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人喰いジェシー   作者: 未々山田
第一章 フローズン村~港町コーネル編 最強の騎士と独立軍
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24. ルーク・シティの生涯

 ルーク・シティは貴族だけが住むことが許される城下町にある家の8人兄弟の7番目の子として生まれた。由緒正しき貴族の長男として生まれてきた少し厳しい父、その美貌で平民でありながら父の心を射止めた優しき母、それから4人の兄に2人の姉、そして一人の妹に囲まれ幸せな日々を送っていた。そんなルークの人生はルークが8歳の誕生日を迎える前日に一変する。


 よく晴れたお昼過ぎのことであった。王国から派遣されたという何やら偉そうな男が複数の兵士を率いてシティ家に訪れた。


 事態を掴めない両親は恐れながらも男を居間に通しもてなした。ルークを除く子供たちは外に追い出され、なぜかルークだけは父の隣の席に座らされた。


 男はルークの母から出された紅茶を一口つけてから母親をまじまじと見て、なるほど、と一言呟きニヤニヤと笑い、今度はルークをまじまじと見てクスクスと笑った。そして、ようやく視線を男の正面に座すルークの父親に向けるとゆっくりと話し始めた。


 男が長々と話したことの重要な部分を抜き出すと次の通りになる。まず、ルークは父と母の間に生まれた子ではなく当時の国王と母との間にできた子であること。ルークは王位第8位の位置にあるが、正妻の子供ではないため現時点では正式な王位の権利は発生していないこと。ルークに王位の権利が発声するのは12歳の誕生日を迎えてからであり、それまではルークには何の権利もなくこれまで通りこの家で生活を送ること。

 そして、最後にルークが王の子供であるということは一切他言してはいけないというものであった。


 話の途中に父は何度も男の言葉を遮り何かを言おうとしたがその度に男の護衛であろう兵士が腰の剣に手をかけ父を威嚇した。結局、父は何もできぬまま、拳を強く握りしめわなわなと震えることしかできなかった。その後ろで母も顔を俯き震えてい。


 男は話を終えると残っていた紅茶を一気に飲み干しおもむろに立ち上がりルーク家を後にしようとした。と、出口の扉を開けると男は「おっと、大事なことを言い忘れていた」と零し、両親に向き直した。

「次はルーク君が12歳になった時に王子としてお迎えにあがります」


 そして、再び男は出口の方を向きゆっくりと歩きだし家を出て行った。扉が閉じきる寸前男の声が微かにだがはっきりとルークと両親の耳に届いた。「生きていればね」という男の不吉な言葉が。


 男が家を去って間もなくルークも家の外に追いやられた。そして、すぐに家の中からこれまで子供たちが一度も聞いたことのない父の怒声が響き渡った。貴族として生まれてきたプライドの高い父にとって、母の浮気は許せるものではなかった。本来ならばその怒りは浮気相手にも向けられるはずであった、相手が国王であったため、その全てが母に向けられたのであった。


 その声は何時間も響き続けた。あたりが暗くなったころ、ようやく父の怒声が鳴り止むと、子供たちの前に父が姿を現した。父はルークにだけまだ外にいるように言い、他の子たちを家へと連れ戻した。10分後、再びルークの前に現れた父は一言「家に戻るぞ」とだけ言った。その時、ルークは父の目に怨嗟の念を感じ取った。父の怒りの矛先はルークにも向けられていたのであった。


 家に戻ると目を真っ赤にした母にルークはただいまと告げたが返事はなく一瞥するだけであった。先に家に帰っていた兄弟たちにもただいまと言ったが、妹だけが大きな声でおかえりと無邪気に答えただけで、兄、姉たちはルークを無視した。次の日、予定されていたルークの8歳の誕生日会は当然のようになくなった。


 その日以来父はルークを無視するようになった。また、父は酒の量が増え、酔っぱらうたびに母に暴力を振るうようにもなった。その勢いのままルークも殴ろうとするのだが、いつも顔を殴ろうとして寸でのところで我に返り、少し悩んで「このくらいは許せよ、王子様」と呟き、鳩尾を一発だけ殴るのであった。


 父が暴力に飽き酔いつぶれると、決まって母はルークを呼び出し、自分の痛みをルークに移すかのようにルークを殴った。そして、最後には「あんたさえ生まれてこなければ」と泣き崩れるのであった。


 兄と姉たちは父からルークは本当の兄弟ではないこと教えられていた。兄、姉たちは両親の様子からルークが母の浮気により生まれてきた子なのだとすぐに悟った。しかし、その浮気相手が国王であることはわかりようがなかった。結果彼らは、ルークには高貴な血は流れておらず、本当は自分たちよりも身分の低いものだと思い、ルークを見下し、父の前では父に倣い無視するだけに留めるが、両親の目が届かないところではいじめるようになった。


 街にもルークが母の浮気相手の子供であるという噂は広まり、貴族でありながら平民であった母に浮気された父は馬鹿にされていたが、それは街の者たちもあまり表には出さなかった。代わりに浮気した母への侮辱は一切隠す気はなく露骨であった。そして、ルークに対する態度も母と同じくらい酷いものであった。やはり、街の者たちもルークの兄弟たち同様に、ルークが国王の子供であることなど知るはずなく、本来ならばルークはこの街にいてはいけない身分だと思っていたからだ。


