30.約束
「コナタ氏、マリーちゃん本日は遠いところお越しいただき感謝する。今日は私の奢りだ。遠慮せずたくさん食べてくれたまえ」
一同が囲うテーブルにはコーネルで獲れた魚介料理を中心にたくさんの料理が並んでいた。
「正確には隊長の奢りではなく隊の奢りです」
レオナが訂正する。
「細かいな君は」
コナタはハハッと笑ってから、オスティーのセリフに対する来賓者としての常とう句を返す。
「本日はこのような場にお招きいただきありがとうございます。ウェス君とジェシーの紹介状をオスティー君に送って以来どうなったか気になっていたけど、まさか、こうして食事に呼ばれるとは思っていなかったよ。もしかしたら僕の紹介状なんか突っぱねられるかと思っていたから本当にびっくりしたよ」
「何を言うコナタさん、あなたの頼みを無下にするわけないじゃないか」
「実際は、隊長は突っぱねはしませんでしたが、一度断っていますけどね」
「嫌な言い方するな。最初断ったのにはちゃんと理由があるじゃないか」
「んんっ? 何かあったのかい?」
「まあ驚くほど色々ありましてな。その色々についてはレオナ隊長補佐から話すことにしよう」
「また、私からですか?」
レオナは大きなため息を吐いてから、ウェスとジェシーがコーネルに着いてから動き出した色々を説明した。
「なんと。そんなことになっていたなんて驚いたな。ハック君が率いる独立軍がオスティー君が来た後も争いを続けるなんて妙だとは思っていたが、まさかジェシー以外にも物に魂を定着した者がいるなんて。いや、いるのが自然と考えるべきか? そう考えれば王国各地に伝わる呪いの武器もやはりジェシー同様の……」
そのままコナタはぶつぶつと呟き考え始めた。
「おいおい、コナタさん会食の場で自分の世界に入るは止してくれ」
「おっと、すまない」
「あのー、ひとついいですか?」
「なんだマイム?」
「コナタさんはオスティー隊長とハックさんの関係性を知っていたのですか?」
マイム以外も気になった点であった。気にしていないのはマリーとジェシーくらいで二人は衰えることなく競うように料理を堪能していた。
「関係性とは? 二人が同期ってことかな? それとも、ハック君が王国兵を抜けた後も友人だということかな?」
「後者です。同期という話は有名なので。しかし、ハック氏が王国兵団脱退後は疎遠だと思っていました。いえ、疎遠どころが犬猿の仲になったと聞き及んでいます」
コナタはゆったりとお茶を一度口にする。
「そうか。兵団内ではそんな風に伝わっているのか。わざとかなオスティー君?」
オスティーはにやりと笑う。
「二人が今でも友人関係にあることは知っていたさ。なんせ、ハック君が抜けた後に2人、いや3人で私に会いに来てくれたからね」
「3人ですか?」
「ああ、私とハックと白の騎士団1番隊所属のサーニャの3人だ」
「サーニャ……さん?」
ウェスが呟く。
「私とハックの同期でありこの街で育った幼馴染だ」
「幼馴染? 単なる同期だと思っていましたよ、俺」
カイムが口に入れたお魚を含んだまま驚く。
「同期は皆知っているが君たちの世代までは伝わらんだろうな」
「私も初めて知りました。では、その3人でハック氏が脱退後に3人でコナタさんに会いに行ったということは、コナタさんも以前からの知り合いなんですか?」
「無論だ」
「この街に来た時にはそんな風には言わず近くに有名な武器職人がいるとしか説明しなかったじゃないですか」
「そうだな、その時はそう説明したな。すまんが、あれは嘘だこの際だ、話しておこう。コナタさんは私たち3人の武の師だ」
マリーとジェシー以外が手を止め目を丸くしてコナタを見た
「師なんて照れるなー」
「コ、コナタさん! そんなに強かったんですか?」「カイム失礼よ」「あっ、すいません」
「いやいや、そんなオスティー君たちの師なんて言っても昔の話だからね。それに当然、今じゃ3人の方が圧倒的に強いよ」
「そうは言っても……正直驚きました」
「そう見られても仕方ないかな? 武器職人たるもの武器の扱いに長けていろが父であるあの人の教えでね。幼いころから鍛えられていたんだよ。お陰で武器全般人並に扱えるくらいにはなったんだよ」
「人並とは御謙遜を。師に対して言うのは申し訳ないが今では私やハックの方が強いのは事実だが、今でも君たちよりは強いはずだ」
「いやいや、それは言いすぎだよ。王国兵団、それも白の騎士団に入隊できる皆さんの方が強いに決まっているよ。それにウェス君もなんせあのバーバリア・リア氏の弟子なんだ。僕より強いに決まっているさ」
今度は一同の驚きの視線がウェスに集まる。
「バーバリア・リアってあの大陸一の達人と言われた、あのバーバリア・リアか?」
「あのー、バーバリア先生ってそんなに有名なんですか?」
