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人喰いジェシー   作者: 未々山田
第一章 フローズン村~港町コーネル編 最強の騎士と独立軍
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25.取引と 決着

 ウェスは前髪から顏に伝う水滴を拭った。

「ルーク、なぜ妹まで殺したんだ?」


「その名を呼ぶな。その名はもう捨てたんだ……糞! ジェシーの能力は喰うだけじゃなかったのか?」


「ジェシーもそう思っていたんだな」

「ふん、まあいい」

 ルークが腕を上げると、呼応するようにジェシーに吹き飛ばされた二人の男が素早く立ち上がり再びメアリーを加えた3人で陣を組む。


「まだやるのかい? ルーク」

 ウェスの言葉にルークは怒りに顔を歪ませ叫んだ。


「だからその名を呼ぶなぁぁぁぁl!!」

 メアリーと二人の男が勢いよくウェスに殴りかかった。しかし、3人の動きはこれまでと違いバラバラで、いや正しくは全く同じ動きでこれまで見せていた華麗な連携は皆無であった。


 ウェスは3人の突進を容易にすり抜け一瞬でルークの眼前に迫った。そして、ジェシーを大きく横振りした。


 ルークは「糞がっ!」と零しながら大きく後方に跳び躱そうとしたが遅かった。ジェシーの歯はルークの頭部分を捕らえ顔の3分の1を喰いちぎった。と、同時に嫌な感覚がウェスとジェシーを襲った。


 最早、熊のぬいぐるみと認識できなくなったルークは呼吸の概念があるのか怪しいが、苦しそうにゼエゼエと息を乱していたが、やがて大きく深呼吸して呼吸を整えた。


「おい、もうやめにしようぜ」

 提案したのは意外にもルークの方であった。ウェスとジェシーは無言のままルークを見つめて言葉の続きを待った。


「お前らも感じただろ? これ以上続けるとメアリーまで死んじまう」

 ウェスとジェシーは静かに頷いた。


 ウェスとジェシーを襲った嫌な感覚。その正体はルークと密接につながっているメアリーの魂をまでも喰ったという感覚であった。


「メアリーが死ぬなんて俺も望んでない」

「ルーク……」


「だから、その名を呼ぶな!」

 ルークは大声で返したつもりであったが実際は弱弱しく消え入りそうな声であった。


「取引だ、メアリーを解放する。だから、俺を見逃せ」

「解放なんてできるのかい? 僕はてっきり持ち主が死ぬかジェシーたちの方が満足するかのどちらかだけだと思っていたけど」


「人に、いや、魂による。俺はその中でもさらに特別、というよりは能力が人を操るだからな、普通なら後遺症が残るが俺の場合はなんの障害もなく宿主をすぐに変えれる」

「ジェシーはどうなのかな?」


「そんなのは知らないけど、見た感じでは共存型だろ」

「ル、いやティム、僕たちはその辺も含めて僕たちは君に色々聞きたいんだ。だから、一度オスティーさんたちのところに戻って話はそれからにしないか?」


「寝ぼけてるのか? 行くわけないだろ。つでにお前らの質問にもこれ以上答える気はない。さっさと決めろ、このまま俺とメアリーがお前らに殺されるまで戦うか? それとも俺を見逃してメアリーを保護するか? どっちだ?」

 ウェスは少し考えた。どちらを選択するかではなく他にメアリーをルークから解放する手段がないかを、だ。それだけウェスは少しでも情報がほしかった。


 しかし、ウェスはすぐに考えるのを諦めた。ジェシーには迷いがないのを感じ取ったからだ。

「ジェシー、いいんだね?」


「全く問題ないんだな」

 ジェシーはいつもと変わらぬ調子で答えた。


「ティム、わかった、君を見逃す。だから、メアリーちゃ、それにカイムさんやマイムさんたちの催眠を解いてくれ」


「安心しろ。メアリーから離れれば、宿主のいなくなった俺の催眠能力は勝手に消えるからあぼ騎士たちの方も問題ない」


「それからもうひとつ条件を加えさせてほしい」

「……なんだ? 言ってみな」


「もう子供に憑りついて操るのはやめてほしい」

「それは約束できないが……安心しな。暫くは気分じゃない、お前らのせいでな」

 ルークは残された二本の足で立ち上がるとよろよろと歩き始めた。


「ジェシーたちのせい?」

「ああ、お前らのせいだ。お前らのせいで妹とのことを思い出しちまった……まあ、いい。取引は成立だな」

 ティムはウェスとジェシーの横を通り抜け袋小路唯一の出口へと向かう。


「待ってよ、ティム。先にメアリーの解放を」

「手でも握ってな。お前らならそれだけでわかるはずだ、メアリーに憑りつく俺の魂が離れるのを」

 ルークは振り返らず、歩みも止めずに言った。ウェスは言われるままにぼーっと突っ立ていたメアリーと手を繋いだ。そして、ウェスは思わず「あっ」と零した。確かにメアリーから二つの魂を感じ取れたのだった。


「あー、ひとつ言い忘れてた。わかってると思うけどあの女は俺の能力とは別だからな」

「そうだった。レオナには別のが憑いているんだったな」


「どうすればいいんだい? ティム」

 既にルークは再び歩き始めていた。


「喰えばいいんじゃいないか?」

「そんなことしたらレオナさんの魂まで食べちゃうんじゃ?」


「いいや、多分大丈夫だ。俺は特別だって言ったろ」

 その言葉を最後に最早なんのぬいぐるみかわからなくなった赤い物体は角を曲がり姿が見えなくなった。しかし、姿が見えなくなっても声だけはまだ聞こえてきた。


「またな、ジェシー、それとウェス」

 その声が届くとほぼ同時にメアリーからルークの魂が消えたのをウェスとジェシーは感じ取った。


「あれ? ここどこ? あれ? 昨日のお兄ちゃん、何してるの?」

 ぼんやりとしていたメアリーの目は元に戻っていた。


「えーっと、まあ、ちょっとね。それよりも体はなんともない?」

「うーん、少し眠たい」

 メアリーはそう言って目をこすっていたが空に何かを見つけると声をあげた。


「あー、お兄ちゃん、あれ!」

 ウェスはメアリーが指す空を見上げてようやく雨が上がっていることに気が付いた。


「おおー、キレイなんだな」

 ジェシーがメアリーには聞こえない声で叫んだ。ウェスはジェシーの声の大きさに頭をくらくらさせながらも笑った。

 頭上には鮮やかな虹が出ていた。


「さあ戻ろうか」

 ウェスはメアリーの手を強く握りしめて呟いた。


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