11. 王国最強の騎士 オスティー・ティガー
コーネルの街は緑が多いフローズン村とは違い全体的に赤かった。というのも建物が全て赤レンガで建てられていためだ。
さらに道路はコンクリートで舗装され、街灯まであった。人工的なものが多く自然を感じさせるものは少なかった。
それでも歩道の脇の花壇にはしっかりとキーブクロイス王国を象徴する白い花「リーヌ」が植えられていた。
「大きな街ですね」
「フレア地方最大の街だからね。このまま隊舎に行くよ。そこに隊長もいるだろうし」
「わかりました」
数分後、トラックは一際大きな建物の前で停車した。建物の出入り口には青の軍服を来た男が二人立っていた。男たちはカイムに気がつくとすぐさま走って来た。
「お疲れ様です」
男たちは丁寧に敬礼をした。
「お疲れ様です。トラックの中に武器が積んでるので臨時の武器庫に運んでもらえますか。僕たちは隊長に報告してきますので」
男たちは「了解しました」と大きな声で言うと素早くトラックの後ろに回って荷物を運び始めた。
「さあ、行こうか隊長のところに」
ウェスはカイムとマイムに 連れられ二階の一番奥の部屋へと向かった。
「本当は一番上の部屋の予定だったんだけど、隊長がそんなに歩けるかって怒って二階になったんだよ。さあ、ここさ」
カイムは二回ノックをしてから「失礼します」と大きな声で言ってから勢いよく扉を開けた。
部屋には二人の人物がいた。ひとりは軽薄そうな男であった。部屋の奥に置かれたデスクに座っていた。
男の目は少し鋭くも感じるがくっきりとしていて、鼻は高く筋が通っていて誰もが美形と認めるであろう整った顔立ちであった。
男は少し長い黒色に染まった前髪をいじりながら手鏡を覗き込んで色んな角度から自分の姿を確認しては鏡に向かってキメ顔をしていた。
もうひとりは男とは正反対のような生真面目そうな女だ。彼女は男の横で綺麗に直立していた。金色の長い髪は後ろで束ねられている。三角形に近い四角のメガネは彼女の凛々しさをさらに助長させていた。
「カムイ隊員、部屋に入るときは三回ノックしなさいと何度も言いましたよね。それと、ドアは返事を待ってから開けてください」
「それぐらいいいじゃないですかレオナ隊長補佐」
カイムの言葉にレオナは小さくため息を吐く。
「マイム・ダーティ、カイム・ダーティ両名ただいま帰りました」
マイムはカイムを横に押しのけ敬礼した。
「やあ、おかえりマイム隊員。予定より大幅に遅れたみたいだがなにかあったのかな?」
男が手鏡を置いて言う。
「はい、そのことについて報告があります」
「そうか。やっぱりなにかあったのか。ふむ、困ったもんだ。でも、その報告を聞く前に彼の方の用件を先に片付けようかな」
男はウェスを見て言った。
「は、はじめまして。ウェスと言います」
「君がウェス君か。わたしが白の騎士団8番隊隊長にしてキーブクロス王国最強の騎士と謳われるオスティー・ティガーだ。さて、君の用件はなんだったかな? 聞いてるような聞いてないような……」
「用件はふたつです。ひとつはカナタ・ハウスランド氏に会う許可の申請。もうひとつがイーストタウンに入る許可の申請です」
