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人喰いジェシー   作者: 未々山田
第一章 フローズン村~港町コーネル編 最強の騎士と独立軍
19/33

18. オスティーとハック

 昨晩降り始めた雨はまだ止んでいなかった。


 ウェス、オスティー、カイムとマイム、そしてジェシーの五人は雨の中、反乱軍リーダーハックが待つコーネル南会館に向かっていた。


「隊長、わかっていると思いますがなるべく穏便に済ましてくださいね」


「ああ、もちろんだとも……ところで昨日言い忘れたが、ハックと会うのは私とウェス君の二人だけだ。君たち二人は外で待機していてくれ」


「またですか?」

 マイムは明らかに不満そうな顔をした。しかし、オスティーはそんなこと気にも留めず「ああ、まただ」とだけ言った。それっきり、誰も何も喋らなかった。


 コーネル南会館の前には20人ほどの男たちが待ち構えていた。男たちはオスティーたちに気づくと睨みを聞かせながらゆっくりと近づいてきた。


「た、隊長、本当に大丈夫ですかね? 捕って喰われたりしませんかね?」

 カイムは震える声で無理に笑いながら言った。


「こんなやつらに喰われるほど暇じゃない。……やあ、君たち出迎えご苦労」


 そう言ってオスティーは男たちに手を振った。何人かの男は強く拳を握りしめ一歩前に出たが、バンダナをした男に手で制止されると大人しく引き下がった。


「やあ、オスティーさん、久しぶりだね。相変わらず元気そうでなによりだ。中でハックさんがお待ちだよ。


 それで、悪いんだけどハックさんはオスティーさんと二人っきりで話がしたいらしい。


 せっかく来てもらったのに悪いんだが他の三人はここで待っててもらえるかな?」


「悪いがその申し出は断る。ハックに伝えろ。この少年も一緒だと」


「昨日の……」

 バンダナの男は怪訝そうな顔をした。


「オスティーさん、どうしても必要なのかい?」

「ああ、絶対だ」


 バンダナの男は探るようにウェスを見てから再びオスティーに焦点を戻した。


「わかりました。ハックさんに聞いてみます」

 男は会館へと小走りで入っていった。


「大丈夫ですかね?」

 マイムが小声で言う。


「問題ないさ」

 オスティーは自信満々に答えた。


 この間も男たちはしっかりとオスティーたちを睨みつけていた。


 間もなくバンダナの男が戻ると

「ハックさんの許可が出ました。どうぞ、お二人は中に」


 オスティーはマイムの方をチラッと見て「ほらな」と得意げに呟いてから歩き始めた。ウェスはその後に続いた。


「二人ともお気をつけて」

 マイムの言葉にオスティーは反応を示さなかったが、ウェスは振り返って丁寧にお辞儀で応えた。そして、ウェスは再び前を向き小走りでオスティーを追いかけた。


「二人よりも俺たちの方が危険じゃないかな?」

 カイムがそう零すとマイムは鬼の形相でカイムを睨んだ。


 部屋に入るとハックが腕を組み目を瞑って椅子に腰かけていた。オスティーは何も言わずハックの正面の椅子に腰かけた。


 立ち位置を探しおろおろするウェスにオスティーは「君も座りたまえ」と促した。


 その声に反応してハックは目を開いた。

「よく来たな、オスティー」


 ハックが低い声で言う。

「呼び出したのは貴様だろう」

 オスティーも威厳たっぷりに答えた。


 張り詰める空気にウェスはゴクリと唾を飲み込んだ。


 今から二人は殺し合いを始めるのではないか?