 ルークにとって地獄のような日々が続いた。気が付けばルークの前身は痣だらけになっていた。


 そんな地獄でルークと話してくれるのは、まだ事情を理解する能力が備わっていなかった6歳の妹だけであった。妹は父や兄、姉に何度注意を受けてもルークが寂しそうにしていると遊ぼうと無邪気に言うのであった。


 二人の遊びは妹の希望により決まって人形を使ったおままごとでであった。妹はいつも持っている赤い熊のぬいぐるみのティムを自分の自慢の息子としておままごとを始めた。ルークは父役として参加しながら、ティムの兄弟立ち役の人形たちを使って、妹と一緒に動かない熊のぬいぐるみを褒めたり、叱ったりした。8歳になるルークにとっておままごとという遊びは退屈なものであったはずだがこの時間だけが幸せな時間であった。


 ルークが国王の子供と告げられ、生活が一変し辛い日々が半年ほど続いたころのある日、妹が泣きながらルークの元を訪れた。妹の手にはいつもいるはずのティムの姿はなかった。ルークは泣きじゃくる妹からなんとか事情を聴くと、どうやら兄たちが妹からティムを奪い取り、庭の大きな木の先にティムを縛り付けたらしい。妹が二度とルークと遊ばないと約束すればティムは解放されるということであった。


 ルークは泣き止まぬ妹を引き連れティムが囚われている木へと向かった。木の下では兄たちがゲラゲラと笑っていた。彼らはルークに気が付くとルークに汚い言葉を浴びせたが、ルークはそれを無視してティムを救出するためすぐさま木登りを始めた。ティムは思いのほか高い枝の先に囚われていたがルークは恐れず登り続けた。その間も、兄たちはルークに罵声を浴びせていたがルークの耳には最早届いていなかった。


 目的の枝まで辿り着くとルークは落ちないようにしっかりと枝にまたがり芋虫のように枝の先まで移動した。そして、ティムを縛る縄をほどきティムを解放してしっかりと抱きかかえた。その頃には兄たちは何も言わず不快そうにティムを見上げていた。ルークが妹にティムを掲げて見せると妹は嬉しそうに笑顔を見せた。直後、ルークは一番上の兄と目があった。兄はルークに見下ろされるということが酷く腹正しく感じ、後先考えずに力任せに木を蹴った。力一杯蹴ったところで気は僅かに揺れる程度であったが、それがルークにとっては大問題であった。


 ティムを掲げるように上げていたため、手の支えはなくルークは不安定であった。ルークの体は左右に軽く揺れたと思った直後、大きく傾き木の枝から真っ逆さまに落ちた。兄弟たちの驚く顔を最後に記憶は途絶えた。

 


 この日、ルークは死んだ。

 


 次にルークが目を覚ました時、ルークはティムになっていた。


 何が起きたかわからないルークであったが不思議とやるべきことはすぐにわかった。復讐である。

ルークは間もなく己の能力に気が付き復讐の準備を始めた。


 ティムの持ち主であった妹はルークの目が覚めた時から操ることができた。しかし、他の人間を操るには条件があった。それはティムを見てカワイイと言うものであったがこの条件はあってないようなものであった。驚くほど呆気なく兄弟たちはティムをカワイイと言い操り人形となっていった。その過程でもうひとつの能力の縛りに気が付いた。親は操れないということだ。この縛りが本当に親だからなのか、念のために、街の者たち十数名にも試したが操れなかったのは父と母だけであった。


 こうして、6人の兄姉と唯一の妹を操り人形にしたルークは復讐を開始した。


 享年8歳のルークの復讐は至極単純で恐ろしいものあった。


 6人の兄姉を使って寝ていた父と母を拘束し、あとはひたすら殴り続けた。自分がこれまで受けてきた痛みを一気に返すように兄姉たちに順番に殴らせ続けた。息子たちが操られていることを知らない父と母は恐怖に染まり、操り人形と化した彼らに必死に色んな言葉をかけていたがすぐに言葉も発せない状態になった。


 殴る兄姉たちの拳の骨が砕けてもルークは暴行を続けた。父と母が気を失えば水をぶっかけて起こし、また暴行を開始する。


 そんなことを半日も続けたらとうとう父と母はぴくりとも動かなくなった。ルークはつまらなさそうに動かなくなった父と母を見下ろしてから、今度は兄姉たちを交互に殴らせた。


 半日後、兄の一人の操作が解けた。ルークは死んだら操れないのかと冷静に思うだけであった。数時間後、最後まで立っていたひとりをナイフで自決させルークの復讐は完了した。



 そして、その10分後、ルークは妹も自決させた。



 完全に自分の支配下にあるはずの妹の目から涙が流れていることに気が付いたからだ。




 後日、異変に気が付いた近隣住民の通報により訪れた王国憲兵団によってシティ家の惨劇が明らかになった。憲兵団の強盗の可能性を疑い捜査したが、なくなったものは何もないと発表された。しかし、しかし、実際は赤い熊のぬいぐるみがシティ家から消えていた。


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