17.不満気な隊長補佐 レオナ
「ふむ、そうか。反乱軍の方でも似たような事件が起きていたか」
マイムからの報告を聞いたオスティーはそう呟くと深いため息を吐いた。
「どうせあのハゲちゃびんの嘘ですよ。王国兵殺しにも関与していないとか白切ってましたし、あいつは嘘ばっかなんですよ。もうあんなやつとっとと捕まえて牢にでも放り込んでおきましょうよ。なんなら僕が今からいってきますよ」
と、ハックの前ではひたすら震えていた男、カイムが言うと、素早く隣にいたマイムがカイムの頭を全力で叩いた。そんな中オスティーはなぜか嬉しそうに笑っていた。
「どうかしましたか、隊長?」
「いや、なんでもない。……ハックは確かにハゲだ。見事なまでのハゲだ。だが嘘つきではない」
オスティーがそう呟くとレオナとマイムは一瞬どこか悲しそうな顔をしたのをウェスはしっかりと見ていた。
「訳ありかな?」
ジェシーの声にウェスはなんの反応も示さなかった。
「それで、明日どうしますか、隊長?」
マイムは先ほどまでと変わらぬ調子で言った。
「ちょうど良い機会だ。行くさ。君たち三人もついてきなさい」
オスティーはカイム、マイムそしてウェスの三人を見てそう言った。
「た、隊長! 私は?」
隊長補佐官のレオナがいつもより少し声を大きくして言った。レオナの態度が予想外だったのかオスティーは怪訝な顔をした。
「君はここで留守番だ。ここを空にするわけにはいかない」
「しかし! 私は隊長補佐官です!」
「そうだ君は私の補佐官だ。だからしっかりと補佐してくれたまえ、ここに残って」
「しかし!」
もう一度そう力強く言うレオナであったが、オスティーの鋭い目で睨まれると、ばつの悪そうな顔をしてから
「いえ、わかりました」
と少し寂しそうに呟いた。
「隊長、なぜウェス君も連れていくのですか?」
マイムが問う。
「彼は王国兵殺しの犯人を見ている。明日の会合にも犯人がいる可能性は非常に高い。連れて行かない手はない」
「しかし、もし、戦闘になった場合非常に危険ですよ」
「えっ! 戦闘になるの?」
カイムが本気で驚いたように言うがその場にいた全員が無視した。
「問題ない。わたしがいる」
「向こうにはハック氏がいます」
マイムが間髪置かずに言う。
「私がハックに負けると?」
「一対一なら間違いなく隊長が勝つと思いますが、明日戦闘になった場合、ウェス君を守りながら戦うことになります。それに向こうは私たちの何倍もの人数で待っているでしょう。それでも問題ないと言えますか?」
「ああ、問題ない。私はキーブクロイス王国最強の騎士といわれているオスティー・ティガーだぞ」
オスティーがそう返すと二人はしばし睨みあうように対峙していたが、
「失礼しました。最後にひとつだけよろしいですか?」
「なんだ?」
「明日、万が一、反乱軍と戦うことになった場合、彼らを……ハック氏を隊長は斬れるのですか?」
「当たり前だ」
オスティーはそう答えると椅子をくるりと回してマイムたちに背を向けた。
「その言葉信じています」
マイムがそう言う横で、大きくひとり大きく首を傾げた。マイムはカイムに聞こえるか聞こえないかわからぬ大きさで「本当に馬鹿ね」と呟いた。
「ああ、そうだ、ウェス君とふたりで話さなければいけないことがある。悪いが君たちは外に出てくれ」
オスティーは椅子をくるりと戻して言った。その言葉にレオナたち三人は驚きと困惑が入り混じったような表情を見せた。
「私もですか?」
レオナが不満そうに言うが、オスティーは気にも留めず、ただ「ああ」とだけ答えた。
「私にも聞かれてはまずい話ということですか?」
「私は構わないが、ウェス君がそれを望んでいない。あとコナタ氏もだ」
そう言われてレオナはウェスを睨むように見ていたが、やがて
「下の事務所にいますので用件が済み次第お呼びください」
