13. オスティーの取り調べ
翌朝、ウェスは兵舎の地下室にある独房で目を覚ました。
ウェスは牢の外で新聞紙を読む王国兵を見つけると
「おはようございます。今、何時ですか?」
と訊いた。兵士はウェスをチラッと見るとすぐに新聞紙に目を戻し
「朝の七時だよ」
と答えた。
「それで僕はいつになったらここから出れますか?」
「さあね。お前が殺していないって証明できたらすぐなんだけどな」
兵士はそう言ってポケットから煙草を取り出して口に咥え火を付けた。
「ここ禁煙ですよ」
ウェスは壁に貼られた「禁煙」と書かれた髪を指差して言った。
「いんだよ、ばれなきゃ。どうせまだ誰も来ないからばれることはない」
そう言って兵士は口から白い煙をドアに向けて大量に吐いた。ドアに煙がぶつかるとほぼ同時にドアが開いた。
結果、煙はドアを開けた男、騎士団八番隊隊長オスティー・ティガーの顔面に直撃した。煙を吐き出した兵士は一瞬ぎょっとすると慌てて
「た、隊長! お、おはようございます! これはですね、あの、そのですね、違うんです。煙草じゃないんです。そうです、これは煙草じゃないんです」
「ほう。じゃあいったいなんなのかね?」
「これは煙草に似せたお菓子です」
「ほう。最近のお菓子は煙まで再現しているのか」
「そうなんですよ。まったく最近の技術は凄いですね。あはははは」
兵士はだらだらと冷や汗を流しながら笑った。
「まあ、いい。鍵を開けてくれ。私は彼に用がある」
「隊長、待ってください。こいつは王国兵殺しの容疑者ですよ」
「そんなことは知っている。だから、その身柄をこちらで預かると言っているのだ。ついでに黒か白かもこちらではっきりさせる」
「そういうわけにはいかないですよ。隊長の独断でそんなことしたら支部長たちが納得しないですよ」
「あんなじじい共は放っておけ。それともなんだ。たがだか煙草一本で減給がお望みか?」
「いやそれはちょっと……」
「だったらさっさと開けたまえ」
「ですが支部長たちにはなんて言えば」
「今みたいに適当に言っておけ。今度はもっとましな言い訳を考える時間はあるだろうしな」
顔を青くした兵士は諦めて牢の鍵を開けた。
「ウェス君移動だ。話が聞きたい。ついてきなさい」
オスティーはそう言うとすぐに部屋を出ようとした。ウェスがオスティーについて出ようとしたところで兵士に呼び止められた。
「ちょっと待ってください、オスティー隊長、その坊やの持ち物として包丁を取り上げてるはずです。その坊やを連れて行くなら一緒に預かってください。えーっと、どこにやったかな」
そう言って兵士は散らかったテーブルの上を探し始めた。
「包丁?」
オスティーが呟く。
「はい、そうです。兵殺しに使ったと思われる凶器なんで預かったんですけどね。あれー、どこにやったかな?」
「あの、それならもう僕の手元にあります」
ウェスは包丁が入った腰のホルダーを見せて言った。
「あれ? いつのまに? おかしいな? まあ、いいか。隊長お疲れ様です」
兵士はそう言って敬礼をした。オスティー手を上げひらひらと振ってそれに応えるが、視線はウェスの方に向けていた。
オスティーは部屋を出てドアが閉まったのを確認してから
「なぜ包丁なんて持って外に出たんだ?」
とウェスを問い詰めた。
「それは……」
「それに、君は牢から出てからおかしな動きはしていなかった。つまり君は牢の中にいた時からその包丁を持っていたことになる。どうやってその包丁を牢の中に持ち込んだ?」
オスティーの問いにウェスは黙っていた。
「まあ、いい。この話も含めて私の部屋で聞こう」
そう言ってオスティーは歩き出した。ウェスは黙ってオスティーのあとをついていった。
昨日オスティーとウェスが出会った部屋に着くとオスティーは昨日同様黒い大きな椅子にドカっと腰を下ろした。
「オスティーさんありがとうございます。おかげで」
「ふむ。どうやら君はなにか勘違いをしているようだな。私はただ王国兵殺しの容疑者を憲兵団から強奪しただけだよ」
「それじゃあ僕はまだ容疑者のままですか」
