内容は前と変わらん」

「あははっ、そうでしょうねぇ」

「…答えも、変わらないか?」

「……いえ、気が変わりかけています」

「…!!」



少年の肯定的な返しに、思わず驚く男性。頑なだった考えが変わると思ってなかったのもある。

そもそもこの少年は、協会に属していなくとも協会側から協力を依頼されれば引き受けてくれていたのだ。

そんな半分属しているともいえる状況で、それでも頑なに正式に属すことをしなかった少年の考えが変わり始めている。


もしかしたら、条件を付けられるのかもしれない。

そう思ったその男は要求されるであろう、その条件の内容を考えられる限りピックアップした。脳内で。

自分が、協会側が叶えられることならかまわなかった。



「守りたいものができると大変ですね」

「何か出会いでも?」

「……元々託されていたことだったのですけれど、改めて感じました。独学で学び、習得するには限界がある。ここは、他者から学べるものが多い。今より力をつけるのなら… それをできるのはここだと思っていますので」

「そう思ってもらえているというのは幸運ですね」



協会の男も確実に少年を確保するべく、今ここで余計なことを突っ込んで聞くのは止めておこうと思った。

今は特に何もしない。それだけで強く欲している人材が手に入るのなら安いものだった。


それに今は、協会としてはそれよりも優先すべき重大な事柄がいくつもあった。

そのいくつもある事柄のうちのほとんどが穂積山に関することなのだが。

聖地である山の核の安定。主である文月丸の封印が解かれ、姫巫と呼ばれる番の存在が現れたこと。

霊能者を取り締まり、統括し、様々な問題に対応している組織が霊能協会だ。穂積山の狐神のことは置いておくことはできない。

かといって、そう簡単に手出しできることでもなかった。

霊能者といえども所詮は人間。神や妖の事柄は力の限界がある。

限界はあっても、取り締まりはやらなければいけない。一般の人間に大きな被害が出ないようにしないといけない。

そのためにも現状の確認と姫巫の存在の確認は必須だった。



「とりあえず、中学卒業までは待っていただきたいです。高校は協会提携の学校にしようと思っているので」

「では()()にも入っていただけると」

「そのつもりです。単独で行動できるのもいいですが、チームプレイも学ばないとですからね」

「2人以上、4人までの1チームを基本としている。キミが入る年に一体何人の訓練生が来ることやら」

「どうでしょうねぇ… でもその時が来たら、僕よりも気にかけなければいけない人材が来ると思いますが」

「…というと?」

「僕がここに入ろうと思ったきっかけの人たちがいますので」



少年のその言葉に、男はピクリと眉を動かした。

協会側としては少年以上の能力の持ち主は認知していなかった。この少年は、それほどまでに強い力を持っていたのだ。

そんな少年以上の人材がいる? にわかには信じがたいことであった。

だが、それが事実であると少年の様子から感じられた。


少しの沈黙が流れる。

余計なことは何も聞かないと決めた男だったが、聞きたいことがありすぎてやきもきしていた。

少年以上の存在。それはすなわち、少年と同じ…


現人神(あらひとがみ)――



「あ、そうそう。穂積山、むやみに探索に入らない方がよさそうですよ。あまり無作法なことをすれば《主》の気に触れてしまいます」

「天狐の狐神か?」

「まぁ、あの方も気難しくはありますけどねぇ…」



少年のその言い方は、狐神以外にも()()ということを指していた。

そしてそれらの存在をよく知っているということも。

男だけでなく、この協会に属する者はこの少年の存在は知っているが、少年のことはあまり知らなかった。

この少年は一切隙を見せないのだ。

警戒は怠っていないのに、自分たちの手助けはしてくれる。どういうつもりなのかも全く分からない。



「まぁ、その辺は追々でいいだろう。今は山も安定しているし、霊能協会も人手不足だからな」

「…まさか、またですか?」



少年が言う『また』

調査員に被害が出たという意味でもあった。

協会の人間も馬鹿ではない。踏み込んではならない領域というのは理解しているし、危ないと感じたら引けというのは教えている。

それなのに、被害が出た。幸い死者はいないのでまだマシであるが。



「その人たちが行った場所は?」

「確か… 烏天山だ」

「あそこは濃い瘴気に満ちているはずです。そんな所に何故向かわせるんですか」

「報告があったんだ。動く気配があるとな。それでも中には入るなと念をおしていたはずなのだが…」



つまりは、協会側も今すぐどうにかしようというつもりはなく、ただ現状把握をしようとしていただけだった。

想定外のことが起きた。それしかなかった。

それ以上は少年も何も言えなかった。調子にのったとか、言ってなかったとかならもう少し言っていただろうが。


ただ、烏天山は……



「僕の方でも少し調べてみます」



心当たりはあった。なんなら今すぐにでも彼に接触できるだろうと思っている。

でも心の傷をえぐるような真似だけはしたくなかった。

烏天山の瘴気の発生原因は分かっていない。そしてこれからも、烏天山のような状態になる場所が増えてくるのは、容易に想像できる。

人為的なものなら対処のしようがあったが、自然発生となれば人の手には負えなくなる。負担が重すぎる。

それでも解決に向かえる1つの可能性があることを、少年は知っていた。



「雪宮、稀莉……」



少年は、1人の少女の名前を呟く。

会ったことはない。自分が一方的に存在を知っているだけだ。

ずっとあの一族のことを少年は気にしていた。

今の自分はもう、あの家とは関係がない。それでも気になるのは情というものがあるからなのだろうか。

いつか接触ができ、言葉を交わせるその時を楽しみにしながら、少年は様々なことへの対処に動こうとしていた。




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