スラスラと答えるレオナを思わずウェスはまじまじと見た。それに気がついたレオナは
「はじめましてウェス君。わたしは白の騎士団8番隊隊長補佐であり隊長の見張りを務めますレオナ・スターミです。あなたのことはコナタ・ハウスランド氏からちゃんと聞いています。隊長はマヌケですので忘れてしまったようですがわたしがしっかりと覚えてるのでご安心ください」
レオナは表情ひとつ変えることなく言った。
「隊長をマヌケとは失礼な隊長補佐だ。君が綺麗じゃなかったら即刻クビにしているところだよ。まったく、こんな補佐を君はどう思う、ウェス君?」
「はあ……正直でそれはそれでいいかなと思います」
ウェスの言葉にオスティー以外の三人が声を抑えながら笑い出す。
「うむ、予定外だな。ここでいつもならこんな部下を持って大変ですねって同情されるんだけどな。まあ、いい。ところで君の用件の方なんだがもう一度詳しく聞かせてもらえないかな?」
「あっ、その前にこちらを読んでもらえますか? コナタさんからの手紙です」
オスティーは手紙を受け取るとカイムに渡した。
「読んでくれ」
「僕がですか?」
「そうだ」
カイムは渋々手紙を音読し始めた。
コナタの手紙の内容は先にレオナが言ったようにウェスをカナタ・ハウスランドに会うこと、イーストタウンに入ることの二つの許可がほしいというものであった。また、ウェスは国外のものであるが信頼できる少年でありそれをコナタが保証するとも書かれていた。
しかし、ジェシーのこととウェスの記憶については一切書いていなかった。そのことにウェスは心の中でコナタ感謝した。
手紙を読み終えたカイムはオスティーに手紙を戻した。オスティーは手紙を受け取ると手紙に目を通し始めた。それを見たカイムが「だったら最初から自分で読めばいいのに」とマイムに愚痴をこぼしたところ握り拳で頭をコツンと叩かれた。
読み終えたオスティーは手紙を机に置くと、机に肘を置き、手を組みその上に顎を置いてウェスを睨むように見た。
「ウェス君、なにかつけくわえることはあるかな?」
「いえ、特にはありません。コナタさんが書いてくれたとおりです」
オスティーはその鋭い目でウェスを見続けた。ウェスはごくりと音を立て唾を飲むが決して目をそらさなかった。やがて、オスティーは腕を解き、深々と椅子に座り直した。
「ふむ、やっぱりおかしい」
「おかしいって何がですか?」
カムイが訊く。
「ウェス君が、さ」
「ウェス君が? またまた隊長、なに言ってるんですか。ウェス君はいい子ですよ。さっき僕たちが反乱軍に襲われた時も助けてくれましたし。まったく本当にマヌケなんだから」
カイムの口からさらりと出た暴言にオスティーはぴくりと眉を動かした。
「誰が間抜けだ……しかし、やはり反乱軍に襲われてたか。まあ、それはあとにしようか。確かにわたしの直感でも彼はいい子だ。それにコナタさんも信頼できる職人だ。だからこそ、おかしい」
「回りくどいです隊長。ナルシストな感じが出ています」
レオナがメガネをクイッと上げて言う。部下に侮辱されたオスティーは露骨に嫌そうな顔をした。
「要するにナルシスト隊長が言いたいのはなぜウェス君がカナタ・ハウスランド氏に会いたいのか? なぜイーストタウンに行きたいのか?
