15. 呪いの武器探し
オスティーは机の上の電話を戻すと同時に口を開く。
「すぐに来る。ああ、それから念の為に二人にもジェシーのことは秘密にしておこう」
「わかりました。わかったな、ジェシー」
ウェスはそう答えながら釘を刺すようにジェシーを指でトントンと叩いた。
「えー、つまんないの」
ジェシーはそう言ってそっぽを向いたようにウェスは感じた。
「特にマイムには気をつけたまえ、昨日普通じゃ切れないような木を切っただかで君を警戒しているぞ」
「やっぱりですか」
ウェスは困ったように頭をカリカリと掻く。
「それで、実際どうやったんだ? やはりジェシーで切ったのか?」
「切ったというよりは喰ったですね」
「喰った?」
オスティーがそう言うのとほぼ同時にトントントンとノックの音が3回響いた。
「おっと、もう来たか、ウェス君今の話はまた後で聞かせてもらうよ、どうぞ」
オスティーの掛け声の直後すぐに扉は開かカイムとマイム、そして補佐のレオナが入室してきた。
「隊長もういらしていたのですね。まだいらしていないと思って下でお待ちしていましたのに」
レオナがオスティーを睨みながら言う。
「そうか。私を待ち焦がれていたか。しかし、私ほどの男に待たされるのは格別だったろ」
「ええ。次、このようなことがあれば迷いもなく撃たせてもらいます」
レオナは笑顔でそう言った。
「ところでなぜウェス君がこちらにいるのですか?」
ウェスを見つけたマイムが言う。ウェスはなにも言わずお辞儀だけした。
「昨夜の王国兵殺しの事件はもう聞いたな?」
「もちろんですよ! 反乱軍の仕業ですよね。もう、あんなやつら全員捕まえちゃいましょうよ」
オスティーの問いに興奮気味にカイムがそう答えると隣にいたマイムが素早く腹に肘鉄をお見舞いした。
「うむ。その事件の第一発見者なんだが、それが実はウェス君だ」
カイムが大げさに「なんと!」と言うがオスティーは無視して話を続けた。
「ただの第一発見者なら問題ないんだが、ウェス君がこの国のものではないと知って憲兵団のやつらが容疑者に格上げしてしまった」
また「なんと!」と騒ぐカイムをじろりとオスティーが睨むと素早く気をつけをした。
「もちろんウェス君は犯人じゃない。しかし、憲兵団のやつらに預けといたらどうなるかわからないから奪い取ってきた」
「なるほど。それは大変だったね、ウェス君」
「うむ。それでウェスくんから詳しい話を聞いたんだが、実はウェス君は犯人の顔を見ている」
「なんだって本当かい?」
カイムの問いに答える前にウェスはオスティーを見た。オスティーは一度だけゆっくりと頷いた。
「はい。本当です。チラッとですが」
「このことは憲兵団の奴らは知らない。そこでカイムとマイムに任務を言い渡す。ウェス君を監視するという名目で一緒に街を歩き犯人を見つけ出してこい」
「了解です」
カイムとマイムは声を揃え、そして同時に敬礼をした。
「いいか。犯人は相当の手練の可能性が高い。犯人を見つけてもすぐに行動せず私に連絡しろ」
「大丈夫ですよ、隊長。敵一人くらいあっさり倒してみせますよ」
そう自信満々に言うカイムの頭をマイムは思い切り叩いた。頭に手を当て痛がるカイムを無視して
「了解いたしました。さあ行きましょう、ウェス君」
と言った。
ウェスとマイムが部屋を出て行くとカイムも慌てて「いってきます」と言い残してあとを追った。
「隊長、ウェス君は本当に犯人の顔を見たのですか?」
レオナが言った。
「ああ、本当だとも。……なぜそう思った」
「いえ。お二人が目配せをしていたので」
「なるほど。ふむ。勘のいい女は嫌われるぞ」
「勘を働かせる必要がある男には興味がありません。それにあなたに嫌わなければ問題ありません」
「ふむ。女としては最悪だが補佐官としては最高だ」
「では、給与をあげてください。……コーヒーでもお入れいたしまそうか?」
「頼む」
オスティーの返事よりも早くレオナは動き出していた。
※
ウェス、カイム、マイムのそしてジェシーの四人は街一番北の通りを西から東に歩き、端まで行ったらひとつ南の通りに行き、今度は東から西にといったように文字通り街を練り歩いていた。
コーネルの街は広く人口も多い。ひとりの人間を探すという作業は困難を極めた。さらにその探す対象の顔も分からず頼りになるのはジェシーの根拠不明の感覚しかないとなれば尚更だ。
朝八時に街に繰り出したがなんの成果も出ぬまま昼の二時になっていた。
「ううー、よく考えればこんなに広い街でチラッと見た男を探すなんて無理があったんだよ」
カイムはそう言って小石を蹴った。
「泣き言は言うな。でも、このまま闇雲に歩いても厳しいかもね」
「だろだろ? 隊長にハメられたんだよ。これはきっと隊長の嫌がらせなんだー」
カイムは嘆き叫んだ。
「あの、落ち着いてください、カイムさん」
「ああ、ごめんよ、ウェス君。騎士団の俺がこんなんじゃダメだな。ウェス君なんかたまたま犯人を見たってだけで付き合わされてるのに」
「本当よ。全く情けないわ。あんたなんか本当は騎士団に選ばれるような人材じゃないのよ」
「な、なんだと」
「なんだとも糞もないわよ。ただオスティー隊長に気に入られてるから入れただけじゃない。ところでウェス君、犯人は男で間違いないのよね?」