そう言うとレオナは部屋をあとにした。それに続いてカイムとマイムも訝し気な顔をしながら部屋から出て行った。
オスティーはふうっと息を吐いた。
「全く小うるさい部下たちだ。すまんね、ウェス君、ジェシー、いつもはもっと聞き分けのいい部下たちなんだが……それで、何かわかったかい?」
「はい。先ほどのマイムさんの話していた通り反乱軍ハックさんのところに連れていかれたんですが、ハックさんと話しているその途中、ジェシーが同類の気配を感じました」
「ふむ。では、やはり呪いの武器に憑りつかれた人間は反乱軍にいるということだな。具体的にどいつかわからなかったのか?」
「うーん、それはちょっとわからないんだな。いたっていうのは間違いないんだけど……それになんか……」
「ジェシー、なんかあるのかい?」
「うーん……ううん、なんでもないんだよ」
ジェシーらしくないな。ウェスはそう感じた。
「反乱軍にいた。それだけで十分だ。ハックの協力を得ればすぐに見つけ出すことができるはずだ。そのためにはジェシーをハックに紹介する必要があるんだが……」
オスティーはチラッとウェスを見た。
「もちろん大丈夫です。ねえ、ジェシー」
「問題ないんだな」
「ありがとう。……君たちのおかげでこの地での任務になんとか終わりが見えてきた」
オスティーはそう言って肩の力を抜いた。そんなオスティーを見て
「あの、オスティーさん、質問していいですか」
とウェスは言った。
「なんだ?」
「ハックさんの協力を期待しているということは、やっぱりオスティーさんとハックさんと友達なんですか?」
「ああ。子供の頃から知っている古い仲さ。ただ、今でも向こうが私を友達と思っているかは話は別だが」
「やっぱり訳ありなんだね」
ジェシーの言葉にオスティーは愉快そうに笑った。
「訳ありか……まあ、そうなるな。いずれにしても今回の件にハックと私の仲は関係ない。二人は呪いの武器を捜すのに集中してくれ」
「わかりました。それでは失礼します」
そう言ってウェスは部屋を後にした。
下の事務所に行くとレオナたちがゆったりとコーヒーを飲んでいた。ウェスを見つけたレオナは
「秘密の話は終わりましたか?」
と不機嫌そうに言った。
「はい……その、すみません」
「いえ」
レオナは一言そう言うとすぐにオスティーのいる部屋へと向かった。
「ごめんね、ウェス君。レオナさんは隊長ラヴだからあんな扱い受けると露骨に機嫌悪くなっちゃうのよ」
「いえ、僕にも非があるので」
「非とは言わないけど……私も隊長とウェス君のヒミツの話は気になるわ。私たちにはどうしても話せないことなの?」
「そうだよ、ウェス君。言っちゃあなんだが、隊長よりも俺たちとの付き合いの方が半日ほど長いんだよ」
「ごめんなさい。まだ、ダメなんです」
「まだ?」
二人は声をそろえて言った。
「はい。きっと今回のことが終われば二人にもお話しできます」
「やはり今回の件と関係が……いえ、これ以上の詮索はやめましょう。今は私たちに言わない方がよい。隊長がそう判断しているのだから」
「マイムも大概隊長ラヴだよな」
そう茶化すカイムをマイムは無言で殴った。
「ところでマイムさん、一つ聞きたいことがあるのですが」
「なに?」
「ハックさんは強いのですか」
「ええ、とても。恐らくカイムはもちろん私よりも」
「俺はもちろんってどういうことだよ!」
「言葉通りよ」
「ハックさんの強さを知っているということは、以前に反乱軍と王国群で戦闘があったんですね」
「いえ、ないわ。ここの憲兵団がハック氏を恐れて回避していたから」
「えっ? じゃあ、なぜハックさんがそんなに強いって知っているんですか?」
「それはハック氏が元王国兵だからよ。王国軍は三つに分けられるって話は覚えてる?」
「はい、確か憲兵団に騎士団……」
「そして特攻を担う爆裂団。ハック氏はそこにいた。ハック氏は隊長が騎士団に入った年と同じ年に爆裂団に入った。おかげで二人はよく比較対象にされていたらしいわ」