 ウェスがそう感じるほどであった。


 しかし、次の瞬間二人は楽しそうに声を上げて笑い始めた。そんな中、ウェスはひとりポカーンとしていた。


「おうオスティー、よく来たな」

「やあハック思いのほか元気そうで何よりだ」


「いやいや、元気なもんかい。仲間がやられたばっかなんだ。それでなにか新たな情報は掴んだか?」

「ああ。勘の悪いお前にしては絶妙のタイミングだったよ」


 予想に反して穏やかに会話を進める二人に、ウェスが戸惑っていると、オスティーは愉快そうに笑った。


「ウェス君、すまんね。見てわかるように我々は敵対などしていない」


「えーっと、つまり二人は今でも友人ってことですか」

「まあ、そういうことだ」


「おいおい、先にその坊主を俺に紹介してくれ」

「待てハック、今順を追って説明する。先にウェス君にこの状況を説明する」


「お、お願いします」

「ふむ。まあ、簡単にいうとだ、私はこの地に赴任すると決まった時からこの事件には裏があると思っていた」


「この事件というのは王国兵殺しと反乱軍殺しのことですね?」


「そうだ。尤も、赴任が決まってハックに会うまでは反乱軍側にも死者が出ているなんて知らなかったけどな。


 まあ、それでなにかおかしいとすぐに気づけたんだがな」


「それじゃあ、お二人が敵対していたように見せていたのは……」


「そう演技さ。そうすれば敵もすぐにボロを出すと読んでいたんだが……残念なことに全く尻尾を出さない。さて、どうしようと悩んでいたところに君の登場ってわけさ」


「それで、困った俺たちの前に現れた彼は何者だ? なにか手がかりを持ってきてくれたのかな?」

  ハックがウェスをじろじろち見回しながら言う。


「ああ、とんでもない情報を持ってきてくれたさ。そして、彼ではない。彼らだ」

 オスティーの言葉の意味が分からずハックは眉をしかめた。


  そんなハックを見てオスティーは得意そうに鼻で笑いウェスに目配せした。それに気が付いたウェスは何も言わず机の上にジェシーを置いた。ウェスの行動をを見たハックはさらに混乱した。


「この小汚い包丁がなんだっていうんだ?」


「ジェシーは小汚くなんかないんだな! 謝ってほしいんだな」

 小汚ないと言言われたのが腹立ったのかジェシーがいつも以上に大きな声で言った。


 その瞬間、ハックは思わず机をバンッと叩いて立ち上がった。


「うわぁー、びっくりするなー。もう、乱暴は止してほしいんだな」


 再度響くジェシーの声を聞きハックは目を大きく見開いてジェシーを見た。オスティーはハックの驚く様を見てクスクスと笑っていた。


「なんだこれは?」

 ハックの言葉を受けてウェスが口を開く。


「紹介します。ああ、その前に僕の自己紹介が必要ですね。僕はウェスといいます。


 これからら紹介するジェシーとも関係するのですが、探し物があってこの国を旅しています。そして、彼女はジェシー」


「ストップだな。自己紹介ぐらい自分でするんだな」

  ウェスの言葉を遮ってジェシーがしゃべり始める。


「こんにちは、ハック。ジェシーはジェシーっていうんだな。好きな食べ物はリンゴ、嫌いな食べ物はトマト。よろしくね」


 暫しの間絶句してからハックはようやく言葉を出す。


「オスティー……俺はおかしくなったのか?」


「いいや、お前は正常さ。しかし、お前が私以上にこういう非常識な存在に免疫がないとは意外だな」

 そう言ってオスティーは愉快そうに笑った。


「こいつはいったいなんなんだ?」

「こいつって言い方はやめてほしいんだな」

  ジェシーがすかさず言う。その言葉にもハックはビクッとした。


「そうだぜ、ハック、彼女に失礼だ。ジェシーがいったいなんなのか、その説明はウェス君、頼む」


「説明って言われても困るんですけど……簡単に言えばジェシーは包丁に憑りついている女の子の幽霊です」


 幽霊という言葉にジェシーがむっとしたのにウェスは気づいたが無視した。


「幽霊? それを俺に信じろと?」


「信じるも何も実際に目の前にいるだろ?」

 オスティーにそう言われ、ハックはじろりとジェシーを見た。

「ジェシーをそんな目で見ないでほしいんだな」

 ジェシーの言葉は無視され、ハックの疑い深いまなざしはジェシーに注がれ続けた。そんなハックを見てオスティーはふーっとため息を漏らす。


「でかい図体なのに情けない奴だ。とりあえず、ジェシーの存在を受け入れろ、じゃなきゃ話が進まん」

「無茶言いやがる……」


「大丈夫だよ、ハック、ジェシーは怖くないよ」

「そういう問題じゃなくてだな……」

 ハックは髪もないのに頭を掻き毟った。


「お前の繊細さに付き合う暇はない。本題に入るぞ」

「本題?」


「ああ、我々の追っている敵の正体さ」

「おいおい、まさか……」


「そのまさかさ、敵はジェシーと似たような存在のものだ」

  オスティーは得意気に笑った。一方、ハックは信じられないと言いたげな顔をしていた。


 一瞬の沈黙の後ハックは大きく息を吸ってからカッと目を見開いた。


「おいおいおいおいおいおい、何言ってやがる、もう無茶苦茶だな、こんな非常識な存在に出会っておかしくなっちまったか? オスティー? こんなトンチンカンな物が他にもいて敵だって? 冗談はよせ! こんなのがそう何匹もいてたまるか!」


 そうハックが声を荒げている間にジェシーと、そしてウェスも確かに感じた、同類の存在を。ウェスは素早くジェシーを手に取り身構えた。


「オスティーさん、ハックさん、敵が来ます!」

 ウェスができる限りの大きな声で扉を指さしそう告げてジェシーを手に取り構えた。


 呆れたようにハックを眺めていたオスティーもウェスの様子から緊急性を察して立ち上がって、剣をすぐに抜き出せるよう手をかけ身構えた。

 状況をうまく掴めていないハックもオスティーに倣って警戒するように扉を見た。


 次の瞬間、勢いよく扉が開かれた。



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