「有名なんてもんじゃない、生きる伝説だ。この大陸の軍事関係者なら知らないものはいないと断言できるほどの存在だ。年がら年中戦争している我が国ですらフライブル共和国にはここ数十年戦争を仕掛けていない。その理由がバーバリア・リア氏がまだ生存しているからだ。それほどまでに恐れられている存在だ」
「そんなに凄かったんですね」
「ウェス君、君はなぜバーバリア氏の弟子になれたんだ?」
「本当にたまたまです。記憶がなく何者かもかもわからない僕たちを引き取ってくれたのが先生です」
「その偶々の結果、ウェス君とジェシーはカナタ・ハウスランドを訪ねてフローズン村に来てマリーと出会い、僕に会い、そして僕がオスティー君に紹介した。そして、二人のお陰で君たちを困らせていた敵の存在を知ることができたということか。うんうん、面白いね。さて、話が脱線しているように思う。そろそろ本題に入ってくれないか、オスティー君。僕たちをわざわざ呼んだのには何か理由があるのだろう?」
話をやや強引にまとめてコナタはオスティーに促す。
「わかっていましたか。では、本題に入りましょうか。コナタさんに頼みたいことが2つあります。まず一つ目ですが……」
オスティーは目でレオナに合図する。レオナは自身の腰に差していた剣を、すなわちケイトをテーブル上に置いた。
「紹介します。先ほどの話にも出ていた剣先から雷を放つ剣、ケイト隊員です」
「隊長、その紹介はなんか大袈裟で恥ずかしいのでやめてください」
「大袈裟? 事実じゃないか」
「そうなのですが……」
言葉を詰まらすケイトを見てコナタは笑う。
「ははっ、隊長だからといって無暗に部下を困らすものじゃないよ。しかし、驚いた。包丁でありながら食事するジェシーを見た時も驚いたけど、雷を出すとは。夢のような武器だね」
「はあ、お褒め頂きありがとうございます」
「それでコナタさん、この剣に見覚えはありませんか?」
「手にとってもいいかな?」
オスティーが目でケイトに確認する。
「どうぞ」
「では、失礼するよ」
コナタは手に取りレオナの剣を、ケイトを色んな角度からまじまじと見る。
「この刃の細さに加え剣先がカッターの刃のように斜めになっている。間違いない、この剣は北にあるケルン帝国産だね」
「やはりケルン帝国……」
尚もケイトの観察を続けるコナタはあるもの気が付いた。
「柄の底部分になにか刻まれているな……これは紋章かな? この紋章どこかで見たような……皆はこの紋章に見覚えは?」
コナタは皆に紋章を見せたが知るものは誰もいなかった。
「それにもう一つ気が付いた。この剣は打ちなおされている」
「どういうことですか?」
「この剣は完成した後にもう一度手を加えられているように見える。理由はわからないけどね。もしかしたら、ケイトさんがこの剣に魂が宿っているのと関係しているのかもしれないね」
「謎の紋章と打ち直しか……見分ける材料になりそうだな。諸君、この紋章をよく記憶しておけ」
オスティーに云われ皆が、あまり関係ないマリーまでもが再度まじまじと紋章を、ケイトの底部分を見た。
「あの、あまり見られると恥ずかしんですが……」
「あはは、ケイト真っ赤なんだな」
ジェシーにだけ見えるのか、感じるのか、ケイトは赤くなっているようであった。
「ケイトさんもこう言ってることだし」
コナタはレオナにケイトを返した。
「それでもう一つの頼みっていうのはなんなんだい?」
「はい、実はこの剣、ケイト隊員はコナタさんから支給された武器の中に紛れ込まされていました。結果レオナ隊長補佐の手に渡りました。コナタさんに武器の支給を依頼しておきながら、恥ずかしながら我々には一目じゃ見分けがつきません。そこで、今後コナタさんが造った武器には一目でわかるよう印をつけていただきたい」
「この紋章のようにかい?」
「コナタブランドなんだな」
食べてばかりであったジェシーが言った。
「ふふっ、コナタブランドか。面白いな。コナタブランドを立ち上げていただけないかな?」
「コナタブランドってなんか大袈裟だな」
「あら、いいじゃないですか。コナタブランド。私は気に入りましたよ。いい機会です、立ち上げましょうよ」
いつの間にか早くもデザートを食べ始めているマリーが賛同する。
「決まりなんだな」
コナタは少し困ったように笑った。
「コナタブランドと呼ぶかどうかは別として、僕が造った物とわかるよう印を施すようにするよ」
「ありがとうございます。早速で申し訳ないのですが新たに我が隊に新たな武器の作成を依頼したい」
「その依頼、確かに受けまわった。明日にも取り掛かろう」
「ありがとうございます。さて、皆の衆、堅苦しい話は終わりだ。ここからは食事を楽しんでくれ」
オスティーの言葉を機に各々歓談に入った。
「ところでウェスさん」
ジェシーが食べれるように忙しく皿を取ってはジェシーをかざすウェスにマリーは切り出した。
「なんだい? マリー」
