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人喰いジェシー   作者: 未々山田
第一章 フローズン村~港町コーネル編 最強の騎士と独立軍
30/33

29.図書館

「ここがコーネルの図書館よ。私たちは明日の準備のため戻るけど、夕食のレストランの場所は大丈夫?」

「兵舎の前の奴ですよね? 大丈夫です」


「そう、じゃあまた後で」

 ウェスとジェシーはカイムとマイムと別れ図書館へと入っていった。


 図書館内にはカウンターに初老の女性がひとりいるだけで他には誰もいなかった。


 カイムは小さな図書館と言っていたが、大量に並ぶ本棚はウェスとジェシーにとって記憶の上では初めての光景で、二人は圧倒された。小さいと評される図書館でこの規模なら、王国図書館はどれほどのものなのかウェスは是非見てみたいと感じた。


 ウェスは目的の本を探すため天井から吊り下げられたコーナー案内を見回した。その中に戦史のコーナーを見つけるとすぐさまコーナーの本棚から『プロヴァンスの敗北』に関する本を探した。プロヴァンスの敗北に関係した本は本棚の一番下の段の右端にまとめて置かれていた。


 その中の一冊を適当に手に取り読書用であろうテーブルに座っては黙々と読み始めた。

「ジェシーにもわかるように読んでほしいんだな」

「少し待ってジェシー、読み終えたら要点をまとめて話すから」


「ならジェシーはその間眠るんだな」

 そう言うや否や、ジェシーはすぐにウェスにだけ聞こえる寝息を立てて眠ってしまった。


 ――疲れてたのかな? ウェスは眠る子供をあやすようにジェシーを1度撫でてから、本を読み進めた。

 太陽が傾き赤くなったころウェスは館内にあった『プロヴァンスの敗北』に関する本をすべて読み終えたが、情報はあまり得られなかった。


 プロヴァンスの敗北の詳細を要約すると次の通りになる。

 当時、最も東に位置し、隣国ベルベイルとの国境に防衛と同時に侵略拠点として建てられた城があった。数年に渡る攻防の果てキーブクロイス王国の勝利は目前であった。最後の仕上げに任命された当時の白の騎士団3番隊隊長が城の城主に任命され、侵略戦争の指揮を執ることになった。奇妙なことにこの隊長の名前はどこにも記述されておらず、また城の名前も記されていなかった。ある本には敗者の名前、奪われた城の名前を史実に残す必要はないためと記載されていた。


 この新指揮官が就任してから3カ月、キーブクロイス王国兵団はこれまでの優勢が嘘かのように戦線は停滞した。そして、運命の日が訪れた。夜襲を受けた城は一夜にして陥落、指揮官である城主を始め1137名の兵が命を落とした。明朝には現在のプロヴァンスの後方に位置する東の第二の防衛拠点と位置付けられていたヘルターク城まで攻め込まれ、結果ヘルターク城より東の領土を奪われてしまった。


 鉄壁を誇っていた城が一夜で落とされた原因は城主の失態と記載されているが詳細は書かれていない。


 その後ヘルターク城を拠点にキーブクロイス王国は奪われた領地を数年で殆ど奪還したものの肝心の城は現在に至るまで取り戻せていない。


 以上がウェスの手に入れた情報であり、残念なことにジェシーがプロヴァンスの将軍と関係している記述はどこにもなかった。


 レオナを疑っているわけではないがもしかしたらプロヴァンスへ行くことは無駄足になるかもしれない、ウェスはそう感じながら本を閉じた。


 閉じられた本の後ろから声がした。

「ウェスさん、お勉強は終わりましたか?」

 不意を突かれたウェスはビクッと体を振るわせ声の主を見た。そして、今度は目を丸くして驚いた。


「マ」

「マリーーーーーーー」

 ウェスよりも先にジェシーが彼女の名を呼んだ。


「ジェシー、お元気そうでなによりです」

「なんでマリーがここにいるんだな?」


「オスティーさんにコナタさんがお食事にお呼ばれしまして私もついて来てしまいました。それで予定より少し早く着いたので先にお二人に会いたいと思いまして、そしたら図書館にいると聞きましたので参りました」


「夕食の客人というのはコナタさんとマリーだったんだね」

「はい。オスティーさんがコナタさんに是非見てみたいものがあるとのことで」


「見てみたいもの?」

「ケイトのことじゃないかな?」


「ああ、なるほど」

「見てみたいものとは人なのですか? だとしたら少し失礼な表現ですね」


「いいや、見てみたいものは剣なんだな?」

「ケイトという名前の剣ですか? 変わってますね」


「そうじゃないんだけど、ここで話すのもあれだし、夕食の時にはわかるからそれまで待ってくれないかマリー」

「はあ、それではその時まで待つことにします。……ところで、ウェスさんはキーブクロイス王国の歴史に興味を持ったのですか?」


「うーん、歴史全てってわけじゃなくて『プロヴァンスの敗北』について調べていたんだよ」

「『プロヴァンスの敗北』ですか? それは、また、なぜですか?」


「レオナさんが、あっ、レオナさんって言うのは隊長補佐の」

「大丈夫です、存じています」


「そうなんだ。それでそのレオナさんがプロヴァンスの敗北の将がジェシーの父親かもしれないって言うから明日にはプロヴァンスを目指すことにしたんだ。それでその前に少しでもそのプロヴァンスの敗北について知っておこうと思ったんだけど……」

「資料はとても少なかったんじゃないですか」


「そうなんだよ。どの本にも1,2ページくらいしか書かれてなくて、あまり情報は得られなかったんだよ」

「キーブクロイス王国にとって唯一の敗北、戦争における汚点のためか資料は殆ど残されていないんですよね。私も以前調べましたがとうとう詳細を知ることはできませんでした」


「そうなんだ、でもなぜマリーも『プロヴァンスの敗北』について調べてたの?」

「実は私の祖母の祖母の祖母だと思うんですが、かつてはイーストタウンに住んでいたのです。それが何らかの理由でフローズン村に移り住んだそうなんですが、その理由は今も不明です。移り住んだとされる年が丁度プロヴァンスの敗北の直後だったので何か関係しているのかと思い調べたのです」


「そうなんだ。先生は敗戦からこそ学ぶことは多いって言ってたけど、やっぱ記録に残すのは嫌なのかな。ところでマリーは人食いジェシーのジェシーとプロヴァンスの敗北の将が親子って知ってた」

「いえ、初耳です」


「そっか、やっぱりプロヴァンス内だけで言い伝えられてるものなんだね」

「そういうことだと思います。ところでウェスさん」

 マリーは壁に掛けられた時計を指さした。時刻は集合時間の3分前であった。ウェスたちは慌てて図書館を飛び出した。


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