「そういうことだ。さあ、取り調べってやつを始めようか」
オスティーはそう告げて鋭い眼光でウェスを睨みつけた。ウェスは一切物怖じしないでオスティーの眼差しを正面から受け取った。やがて、オスティーは鼻をならして笑った。
「つまらないな。少しビビらせてやろうと思ったのに。言ってしまえば私は君を憲兵団兵士殺しの犯人だとは思っていない」
「そうですか。それはちょっと意外でした」
ウェスは笑顔で言った。それを見たオスティーは呆気に取られた。
「ふむ。君はおかしな子だな。まあ、いい。君にはいくつか質問がある。正直に答えてもらおう。いいな」
ウェスは「はい」と威勢よく返事をした。
「最初の質問だ。君が第一発見者間違いないな?」
「はい、間違いないです」
「では発見から今に至るまでを説明してくれ」
「はい。路地裏でうつぶせに倒れている人を発見しました。近づくと男性から血が流れていることに気がついたので大声で助けを呼びました。
近くの住民の方たちが来てくれたので一緒に止血を試みました。そのあと、救急隊の人が来て男性は運ばれました。ほぼ同時に来た憲兵団の人に僕は事情を聞きたいと言われてここに連れてこられました。
最初は第一発見者でしたが他国からきたものってわかってから対応が変わりまして、その場で身体検査されて先ほどの包丁が見つかった結果、そのまま地下の独房に入れられて話はまた明日聞くって言われました。
そこで寝て起きたらオスティーさんが来て、今に至ります」
ウェスはできる限りスラスラ答えた。
「ふむ、それでは犯人の影も見ていないと?」
ウェスは少し考えてから「はい」とだけ答えた。
「この質問は少し方向がずれるが聞いておこう。犯人はどのような人物だと思う?」
ウェスはまた少し間を空けてから「反乱軍?」と答えた。
「うむ。私もそう睨んでいる。さて、ここからが大事な質問だ。心して答えろ」
オスティーの圧のある言い方に思わずウェスは姿勢をただした。
「君は反乱軍に知り合いはいるかね?」
「いいえ、いません」
ウェスは即答した。オスティーは不満げにウェスを見た。
「昨日、君も反乱軍に襲われたね?」
オスティーの質問にウェスは頷いた。
「反乱軍が武器の輸送車を狙ってくることは予想していた。そのため、コナタさんのところに昨日武器を取りに行くという話は一部の人間にしか教えていない。
しかも、昼に取りに行く予定だったのを一日前の夜に早朝に取りに行くという通常ならありえない変更までした。
それでも、カイムとマイムが乗った武器輸送車は襲われた。私は昨日そのことを聞いた時勝手に街に着く直前の出来事だと思っていた。
しかし、詳しい報告を聞けば、そうではなく実際に襲われた場所は事前に我々が武器を輸送する時間とルートを知らなければ現れるのがほぼ不可能と言える場所であった。
なにが言いたいかわかるな?」
オスティーはそう言って冷たい目でウェスを見た。
「オスティーさんが今何を考えているかはわかります。でも、僕は本当に反乱軍に知り合いなんていません。それどころが、この国に知り合いがいません。あっ、一昨日出会ったマリーとコナタさんは別ですが」
ウェスがそう言うとオスティーはウェスをじろじろと眺め、そして、顔をしかめた。
「ふむ、嘘を吐いているようには見えないな。うむ、おかしいな。ではいったいどうやって奴らは情報を入手した?」
オスティーは頬杖をついてひとりブツブツと話し始めた。ウェスは邪魔してはいけないと思い大人しく直立不動を続けた。
およそ一分後、オスティーは思い出したようにウェスに目をやった。
「忘れていた。もう1つ質問だ。君は昨夜、あそこで傘も刺さず何をしていたんだ?」
嫌疑が晴れたと安堵し油断していたウェスはオスティーからの答えたくない質問に思わず体をビクッとさせた。それに気づいたオスティーは再び厳しい目をウェスに向けた。
「それは……」
ウェスは言葉を止めてうまく言い逃れできなる方法はないか考えた。しかし、ウェスの頭の中には名案は浮かばなかった。
その間にオスティーの頭の中では消えつつあったウェスへの疑惑の念が再燃し始めていた。




