22. オスティーvsレオナ
会館の前では幾度となく雷光があたりを照らした。その雷は空から落ちてきたものではなく全てがレオナが持つ剣先から放たれたものであり、その全ての落ちる先はオスティーである。いや、正しくはオスティーがいた場所である。
オスティーはレオナから放たれる全ての雷撃を恐るべき反応速度をもって躱しながら思考を巡らせていた。それはまるでダンスでもしているかのように優雅であった。
無論その行為はレオナに憑りついた何者かを苛立たせた。
レオナはぎりぎりと歯ぎしりをしてキッとオスティーを睨んだ。
「舐めているのか貴様は?」
その問いにオスティーは顔をしかめた。
「失礼な。私は至って真剣だ。どうすれば私の可愛い部下を傷つけずに君から解放できるのか真剣に思案している最中だ」
「それを舐めてるというんだ!!」
レオナの怒りと同時に剣先から今まで以上に強い雷撃が四方八方に飛び散った。これまでの雷撃とは違う、意思の持たない雷撃には流石のオスティーも大きく後方にジャンプして躱すしかなかった。
「ふむ、君は何を怒っているのか、理解しがたい。私は上司として当然のことをしようとしているだけだ」
オスティーは騎士団の証であるマントの汚れを払いながら言った。その余裕な態度が尚更レオナに憑りつく何かを怒らせた。
「あー、ところで君の名前は何というんだ?ジェシーにもあの熊にもティムという名前があるからには君にも名前があるはずだ」
「ふん、名前など聞いてどうする」
オスティーは呆れるようにため息を吐き、レオナは怪訝な顔をした。
「重要なのは君の名前ではない。問題はただひとつ、貴様が男かどうかということだ!」
オスティーは堂々と指を差す。レオナはわずかに顔を歪めながら笑う。
「貴様はどこまで私を愚弄する気だ?」
「いいから答えろ。私にとっては重要な問題だ。貴様が男なら私の可愛いカワイイ部下の女体を楽しんだということになる。それは由々しき事態だ。貴様を生かしておくわけにはいかない」
ふざけたことを言っているようであったがオスティーの目は真剣であった。そして、レオナは笑って答える。
「下らぬ心配を……安心しろ、私は女だ。私の名はケイト・ティライミ軍人だ」
「軍人?」
オスティーの疑問も当然である。キーブリーヌ王国には軍はない。敵国に侵入を許していることになる。王国の騎士団隊長としてますます逃がすわけにはない事態となったのである。
「貴様どこの国の者だ!?」
オスティーは当然この問いに答えるはずがないとわかりながらも問いかけた。しかし、ケイトの反応はオスティーの予想に反するものであった。
「どこの国……私は……」
ケイトは明かに戸惑っていた。オスティーにはその原因がすぐにピンと来た。ケイトもジェシー同様記憶喪失なのだと。
オスティーは再び思考を巡らす。ジェシーのような魂だけの存在は皆記憶喪失なのだろうかと。そうだとしたらジェシーの記憶を取り戻すのは難しい野のではないか、と。
そこまで考えてオスティーは思考を止めて目の前の敵に集中した。
ケイトは動きを止めて呟いていた。
「……あれ? 私はいったい何者だ? ……いや、そうだ、私は何者かなど関係ない。私はあの御方の忠実な部下……今は、ティム様の使い。そう私はあの御方あの御方の! フハハハハハハ」
ケイトは半狂乱に笑いながら;剣先から方八方に雷撃を放った。これまでとは違う意思のない持たない乱雑な雷撃はオスティーにとって脅威であった。予測が役に立たない雷撃の方がオスティーにとって厄介なのであった。それでも、オスティー人間離れした反射神経で全てを躱した。
「そうだそうだ、私は、私は」
ケイトの適当な、ケイトの心を写し出したように乱れた雷撃の雨は終わらなかった。
それでもオスティーはケイトとは対照的に冷静にその全てを躱し続けた。たがて、ケイトの雷撃はオステーの視界を殆ど奪うほどになっていた。そして、オスティーは気が付く。この雷撃は自分を狙ったものではないと。
オスティーがそのことを理解した直後雷撃が止み視界が鮮明になる。ケイトが立っていた場所、雷撃の発生源には地面に立てられたレオナの剣だけが残されていた。
「そう私はあの御方の忠実な……」
オスティーの背後から声がした。ケイトの声はこれまでのような我を忘れたものではなく、至って冷静なものであった。ケイトがわずかに自分が何者かを見失い動揺したのは事実であった。しかしケイトはすぐに冷静さを取り戻し、その動揺した自分を利用して狂った演技をしていたのであった。
ケイトはレオナが常に所持している短剣を抜き出しオスティーに短剣を振りかざそうとした。しかし、その瞬間、ケイトの視界は真っ暗となり何も見えなくなった。
「やれやれ、君の方から私に抱かれに来るとは、ようやく素直になってくれたのかな」
オスティーはマントを脱ぎ棄てケイトの視界を奪ったのであった。
ケイトがマントを振り払い視界が戻った時には当然、オスティーの姿はなかった。
オスティーはケイトの背後に回り込み柄の部分でケイトの首の裏を殴打した。ケイトもといレオナは意識を手放し崩れ落ちた。完全に倒れるまえにオスティーはレオナを炊きとめた。
「おっと、そうか、君は私の可愛い部下ではなかったな。じゃなければ、こんな素直に私に抱かれるわけがない」
そう言って悲しそうに腕の中のレオナを見つめた。
「さて、あっちはどうなったかな?」
オスティーはウェスたちが向かった路地裏を見て呟いた。




