3. フローズン村の少女マリーと武器職人コナタ
マリー、ウェス、そしてジェシーの3人はひとまずマリーの家を目指し歩いた。
「それでウェスさんの用事というのはなんですか? もしよろしければお力になりますよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて。マリーはカナタ・ハウスランドという人を知ってるかい? 有名な武器職人みたいなんだけど」
「ハウスランドさんですか? それならよく知っていますわ」
「本当かい? 僕はその人に会うために来たんだ。よかったらどこに行けば会えるか教えてくれないかい?」
「まあ。それでしたら、このままで問題ありませんは」
マリーの言葉にウェスは戸惑った。
「えーっと、それはどういうこと?」
「わたしとハウスランドさんは同じお家で暮らしてるのです」
「えっ? それじゃあマリーはハウスランドさんの娘? でも苗字が……」
「わたしはハウスランドさんの親戚です。いろいろあってハウスランドさんの家にお世話になっているんです。それに、ハウスランドさんは独身ですし」
「あれ? 独身?」
「ええ、そうですよ」
「聞いてた話と違うね」
ジェシーが例のごとくウェスにだけ聞こえる声で言う。
「うーん、とりあえず行ってみよう」
ウェスもジェシーにしか聞こえない声で言う。
「さあ、行きましょう」
二人のやりとりが聞こえないマリーはそう言って笑みをこぼした。
マリーが住む家は村のはずれにあった。家の前にある庭にはキーブクロイス王国を守るという花、リーヌも植えられていた。
庭の脇には古びた井戸があった。ウェスにもひと目でその井戸がもう使われていない枯れ井戸だとわかった。
「ただいまです」
マリーはウェスに心の準備を与えることなく家の戸を開けた。
「おかえり、マリー。おや、そちらの方は?」
花柄のエプロン姿のやせ型の男が出迎えた。男の髪は金色で、男にしては長く肩にかかる程であった。前髪も長く、それが邪魔なのか、上にあげて縛ってある。
丸型のメガネをかけているがサイズが合ってないようにも見える。歳は30前後に見えるのだが、それがウェスを困惑させた。
「こちらはウェスさん。私がクマさんに食べられそうなところを助けてくれました」
「なんと! それはなんとお礼を言っていいのか。本当にありがとうございます」
「いえ、あの、それはいいんですけど……」
「ウェスさんはハウスランドさんに用があってこの村に来たみたいです」
戸惑うウェスに代わりマリーが言う。
「僕に?」
「ですよね?」
「う、うん。その前に、あなたがカナタ・ハウスランドさんですか?」
ウェスの言葉に男は大きく目を見開いた。
「いや、僕はコナタ・ハウスランド。カナタ・ハウスランドは僕の父親の名前さ」
「ごめんなさい。ハウスランドというのでわたしてっきり……」
「いや、いいんだ。……そうでしたか。道理でおかしいと思いました。それで、そのカナタさんは?」
「彼ならここにはいないよ。……30年も前から」
「30年も?」
「ああ、そうだよ。……父、カナタ・ハウスランドはキーブクロイス王国軍の武器を管理する最高責任者に30年前に任命された。それ以来、この村には一度も帰っていない。しかし、彼がこの村にまだいると思っているものがいるとは……まるで君は過去から来たような人間だね」
「過去から? まあ、それは素敵ですね」
マリーは目を輝かせてウェスを見た。
「いいえ、そういうわけじゃないんですが」
「冗談さ。とりあえず座ってよ。紅茶を入れるから」
マリーが素早く椅子に座るのを見てウェスもコナタに勧められるままに席についた。
「ほかに考えられる理由はただひとつ。君はこの国の者じゃないんだろ? この国は他国に内部の情報を漏らさない。戦争に関係する事案なら尚更だ。君はどこかどうやって来たんだい?」
「フライブル共和国から来ました」
