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神様に祈る瞬間  作者: 字書きHEAVEN
1/4

Op

「どうすんのかって聞いてるんだよ! ボケ!」

 近隣に対する迷惑を顧みず、むしろ存在を誇示するように甲高く、威嚇する小型犬を思わせる声が部屋に木霊している。

 床には食べかす、ほこり、得体のしれない体毛が散乱し、素足で過ごすのには勇気が必要だ。

 直ぐに片づけられるようにはしている、という主張なのか、律義にビニール袋にまとめられたごみ山が、部屋の主の怠慢を示すようにそこかしこに放置されている。

 七過ぎの蒸し暑い室内というのにエアコンは稼働しておらず、むしろうっすらと埃を被っていた。

 窓を開けるという習慣が無いのか、気流の無い室内にはすえた臭いがこもっている。

 平均的よりやや広めな都内のワンルームマンション。

 三者三様の男たちがそこにいた。

 一人はこの部屋の家主、家近 博(いえちか ひろし)

 硬いフローリングの床に直立不動で立たされ、目の前の男からの怒声を浴びせている。

 やや太り気味の体をしきりにゆすり、俯きながら目に涙をたたえ、何か反論をしたいようだがもごもごと口が動くだけで言葉にはならないようだ。

 家近をのぞき込むような至近距離、必要以上の声量で恫喝しているのは東谷 敏(あずまや とし)

 実際の体より二回りは大きなジャージを着こみ、だらしなく開いた胸元からは金のネックレスが覗いている。

 中古で買った、これまた金のロレックスをこれ見よがしに腕に巻く、威嚇という行為に全てを振り切ったような格好のスタンダードチンピラだった。

 最後に東谷の後方で腕を組み、恫喝の様子を見ている男がいた。

 名前を八島 剣吾(やしま けんご)

 長身痩躯、身に着けているのは一般的な社会人が結婚式以外に着る機会のない白のスーツ。

 流行りのタイトなものではなく、ゆったりとしたシルエットであった。

 髪型は金髪のオールバック。こちらはスタンダードヤクザというような恰好ではあるが、銀フレームの眼鏡がそこに狡猾な印象を加えていた。

 非常にわかりやすい借金を取り立てに来たヤクザと、債務者という構図であった。

 ここからの展開は単純である。

 追い込み役である東谷が恫喝と脅迫、ほんの少しの暴力を使って債務者の家近にプレッシャーを与え続け、先ずは思考力を奪う。

 兄貴分である八島が久しぶりに仕ことに同行してくれたからか、東谷はいつも以上に張り切ってキンキン喚いていた。

 この後は、仕上げ役である八島が絶対に断る選択肢と、多少嫌でも飲める選択肢を提示して、何らかの方法で金を搾り取るのである。

 八島からすれば通常業務の範疇。

 直近の仕ことが上手くいったので、たまには弟分の仕ことぶりでも見てやるかと同行した行楽気分のものだった。が、八島の様子に余裕は全く無い。

 腕を組み、背骨に鉄骨でも入っているかの如く背筋を伸ばし堂々としているようではあるが、目は険しくゆがみ、室温が原因ではない脂汗を顔中にかいている。

 しきりに貧乏ゆすりを繰り返し、深く長い呼吸を行っていた。

 意識は目の前の光景よりも下半身に集中しており、彼の肛門括約筋は現在、肛門活躍筋と言って良いほど職務を全うし続けている。

 頭の中ではこの後、目の前の家近から金を出させる算段ではなく、自分の体の中から物体を出さないイメージを繰り返していた(丁度今のイメージは攻城兵器に耐える城門であった)。

 広域指定暴力団笹川会系の第三次団体、南銀組の若頭である八島剣吾は今、人生で未だかつてない程の便意に襲われ、必死に抵抗している最中なのである。

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