「お二人は明日、プロヴァンスに行くのですよね?」
「うん、その予定だよ」
「ではお土産をお願いしてよろしいですか」
「お土産? うん、いいけど」
「では、ぜひ3連城壁3色ティラミスをお願いします」
「3連城壁3色ティラミス?」
「マリーさん、お土産に3・3ティラミスを頼むとはお目が高いですね」
プロヴァンス出身のレオナが感心する。
「前々から食べてみたいとは思っていたのですが、フローズン村からプロヴァンスはあまりに遠く行く機会はなかったので」
「わかったけどティラミスってケーキだよね? あまり日持ちしないからどうだろう」
ウェスの肩をマイムがちょんちょんと叩き耳打ちする。
「いいウェス君、きっとマリーちゃんはお土産が欲しいんじゃなくてあなたに会いに来てほしいのよ」
「僕に会いに? なぜですか?」
「なぜって……そこは察しなさい」
ウェスはわかったのかわかってないのか、「はあ」と曖昧な返事をした。
「わかったよ。じゃあ、用事がすんだらすぐに届けるね」
「いえ、送っていただければ大丈夫です」
予想が外れたマイムは思わずずっこける。
「ですが……味の感想を伝えたいので必ずまたフローズン村に来てくださいね」
マイムはほっとする。
「うん、わかったよ、マリー」
ウェスの返事にマリーは嬉しそうに笑った。
二人の約束が交わされ会食は終了した。
翌朝、先に一台のトラックが発つ。
「ウェスさん、ジェシー、またお会いしましょう」
「またなんだな、マリー」
「うん必ず」
こうしてマリーとコナタを乗せたトラックはフローズン村へと帰っていった。
「さて、僕たちも行こうか」
カイムに言われウェスはトラックに乗り込もうとしてレオナに止められる。レオナはウェスに二つの地図を渡した。ひとつは大陸の地図、もうひとつは手書きの地図であった。
「ウェス君、プロヴァンスにいる母たちに連絡しておきました。プロヴァンスに着いたらこの場所に行ってください」
ウェスはレオナが指さす手書きの地図をの赤いバツ印の場所を確認して頷いた。
「ありがとうございます」
「それでは諸君、各々任務にあたってくれ。健闘を祈る」
オスティーの言葉に敬礼で応え、ウェスとジェシー、カイム、マイムを乗せたトラックが発車した。
「さて、我々はハックが回復するまで暇だな。のんびりしようか」
「何言ってるんですか。コーネルの方にかかりっきりでノースシティから送られてきた書類が溜まってます。それにコーネルの支部長たちを無理やり変更したのですから色々やることがあります。のんびりする暇などありません」
オスティーは露骨に嫌そうな顔をしてから隊舎に戻っていった。
「ところで、なんでジェシーたちはカイムとマイムと一緒の車に乗ってるんだな? ジェシーたちと行く場所が違うんじゃないのかな?」
ウェスたちを乗せたトラックが発ってから半刻も経ってからジェシーが気が付く。
「気づくのが遅いわね。いいジェシー? 今、私たちはサウス地方最大の街、水の街ミラーネに向かってるの。そこで私たちとは一度お別れ。そこから二人は汽車でプロヴァンス近くの街、ジジェノアに向かうのよ」
「汽車って何なんだな?」
「あら、汽車知らないの? そうね、簡単に言えば決められた道だけを走る長い長い車ってとこかしら」
「決められた道しか走れないなんて不便なんだな」
「その分、速いし、一度に多くの人や荷物を運べるのよ。ウェス君も知らないの?」
「名前は知っていますけど実物を見たことはないです」
「そうなの。じゃあ、勿論乗るのも初めてね。まあ、このおんぼろトラックよりは快適なはずよ」
「よくわからないんだけど楽しみなんだな」
「まあ、まずミラーネまで4時間かかるんだけどね」
トラックを運転するカイムがこれからの苦労を予期して苦笑いする。
「そのミラーネからジジェノアまでさらに1日半かかるのよね」
「とても遠いんですね」
「殆どキーブクロイス王国横断に近いからね。まあ、焦っても速度は変わらないからのんびり行きましょう。はい、ジェシー朝ごはんよ」
マイムはウェスにサンドイッチを手渡し、自分も食べ始めた。
「おい、俺にもくれよ」
「運転中に危ないでしょ。あんたはミラーネに着いてからよ」
「その頃にはもう昼ご飯だろ」
カイムの抗議をマイムは無視して食べ進めた。カイムは少しでも早く着こうとアクセルを強く踏み込んでトラックの速度を上げた。
ウェスはレオナから貰った大陸の地図を広げるとフローズン村から港町コーネル、水の街ミラーネ、3連城壁街プロヴァンスの順に指でなぞってから、その道のりの長さを理解してため息を吐いた。しかし、直後には少し嬉しそうに笑った。
そのことに気が付いたジェシーは
「変なウェスなんだな」
と言いながらジェシーも嬉しそうであった。
二人が次に目指すはジェシー一家、プロヴァンス家への感謝を語り継ぐ街3連城壁街プロヴァンス。




