32.ミラーネ駅
ウェスとジェシーはミラーネ駅の美しさに圧倒されていた。
ミラーネ駅は神殿を連想させる白い円柱が外周に立ち並んでいる。最大の見どころは屋根の上の巨大な噴水だ。街の中心であるミラーネ駅の上にあるこの噴水から流れ落ちる水は、そのまま街中に張り巡らされた水路へと流れていく。
高さ十数メートルから吹き上がる水は太陽の光を反射しキラキラと輝いていた。その輝きと神殿のような建物が合わさり神々しいと表現され、人々の心を奪う美しさを生み出していた。
そして、今、ウェスとジェシーも心をう奪われたひとりとなり歩みを止めていた。正確には歩みを止めてあのはウェスひとりだが。
「ウェス君、気持ちはわかるけど見とれてる暇はないわよ。汽車が来ちゃう」
マイムに声をかけられウェスは我を取り戻す。
「すみません、つい」
「いやいや、仕方ないよ。この駅に来て立ち止まらないのは雨の日に来た時だけって言われてるからね」
ウェスは足早になる二人の後を慌てて追いかけた。水路に挟まれた階段を登り切り駅の中に入ると、虹色の水を吹き出す噴水が待ち受けていた。ウェスとジェシーは思わず見とれてしまいまた足を止める。しかし、それを予想していたのだろうマイムがすぐにウェスの手を掴んで引っ張る。
「はいはい、観光はまた今度ね」
止まらず進んでいたカイムは窓口で切符を買おうとしていた。すぐに戻るとホームの入り口で見守っていたマイムとウェスであったがカイムは窓口でなにか悩んでいるようで、なかなか来なかった。
痺れを切らしたマイムがカイムに駆け寄った。
「なにしてんのよ?」
「いや、切符の枚数なんだけどジェシーの分も買うべきか? そうなるとジェシーの分は子供用でいいのか? そもそもウェス君の分も子供用でいいのか? どう思う?」
マイムは苛立ちを隠すことなくカイムをドンっと横に押しやり、窓口の女性に言う。
「プロヴァンスまで、子供一枚」
切符を一枚受け取り、やや納得いかなさそうなカイムを引きずりながらウェスの元へと戻った。
「はい、これ」
ウェスは手渡された切符を見て眉をしかめた。
「あのー、これは?」
「乗車券よ。乗るときと降りるとき、あと多分乗車中にも確認しに来ると思うわ」
「ジェシーの分がないんだな」
ジェシーの指摘にカイムは満足そうにうんうんと深く頷いた。その態度にイラっとしたマイムはカイムの頬を思いっきりつねった。
「ジェシーはいいのよ。もう汽車が来るわ、行くわよ」
マイムに率いられウェスたちはホームへと向かう。
ホームの反対車線には既に汽車が止まっていた。記憶の上では初めて見る汽車にウェスは思わず「わー」っと感嘆の声を上げた。
「これが汽車ですか?」
「すごい大きい、いや長いんだな。こんなのが本当に走るんだな?」
「ふふっ、まあ見てなさい」
間もなく汽車は汽笛を鳴らしゆっくりと走り出す。段々と加速していき数秒後にはホームから消え、更に十数秒後には目で行く末を追いかけていたウェスの視界からも消えてしまった。
「おー、本当に走ったんだな」
「どうだ凄いだろ?」
カイムがなぜか得意げだ。
汽車が消えた先を見続けていたウェスの視界に再び汽車が現れた。しかし、さっきの汽車とは違う。今度はウェスたちの方に向かって走って来ている。
「来たわね」
汽車はキキ―っと大きなブレーキ音を立てながらホームへと入ってきた。汽車はウェスたちの目の前でしっかりと止まると、ママなくとボラが開き多くの人が降りてきた。
「こんなに人を乗せながらあんな速さで走るなんてすごいんだな」
「本当だね」
「二人とも感心してないで、早く乗って。席はこの車両の席ならどこでもいいわよ」
ウェスはマイムに背中を押されるままに汽車に乗った。
車両には殆んど人は居らず、男性が3人座っているだけであった。
ウェスはどこの席に座ろうかと車両中に目をやっていると、ジェシーが
「ここがいいんだな。ここからならマイムとカイムの顔が見えるんだな」
と端のボックス席を指した。
ウェスは「そうだね」とジェシーにだけ聞こえるように返事をして。
ジェシーの予想通りカイムとマイムの姿が窓の向こうに見えた。
ウェスに気がついたマイムは少し窓に近づき笑顔で手を降る。その隣でカイムは何かを持ち上げるジェスチャーをしていた。
「この窓きっと開けられるんだな」
ジェシーに言われてカイムの動作の意味を理解したウェスは窓を開けた。
「ふたりとも、念のため確認するけど、どこの駅で降りるか覚えてる?」
「プロヴァンスなんだな」
ウェスよりも早くジェシーが答えた。マイムは渋い顔をした。
「ジジェノアです」
「そう、ジジェノア。ジジェノアからプロヴァンスにはバスが出てるから、適当に乗って。できたらジジェノアに着いたら一度連絡して。プロヴァンスに着いたらレオナ隊長補佐のお婆ちゃんに会っ」
マイムの声は大きな汽笛の音でそこでかき消された。
汽車の扉が閉まりゆっくりと動き出す。
まだまだ言い足りなさそうなマイムにウェスは叫んだ。
「大丈夫です、わかってます。色々ありがとうございました、また会いましょう
」なんだな」
ウェスはジェシーを手に持ちながら二人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
それはカイムとマイムも同じだった。
汽車が完全に見えなくなるとマイムはふうっとため息を吐いた。
「この歳で子を送り出す親の気持ちを知っちゃったじゃない」
その隣でカイムはニヤニヤしていた。
「なによ?」
「さっきのお前、母さんそっくりだったなって思って」
マイムはフフっと一度笑ってからカイムにボディブローをお見舞いした。カイムはぐふっと呻き声を上げて崩れ落ちた。
「さあ、私たちも帰るわよ。支部に」
マイムは軽快な足取りでホームをあとにした。
一方カイムはというと、なんとか立ち上がりよろよろと歩いてマイムに続いたのであった。
汽車は海上に造られた橋を走っていた。ウェスはホームを出てカイムとマイムが見えなくなっても窓の外見を見続けていた。
今ウェスの視界に写し出されているのはどこまでも続きそうな青い空と海であった。
「キレイなんだな」
ジェシーが呟く。
「本当だね」
「ミラーネの街もキレイだったんだな」
「そうだね、今度はゆっくり見て回りたいね」
「そうなんだな、絶対もう一回行くんだな」
「プロヴァンスはどんな街なんだろう?」
「きっとジェシーの銅像があるんだな」
「それはないと思う、けど楽しみだね」
「うん、とっても楽しみなんだな」
それっきりふたりは会話を止めて窓から見える海を眺め続けた、まだ見ぬ街プロヴァンスに思いを馳せながら。
第1章完結です。
第2章はシリーズを使って別作品として投稿予定です。
投稿を開始しましたらこちらでもお報せしますのでよかったら読みにきてください。
人喰いジェシー第1章最後まで読んでいただきありがとうございました。
最後に評価、感想、ブクマいただけましたら幸いです。