「オスティーさんと比較されるほどハックさんも強いということですね?」
「ええ。まあ、隊長の方が評価高いのは明白だったけど。それでもハック氏も知らない兵がいないほど有名だったわ」
「なぜハックさんは王国軍を抜けて反乱軍になったんですか?」
「さすがにそこまでは私は知らないわ。でも……隊長なら」
マイムはそう言って宙を見上げた。
その時、パンッパンッと大きくカイムが手を叩いた。
「はい。おしまい。ハックさんにもなんらかの事情があるのかもしれないけど、俺たちは明日の任務に集中すべきだ。よって、この話はこれでおしまい。わかった?」
「あんたに言われなくてもわかってるわよ。ウェス君、明日はよろしくね。カイムが死んでもウェス君を守るから安心して」
「なんで俺だけなんだよ!」
カイムが突っ込むのを見てウェスは苦笑いをするしかなかった。
「ありがとうごさいます。……では、今日はこれで失礼します」
ウェスはぺこりと頭を下げ、部屋を後にした。
宿に戻ったウェスは、部屋の椅子に腰かけると、うーんと唸った。
「どうかした、ウェス?」
見かねたジェシーが声をかける。
「この呪いの武器は何がしたいんだろうって思って」
「王国軍と反乱軍を喧嘩させたいんじゃないのかな?」
「ジェシーの言う通り喧嘩をさせたいっていうのはわかるんだよ。でも、なんのために?」
「そんなことは知らないんだな」
ジェシーがあまりにもあっさり言うのでウェスは困ったように笑った。
「そう言わずに少しは考えてよ。いいかい? わざわざ危険を冒してまで喧嘩をさせようとしてるってことは呪いの武器にはそれだけなにか良いことがあるってことなんだよ」
「ふむふむ。それでその良いことっていうのはなんなんだな?」
ジェシーにそう言われてウェスはまた、うーんと唸る。
「それがわからないんだよ。オスティーさんの言う通り第三国が1番それに当たると思うけど、今はそういう国はないって言うし、うーん」
「反乱軍か王国軍を潰したいんじゃないのかな?」
「それも考えたけど、だとしたら両軍で事件を起こす必要はないんじゃないかなと思って」
「別に起こしてもいいなじゃないのかな?」
「いいと言えばいいけど、でも事件を起こせば起こすほどばれるリスク高くなるし、両軍に警戒されて動きにくくなるしで割に合わないと思うんだよね」
ウェスの言葉に今度はジェシーがうーんと唸った。
「ウェスは生真面目すぎる気がするんだな」
「生真面目? どういうこと?」
「みんながみんなウェスみたいにリスクとかそういうのを真面目に考えてるわけじゃないんだな。もしかしたら、ただ単にこの呪いの武器はオスティーとハックの喧嘩を見たいだけなのかもしれないんだ」
ウェスははっとする。
「見たいだけかどうかはともかく、呪いの武器が争わせたいのは王国軍と反乱軍じゃなくてオスティーさんとハックさん……確かにその可能性はあるけど、結局理由がわからないな。二人の知り合いとか?」
「だから、ただ単に見たいんじゃないのかな? オスティーとハックが強いっていうならジェシーもその喧嘩見てみたいんだな」
「そんな子供みたいな理由でこんな大それたことしないよ」
「そうかなー……結局、そんなことどんなに考えてもジェシーにもウェスにもわからないんだな。明日、犯人に聞いてみるのが一番手っ取り早いんだな」
「それもそうだけど……うーん、他にもなんか引っかかてることがあったんだけどなんだったかな?」
三度うーんと唸るウェスを見てジェシーは呆れるようにため息を吐いた。
「ウェスは考えることが多くて大変なんだな……ジェシーはもう眠たいから眠るんだな」
「そうかい、おやすみ」
「ウェスも早く寝るんだよ」
「うん」
空返事をしたウェスはふと外に目をやった。いつのまにか雨が降り出していた。ウェスは暗い雲を見上げて
「うーん、なんだったかな?」
そう呟いた。




