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人喰いジェシー   作者: 未々山田
第一章 フローズン村~港町コーネル編 最強の騎士と独立軍
15/33

14. 勝手なジェシー

 迷うウェスと疑うオスティーの視線が重なる。そして、ウェスはもう一度時間を稼ぐ言葉を言おうとした。ほぼ同時にオスティーもなにか隠しているウェスを問い詰めようと口を開こうとした。だが、そのどちらよりも先に少女が発言した。


「その質問にはウェスに代わってジェシーが答えるんだな」


 ウェスとオスティーは同時にぎょっとした。それからすぐにウェスは腰のホルダーに収められた包丁を取り出した。それを見てオスティーも腰にさした剣に手をかけた。


「ひどいよ、ジェシー。昨日はあれだけ拒否していたのに」


 ウェスは包丁を自分の顔の前に持ってきて言った。包丁にそう話しかけるウェスをオスティーは驚いたように何度も瞬きをしながら見守った。それでも決して剣から手は離さなかった。


「昨日は昨日。今日は今日。柔軟に行こうウェス」

 ジェシーがなぜか偉そうに言う。


「この声はその包丁の声……なのか?」

 オスティーが呟くように言う。


「紹介します。彼女の名前はジェシーです」

 そう言ってウェスはジェシーをオスティーの机の上に置いた。オスティーは目の前に置かれた包丁を覗き込むようにみた。


「こんにちはオスティー。ジェシーはジェシーっていうんだな。好きな食べ物はリンゴ、嫌いな食べ物はトマト。よろしくね」

 ジェシーがそう言うとオスティーは頭を抱えた。


「これはいったいなんだ。私はおかしくなってしまったのか」


「いえ、オスティーさんは正常です。彼女はジェシー。包丁にとり憑いている女の子です」


「……幽霊だっていうのか?」


「解釈はそれであっていると思います。昨日お答えできなっかった質問に今お答えします。僕とジェシーはジェシーの魂をこの包丁から解放する方法を探しています。


 それで、僕の先生がカナタ・ハウスランドさんならなにか知っているかもって言うのでキーブクロイス王国に来ました」


「なぜカナタ氏が?」

「昔、今から40年くらい前に先生とカナタさんが飲んだ時にジェシーのように魂がとり憑いた武器のことを話したそうです」


「ん? それでは君がコナタさんのところを訪ねたのは?」

「はい。カナタさんがいると思ってです」


「そこでカナタさんが今では王国の武器職人で簡単に会えないことを知った。それでコナタさんの協力で私のところに来たのか。ではコナタさんもこの包丁を知っているんだな?」


「包丁じゃない。ジェシーだよ」

 ジェシーが不満そうに言う。


「はい。知っています」

「ふむ。カナタ氏に会いたい理由はわかった。もうひとつの方、イーストタウンに行きたい理由は?」


「『人喰いジェシー』を知っていますか」

「童話のか? もちろん知っているさ。こいつはあのジェシーなのか?」


「わかりません。それを確かめるためにイーストタウンに行きたいんです」


「ああ、そうか。あそこは『人喰いジェシー』の舞台となった街か。確かめるということは、こいつには記憶がないのか」


 オスティーは頬杖をついたままジェシーを指差した。すると、ジェシーは口を開き歯をガチガチと鳴らしオスティーを威嚇しながら


「こいつっていうな。ジェシーって呼べ」

 と怒った。オスティーは慌てて指を引っ込め椅子ごと後退した。


「口まであるのか!」

「ジェシーダメだよ。ごめんなさいオスティーさん」


「いや、いいんだ。……すまなかった、ジェシー」

「うん、そういうふうにジェシーって呼ばれたら嬉しいんだな」


「それで、ジェシーの記憶はないのか?」

「はい。ジェシーには包丁の前の記憶がないんです。ジェシーを解放するにはジェシーの記憶を戻す必要があるのではってコナタさんが言うのでカナタさんに会うのと並行して記憶を取り戻そうと思いまして」


「ふむ。なるほど。これで君がなぜこの国に来たのかは一応はわかった。いろいろと想定外で受け入れがたいこともあるが……とりあえずジェシーという無茶苦茶な存在はここでは置いておこう。今の一番の問題は君が、いや、君たちが昨日なぜあそこにいたかだ」


