21. 路地裏の戦い
ティムを乗せたメアリーとティムに操られた二人の男はレンガ街の小道へと入っていった。
「ウェス、逃がしちゃダメなんだな。あの熊さんはジェシーを知っていた。あの熊さんには聞きたいことがいっぱいあるんだな」
「わかってるよ、ジェシー。あいつは僕らにとって大きな手掛かりだ。絶対に逃がさない」
ウェスとジェシーも小道に入るとティムたちは既に次の角を右に曲がろうとしたところであった。このままでは見失う。そう感じたウェスはジェシーの力を引き出しスピードを上げる。
ウェスたちが曲がった先で男がひとり減っていた。どこに消えた? そうは感じたが最優先はティムだ。ティムさえ見失わなければ問題はない。
そして、ティムたちは今度左へと曲がる。ウェスたちもそれを追う。やはりと云うべきかもうひとりの男の姿も消えている。それでもウェスとジェシーは気にしない。目標はただひとりティムだ。曲がるたびに距離も縮まっている。もうじき追いつく。ウェスは確信していた。
そして、ティムとメアリーは再び左に曲がった。迷いもなくウェスとジェシーはそれに続く。曲がった先に見えたのは走るのをやめて、ゆっくりと歩くメアリーの姿。彼女の前方にはレンガ造りの建物でできた壁。つまりは袋小路、逃げ道はなかった。
道を間違えたか? ウェスはそうも思ったがゆったりと振り返るメアリーとティムの笑顔をみてそうではないことを理解する。
「はめられたんじゃないかな?」
ジェシーの言葉にウェスはゆっくりと頷く。
とほぼ同時に後ろから途中で姿を消した二人の男が現れた。
「みたいだね。でも問題ないよね? ジェシー?」
「全く持って問題なんだな」
ジェシーは自信満々だ。
「ほうほう、随分と余裕だね。僕に勝てるとでも?」
ティムも自信満々だ。そのセリフを聞きながら、自分の後ろにいる二人の男が剣を抜いたのがウェスにはわかった。
「逆に聞きたいよ。ジェシーに勝てるとでも?」
「僕たちじゃなくてジェシーか……ウェス……なんだったかな?」
ティムの言葉に肩をわずかに震わせた。
「ティム、君は僕のことも知っているのか?」
「くくっ、知ってると言えば知っているよ、でも君はジェシーを持ち出した少年くらいにしか話を聞いてない。簡単に言えば僕が用あるのはジェシーだけ、君はどうでもいい」
ウェスの後ろの二人の男が剣を抜いた。ティムもメアリーの肩から飛び降り、メアリーは懐から小さなナイフを取り出した。少女がナイフを構える姿はかわいいものであったがその脅威はしっかりとウェスとジェシーは感じていた。
「最強の騎士にはあっさりといなされた僕の能力……君たちにはどうかな?」
ティムに操られた3人がウェスとジェシーに襲い掛かる。前方から襲い掛かるメアリーはナイフを強く握りしめ体当たりするように突きを、後方の男二人は剣を振り上げ交差するように振り下ろす。
ウェスはメアリーのわずかに横に動き躱しながら体を捻り、二人の男の剣を日本同時にジェシーで受け止める。ジェシーと剣がキンッと音を立ててぶつかり合った次の瞬間、ジェシーは大きく口を開き、二本の剣を噛み砕きその一部を喰った。
「な、なに? そんなのありかよ」
「ティム、知らなかったのかい? ジェシーに喰えないものはない」
そう言う間に1度は突進を躱されたが再び体勢を立て直し、というよりは最初の突進は躱されるのが織り込み済みだったのだろ、すぐさま反転して本命となる突進を再度仕掛ける。
しかし、メアリーが持つナイフの先には待ってましたと言わんばかりにジェシーが口を開いて待っていた。そして、ナイフの刃の根元から噛み砕き飲み込んだ。
「ふむふむ、中々上質なナイフなんだな。それにしてもそんなことも知らないなんて、ティムは本当にジェシーのことを知っているのかな?」
ジェシーはバリバリと咀嚼音を立てながら言う。唖然とするティム、それに合わせて呼応してメアリーたちは動きを止めた。
「ティム、もう諦めて操っている人たちの催眠を解いてくれないか?」
「あとジェシーとウェスについて知ってることを教えてほしいんだな」
ティムにはもうウェスとジェシーを倒す方法はもうない。そう思えた。しかし、ティムはクスクスと笑いだし、メアリーと二人の男はティムの前へと集まり再びウェスたちと対峙する。
「いやいや、話では聞いていたんだけどね。思っていた以上だよ。戦闘中の剣やナイフも喰うとは。強い、強すぎる能力だね、ジェシー」
「ありがとうなんだな、じゃあ諦めてくれたのかな?」
「諦める? 何を諦める必要があるんだい?」
「そう言われたらティムの目的はなんなんだな?」
「ああ、ごめんごめん、ジェシー。そういう話じゃないし僕の目的について話す気はないよ。ここで言う諦める云々は君たちを……じゃないな、そこの銀髪の少年を殺してジェシーを回収することを諦めないって話さ」
ウェスとジェシーははったりを疑ったがティムの様子から察するにそうでないことは理解した。
「何かあるね。気を付けよう、ジェシー」
「それはこっちのセリフなんだな」
ウェスはジェシーを構えて相手の動きを待った。
「くっくっくっ、大丈夫だよお二人さん、そんな身構えなくても。だって君たちは強いんだから」
メアリーと二人の男が駆け出す。彼らに武器はもうない。あるのは拳のみ。三人は迷いもなくその拳をウェスへと向けた。
これがティムの秘策? 疑問を持ちながら一歩踏み出し左手の男を迎え撃つ。男の拳にジェシーを向ける。
ジェシーの力は強大だ。だからこそ、男は、ティムはその拳を引っ込めるものだと思っていた。その隙間を縫って本体であるティムの懐に飛び込む。それがウェスの作戦であった。
しかし、男はウェスの思い通りのアクションは起こさなかった。男の拳は引っ込めるどころが加速し、自分の拳がジェシーを上回ると言わんばかりにジェシー目掛けて突っ込んできた。結果、慌てて引っ込めたのウェスの方になった。
そして、そのまま男の拳はウェスの胸あたりを捉え、ウェスを大きく後方に吹っ飛ばした。
「ウェス、何をやっているんだな?」
ティムが嬉しそうにケタケタと笑う。
「わからないのかい? ジェシー? 君の弱点だよ。何でも喰う力。強い、強すぎるんだよ。あまりに強い一撃必殺。故に、手加減ができない。だから、僕に操られた無関係な者、特に子供には手が出せないだろ? そうだろ、お二人さん」
ティムは饒舌に語った。そして、今度はウェスとジェシーがクスクスと笑った。
「あんなこと言ってるけど、どうなんだな? ウェス?」
「うーん、一言で言えば舐められたもんだね、ジェシー」
ウェスは立ち上がり微笑みジェシーを構えた。