「フライブルから? どうやって?」
コナタは驚きを隠さず言った。
「いえ、その……普通に歩いてです」
「歩いてってことはあのニッカ帝国の跡地を抜けてきたってことかい?」
「はい、そうです」
「君みたいな子供が?」
「そうです……なんかすみません」
「いやいや、謝るようなことじゃないよ。ただ驚いているだけさ。それともあの噂がやっぱり嘘なのかな」
「噂ってなんですか?」
「キーブクロイスではニッカ帝国の跡地への立ち入りは禁止にされてるんだけどね、その理由は未だにニッカ帝国を滅ぼしたとされる化学兵器の毒ガスが微量ながら検出されるからなんだ。まあ、今ではもう殆んど人体に影響はないって話だけどね。
それでね、実は公表されてないけどもうひとつ立ち入り禁止の理由があるっていうのがその噂なんだけどね、なんでもその毒の影響で化物と化した生物がウロウロしてて、まるでモンスターハウスのようだっていうんだよ」
「ああ、なるほど。少し大げさだとは思いますがその噂は本当だと思いますよ」
「じゃあ、本当に山の向こうには化物がうじゃうじゃしているのかい?」
コナタはなぜか嬉しそうにいいながら紅茶の入ったティーカップをウェスとマリーの前に置いてから自分も二人の前のイスに腰を下ろした。
「まあ、それは恐いですね」
マリーはちっとも恐くなさそうに言ってから紅茶に口を付けた。
「うじゃうじゃってほどではないですけど確かにいますね」
「そうか、あの噂は本当だったのか。それでその化物ってのはどんなんなんだい?」
コナタは少し前のめりになって言った。
「えーっと、ちょっと口では説明しにくいんですけど……元の生物の原型はあるんですけどとにかく異形でした」
「異形ね、これは実際に見てみるしかないかな」
「あの、カナタ・ハウスランドさんについて聞きたいんですがよろしいですか?」
「ごめん、ごめん。カナタ・ハウスランドに会いたかったんだね?」
「はい、そうです。先ほどの話を聞く限りカナタ・ハウスランドさんは生きているんですよね?」
「うん、それは間違いないと思うよ。もし、死んだらニュースにもなるだろうからね」
「それではカナタ・ハウスランドさんは今どこに?」
「キーブクロイス王国のお城さ」
「それじゃあ、そのお城に行けば会えますかね?」
「いや、それは難しいと思うよ」
コナタはきっぱりと言った。
「彼は言うならば国宝だ。世界最高の武器職人の肩書きを持つ彼は戦争を常にしているこの国にとっては欠かせない存在だからね。そんな彼に他国の君が会いたいと言っても間違いなく国が拒否するだろうね」
「そんな」
ウェスはがっくりと肩を落とした。そんなウェスをマリーは心配そうに見つめた。
「ハウスランドさんなんとかならないのですか?」
マリーの言葉にコナタは軽くため息を吐いた。
「ウェス君、君が彼に会いたい理由は武器に関係することかな?」
「ええ、まあ、そうです」
ウェスは力なく答えた。
「だったら、その用事の内容を僕に聞かせてくれないかい? こう見えて僕も有名な武器職人なんだ。まあ、カナタ・ハウスランドの息子って肩書のお陰でもあるんだけどね。僕でも力になれるかもしれない」
コナタの言葉にウェスは少し迷ってから「少し考えさせてください」と言った。
ウェスの返答に少し驚いたコナタであったが
「もちろん、いいとも。ゆっくり考えてくれたまえ」と、言った。
「ジェシーはどう思う」
ウェスはジェシーにしか聞こえない声で訊く。
「ジェシーは別にいいと思うよ。ジェシーの友達が増えるし」
「先生が無闇にジェシーを人に紹介するなと言ってたじゃないか」
「だから、ジェシーの友達がちっとも増えない。……バーバリア爺ちゃんがカナタ・ハウスランドさん会ってみろっていった理由覚えてる?」
ジェシーの問いにウェスは少し考えてから二度小さく頷いて
「……なるほど。それは名案だね」
と笑った。