「それはですね。ジェシーが同類の存在を感じ取ったからです」


「同類? ジェシーのようなものが他にもいるというのか?」


「みたいです。僕たちも昨日初めて知りました。それでジェシーを解放する手がかりを得られるかもと思ってジェシーの感覚を手がかりに追いかけていたんです」


「ふむ。それで君たちはそのジェシーと同類の存在を追いかけていたら現場に遭遇した。というわけだな」


「はい。そうです」

 オスティーはフーっと息を大きく吐き出しながら前髪をかきあげた。


「わかったような、わからないような話だな」

「すみません」


「謝るようなことではない。君たちは事実をただ話しているだけなのだろ? ところで、昨日はなぜジェシーのことを話してくれなかったんだ?」


「昨日はジェシーが嫌だって言ったんです」

「ジェシーが? ジェシー、昨日はなぜ嫌だったんだ」


 ジェシーは珍しく名前を呼ばれてもすぐに反応しなかった。

「ジェシー?」

 ウェスは心配そうに名前を呼んだ。


「昨日はね。昨日はなんとなく嫌だなと思ったんだよ。でもね、今はそのなんとなくがジェシーにはわかっちゃったんだよ」


「それはなんだ?」

「いたんだよ。昨日も。近くにジェシーと同じようなやつが」

 ウェスとオスティーの顔が一変する。


「昨日この部屋にか?」

「ううん。そこまではジェシーにもわからないんだな。きっとやつは表に出ていなかったから」


「表に? どういうことだ?」

「確かね、ジェシーたちはね色んなタイプがいるんだよ。ジェシーとウェスみたいに共存するタイプ。他にあるのが裏から操るタイプ。完全に乗っ取るタイプ。きっとこいつは操るタイプ。昨日は誰かの中に潜んでいたんだよ」


「そんなことがありえるのか?」

「ジェシー、その話僕も初めて聞くんだけど」

 ウェスが普段より低い声で言う。


「うん。だって、さっき思い出したんだもん」

「「思い出した?」」

  ウェスとオスティーが思わず声を揃えて言う。


「うん。この話はジェシーの最初の友達から聞いたの」

  最初の友達と聞いてウェスの指先がピクリと動く。


「待て、そんなことを知っているその友達はいったい何者だ?」

「うーん、よくは知らないんだな」


「よく知らない? どういうことだ?」

「うん。ジェシーはウェスと会う前は真っ暗なよくわからない場所にいたんだな。


そこで、たまにお喋りしに来てくれてたのがその友達なんだな。でも知ってるのは声だけで姿は見たことないんだな」


  ウェスとオスティーは大きな溜め息を吐いた。


  ウェスはジェシーの最初の友達のことは聞いてはいたがその友達は謎が多い。さらに言えばジェシーは2番目の友達はもっと謎でジェシーは何も話してくれない。


  そんなジェシーの最初の友人に関してジェシーが何か思い出したなら、ウェスも今すぐ色々問い詰めたい気持ちはあったが、ウェスは一先ず話を戻すことにした。


「あの、とにかくこれで今回の事件と僕たちは無関係ってわかってもらえましたか?」


「ああ、とりあえずはわかったよ。私は、だがな。だが、ジェシーの存在を知らない奴らには説明できない。憲兵団のやつらは私のように反乱軍の使いどころが本気で君が王国兵殺しの犯人だと疑っているぞ」


「それは困ります。オスティーさんの力でなんとかできないですか?」

「ふむ、そうだな」

 オスティー顎に手を当てて少しの間何か考えるようにしていたが、やがてニヤリと笑った。


「ふむ。見ての通り私は若くてし騎士団団長になった上、非常にカッコイイ。そのため実は憲兵団の上のやつらから嫌われていてね。そんな私が君を説明なしで王国殺しの容疑者からはずさせるのは骨が折れる。……だが、できなくはない」