マイムの質問にウェスはドキっとした。
「はい。そうです。多分……」
実際は犯人を見ていないウェスは曖昧に答えるしかなかった。
「多分ってどういうこと。犯人を見たんじゃないの?」
マイムは思わずきつい口調になって言う。
「えーっと、その、中性的な顔立ちだったのでもしかしたら女性なのかもと……でも顔はしっかりと覚えていますので安心してください」
ウェスの返答にマイムはあまり納得の言っていない表情で「ふーん」とだけ言った。
「今の言い訳は苦しいと思うな」
ジェシーがウェスにだけ聞こえる声で言った。ウェスはジェシーの声を無視した。
マイムは自身の腕時計をチラリと見て、覚悟を決めたかのようにふーっと息を吐きだした。
「仕方ない。さらに南下しますか」
マイムが呟くように言った。
「えっ! ちょっと待てマイム! 正気か?」
カイム大きな声で言った。
「仕方ないでしょう。犯人は十中八九反乱軍の人間なんだから南の方に行かなきゃ見つからないわよ」
「いや、でも、せめて服を変えていけないかな?」
「はあー、情けない。あんた本当に騎士団やめたら」
マイムの言葉にカイムはわなわなと震えたが言葉は出てこなかった。
「南のほうが危険なんですか?」
ウェスが問う。
「ええ。十二番通りより南は反乱軍のたまり場。王国兵がうろつくのは少し勇気がいるわね」
「勇気とかそういう問題じゃないだろ。最悪俺たちが新たな王国兵殺しの被害者になるぜ」
「そうは言っても行かなきゃ犯人を見つけられない」
「だ、だけど、そんな危ないところにウェス君を連れて行けないだろ」
カイムはウェスの身を案じるが本当に案じているのは自分の身なのは明らかだ当然そのことを見透かしているマイムは侮蔑の視線をカイムに送り付けた。
「大丈夫よ。反乱軍から見ればウェス君は狙うべき対象じゃない」
「えーっと、……あっ、犯人がウェス君に見られたことを知っていたとしたどうするんだよ」
「それは……」
マイムは言葉を詰まらせてウェスを見た。
「僕は大丈夫です。二人がよろしければ行きましょう。その反乱軍のたまり場に」
ウェスは笑顔で答えた。その横でカイムは「いや、ウェス君無理しなくても」と小さな声で呟いていたがウェスは笑顔を見せるだけであった。
「これで文句はないわね」
マイムは勝ち誇ったようにカイムを見た。
「うう、了解いたしました」
カイムは諦めたように言った。
四人は十一番通りを南下して十二番通りへと入っていった。街並みはそれまでとなんら変わらなかったがそこにいた数人の男たちのカイムとマイムを見る目つきは他の人たちと明らかに違うものであった。
「やっぱり引き返すべきだと思うんですがいかがでしょうか?」
その視線にすぐに気が付いたカイムが小さな声で言った。
「却下。さあ行くわよ」
マイムがカイムの提案を棄却して歩き始めた。
四人はそれまでと同様に通りを西から東に行き、通りの西東まで行けばひとつ南の通りに行き、また東から西に行くように進んだ。
「ジェシー、なんにも感じないのかい?」
ウェスが心の中でジェシーに問う。
「うーん、残念なことになにも感じないんだな」
ジェシーが緊張感のない声で言った。
四人はさらに南へと進んでいく。南下するたびに人々から送られる視線の殺気が強くなるのをウェスは感じていた。それでもウェスたちは進むしかなかった。
「まずいわね」
マイムがそうこぼした。ウェスもマイムと同じことを思っていた。
二つ前の通りから五人の男がウェスたちのあとをつけていた。ウェスもマイムもそれは承知していた。そして、今、前方にさらに五人の男が迫っていた。
「次の所を左に曲がって戻りましょう」
マイムが少し早口になって言う。
「いいえ。無駄です。そこにもすでに人がいます」
対してウェスは落ち着き払った口調で言った。その横でカイムは顔を真っ青にさせていた。
前方の五人が立ちふさがるようにウェスたちの前に立った。そして後ろからおってきた男たち、左手から現れた男たち。計十人以上の男達にウェスたちは囲まれた。男たちはそれぞれが武器を所持していた。
「私たちになにか用ですか?」
マイムはいつもと変わらぬ調子でそう言った。だが、右手はすぐに戦闘を開始できるよう腰に差した剣に触れていた。
「なにか用とは白々しい。わかってるんだぞ、お前たちの仕業だってことは!」
若い金髪の男が叫ぶように言った。男の言葉にマイムは眉をしかめた。
「なんのことですか?」
マイムがそう言うと男は怒りを露わにして剣を抜こうとしたが隣にいた中年の男に制止された。
「あんたたちにはまだ伝わっていないのかな。こっちで処理しちまったしな。まあ、いい。ついてきな。リーダーから話がある」
そう言って中年の男はウェスたちに背を向け歩き始めた。それについていくか悩み、動き出さないウェスたちに気がついた男は、
「あんたらに拒否権はない。いいからついてきな」
と言った。ウェスたちの背後の男たちは剣を抜きウェスたちに刃先を向けた。
「いいでしょう。お会いしましょう。ハック・バックに」
マイムはそう言って歩を進めた。カイムも震えながらついていった。
「ジェシー、この中にいるかい?」
「ううん、この中にはいないと思うよ」
ふたりは心の中で会話してからカイムとマイムのあとをついていった。