「それじゃあ……」

 嬉々とした表情で話すウェスをオスティーは手を前に出して制止させた。


「ただし条件がある」

「条件ですか?」


「そもそもこの街に私が送り込まれた理由は反乱軍の暴挙を抑えるため。暴挙っていうのは王国兵殺しを止めるってことだ」

「今回が初めてじゃなかったんですね」


「ああ。だから私は最初からこの街に来たばかりの君は王国兵殺しじゃないと確信していた。まあ、反乱軍とは関わりがあるとはおもっていたがな。


 それと、こっちに来てからわかったことがある。反乱軍側の人間も殺されているということだ。


 反乱軍の奴らは憲兵団の奴らが犯人だと思っているらしい。実は私はこの二つの事件の犯人は同じやつらだと睨んでいる」


「じゃあ犯人は王国軍と反乱軍の争いを活発化させるために殺しているっていうんですか?」

「察しがいいな」

 オスティーは感心したように言う。


「なんでそんなことするの?」

  ジェシーがそう問うとオスティーは椅子の背もたれに勢いよくよし掛かりながら大ききため息を吐いた。

「それが全くわからん。他国が国の内部で混乱を招こうとしているのかとも思ったが、それをやりそうな国はどこもここから遠すぎて紛れ混ませるには難しい。


 更には、ここまで調査した結果、両軍にねずみが紛れ込んでいる可能性が高いことがわかった。反乱軍に他国の者が入るのは簡単だが、こちら側王国軍に入るのは困難だ。


 とりあえずねずみさえ捕らえれば敵が誰かも敵の狙いも全てわかると思ってねずみ探しを始めたんだが……


 むこうにいるねずみはともかく、こっちにいるねずみくらいはすぐに見つかると思っていたのに、これが全く成果が上がらない。


 結局、本当の敵も見つからず、状況だけは悪化していく。お手上げ状態だ。しかし、今、君たちが有力な情報をくれた」

「ジェシーみたいなのが他にもいるって話ですね」


「ああ。信じがたい話だがな。ジェシーが言うには昨日も、幽霊に取り憑かれた人間がこの近くにいたというではないか」


「幽霊っていう言い方はジェシーはあまり好きじゃないかも」

 ジェシーが口を挟む。


「じゃあ君たちみたいな存在をなんと呼べばいいんだ?」

「コナタさんは呪いの武器って呼んでました」


「ジェシーはそれもあまり好きじゃないかな」

「ふむ。しかし、持ち主が操られてしまっているなら呪いの武器が一番ピンと来るな」


「じゃあ、それでいいよ。でもジェシーは違うからね」

 ジェシーはすねたように言う。


「うむ。じゃあ、話を続けるが呪いの武器に取り憑かれた人間が昨日この部屋の近くにいた。高確率でその人間は軍の人間だ。


 さらに、君たちは呪いの武器を追いかけていて王国兵殺しの現場に遭遇した。ならば、王国兵殺しも呪いの武器に取り憑かれた人間の仕業と考えるのが自然ではないか?」

「確かにそうなりますね」


「要するに私の軍の敵はその呪われた武器になる。そいつを捕まえれば私のこの地での仕事もほぼ終わりだ。だが、問題はどうやってそんな馬鹿げた存在のものを探し出し捕まえるかだ」

「なるほど。それが条件ですか」


「話が早くて助かる。お願いできるかな?」

「もちろんです。それに僕たちもそいつを見つけたいんです」


「なんの話? ジェシーにもわかるように説明してほしいんだな」


「オスティーさんたちは呪いの武器を見つけたいけどどう探せばいいかわからないんだよ。それに僕にもね。でも、ジェシーならできるだろ?」


「うん。表に出ていれば確実に。裏にいるときでも多分なんとなくは」


「だから、そいつをジェシーに見つけてくれって話さ」


「おー なるほど。ジェシーにもわかったんだよ」

「オスティーさん、こちらからもお願いがあるんですけど……」

 ウェスがそう切り出すとオスティーはすぐに頷き

「わかっている。カナタ・ハウスランド氏との面会とイーストタウンに入る許可だろ? 前者は難しいが後者ならまだなんとかなる」

 と言った。


「本当ですか?」

「ああ。しかし、少々面倒だぞ。詳しくはこのふざけた敵を捕まえたあとに話すことにしよう。それでいいかな?」


「もちろんです。それで僕はこれからどうすれば?」


「ふむ。そうだな……ジェシー、その気配っていうのは近づけばわかるのか?」


「うーん、ジェシーにもそのへんのことはよくわからないんだな。でも多分そうじゃないかな」


「そうか。では、街を歩き回ってその気配を探してもらうしかないな」


「わかりました。それじゃあ街をうろうろして気配を確認したらオスティーさんに連絡します」

  そう言ってすぐにウェスはジェシーを握りしめ部屋を飛び出そうとしたがオスティーに「待て」と制止された。

「そう、焦るな。君たちは大事な手がかりだ。そして、憲兵団から見れば大事な容疑者だ。よって見張りという名目で護衛をつける」


 オスティーの言葉を受けウェスは少し考えてから 、

「でも、もしその護衛が呪いの武器の持ち主だったら……」

 と不安そうに言った。


「カイムとマイムをつける。ふたりは君たちと一緒に昨日反乱軍に襲われている。


 もし、ふたりのどちらかが呪いの武器にとり憑かれているならわざわざ自分の身を危険にさらさないだろう。


 完全に否定はできないがふたりは可能性が低い。それでも、君たちが不安ならば仕方ないが」


 ウェスは少し考えてから、1度頷き、

「いいえ、僕もお二人なら大丈夫だと思います」と答えすぐに「ジェシーはどう思う?」と聞いた。


「ジェシーもあのふたりは問題ないと思うよ。でも、そもそもジェシーたちに護衛なんて必要なのかな?」


「憲兵団を納得させるための見張りの役割でもあるからな。それに、相手は訓練を積んだ憲兵を何人も殺しているんだ。当然、護衛としても必要だ。


 それとも君たちはカイムとマイムよりも強いというのかな?」

  オスティーがからかうように言うと、ジェシーは少しムッとしながら


「カイムマイムコンビよりウェスジェシーコンビの方が強いと思うよ」

 と返した。


 ジェシーの返答を受けオスティーは「ほう」と意外そうな顔をした。


「コラッ、ジェシー! すいません、オスティーさん。ジェシーはまだ子供なんで」

  ウェスはジェシーの頭と思われる包丁の先を叩いてから素早く頭を下げた。


「私から見たら君も子供だがな。もしジェシーのいうことが本当なら君たちを騎士団にスカウトしよう。さてカイムとマイムを呼ぶか」


  オスティーはそう言って机の上の電話に手を伸ばした。


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