そして、なぜそのことについて話さなければいけないとわかっているはずなのにウェス君もコナタ氏も話そうとしないのか? ですよね?」
マイムが言うとまたオスティーが嫌そうな顔をした。
「そうさ。その通りだよ。君はこんな部下をどう思うと言ったら正直でいいかなって言ったね。では今の君は正直に話しているのかな?」
ウェスは少し考えてから
「今のところは嘘はついていないと思います」
「うむ。そうなんだよ。そこが困るところなんだ。君もコナタさんも適当な理由を付ければいいのにそうしようとはしない。要するに我々を欺く気はないんだ。そうだね?」
「はい、そうです」
「ふむ。そうなるとなにか手紙には書けないような言いにくい事情があるということかな?」
「はい、そうです」
「そうか。ではそれをここで話してもらえるかな?」
ウェスは黙って部屋の中にいる四人の顔を見回した。
「ここにいる三人はわたしの信頼できる部下だ。口は悪いがな」
オスティーの言葉を受けてウェスは話始めようとした。しかし、
「ジェシーは反対だな」
とウェスにしか聞こえない待ったが掛けられた。
口を開き何かを言い出そうとしたのに、まるで声を失ったかのように固まったウェスを見てオスティーも他の三人も怪訝な顔をした。
「どうしたんだい?」
「いえ、あの、その、ちょっと待ってくださいね」
ウェスはしどろもどろにそう答えると、心の声でジェシーに話しかける。
「ジェシーいったいどうしたっていうんだ?」
「どうしたもこうしたもここでジェシーの話をするのはジェシーは反対だな」
「なんで?」「勘」
そう言い切るジェシーにウェスは絶句した。ここでオスティーの協力を得られなかったら二人の旅は早くも道を見失う。それなのにジェシーは今、その協力を頼むことすら拒否している。自ら壁を築こうとしているのだ。
ウェスはそれから五分近くジェシーを説得したが結局ジェシーは「嫌」の一点張りで結局了承は得られなかった。
ジェシーの説得が無理と判断したウェスはジェシーの許可なく勝手に話そうとも考えたが、ジェシーが喋ってくれなければただの頭のおかしい少年になってしまうことに気がつきウェスは諦めた。
苦悩していたウェスであったが周囲の四人から見ればウェスがなにを迷っているのかわからないので、突然黙ってひとり悶えるおかしな少年でしかなかった。
結論を導きだしたウェスは大きくため息を吐いてから、
「あの、非常にいいにくいんですが……今日は話せません」
と弱々しい声で言った。
四人は声を揃えて「は?」と言った。特に六時間もかけて一緒にここまで来たカイムとマイムは心がこもった「は?」であった・
「本当にすみません……。できれば僕も話したいんですが……いえ、何でもないです。今日はこれで失礼します」
ウェスはそう言うとトボトボと部屋を出て行った。予想外の展開に固まっていたオスティーは慌ててレオナに指示を出した。指示を受けたレオナはすぐさまウェスを追った。
「ウェス君、こちらであなたのホテルをとっています。一週間分はとっていますのでお好きなようにしてください。それからこちらが地図になります。
……話す気になりましたらまた来てください。それ以外でも我々が力になれそうなことがあればなんでもいたしますのでその時は気軽にお尋ねください」
「はあ。……なんでそこまでしてくれるんですか」
レオナは少し言うべきか考えてから口を開く。
「ひとつはあなたがコナタ氏の紹介であるからです。騎士団の武器は本来全てカナタ・ハウスランド氏によって造られます。
しかし、我が隊は隊長のワガママでコナタ・ハウスランド氏の武器を使用しています。なぜならオスティー隊長がコナタ氏をとても信頼しているからです。
そのコナタさんが紹介するあなたを無下にできません。そして、もうひとつはあなたが他国のものだからです」
「それはどういう意味ですか?」
「今のキーブクロイス王国に足を踏み入れる他国のものはまずいません。嫌われていますからね。
オスティー隊長はそのことをとても嘆いています。いずれ戦争は終わります。そのとき周辺国との正常な国交を行うためにも、あなたのように今キーブクロイス王国に足を運んでくれたものにいい国だったと言っていただく必要があるのです」
「この国は戦争が終わらないって聞きましたけど」
「いえ、いずれ終わります……隊長が終わらせます。それでは失礼します」
そう言ってレオナは部屋へと戻っていた。
「なんであの人たちに話すのがダメなんだい、ジェシー」
「うーん、ウェスにもいずれわかるよ」
ウェスはため息を一度吐いてから再び歩き出した。
夕方、ホテルに着き部屋に入るとウェスはそのままベッドに倒れ込んだ。
「まだ怒ってるの、ウェス?」
「怒ってなんかいないよ、ジェシー」
ウェスはベッドに倒れたまま言った。
「うそだー」
「本当さ。さっきは少し腹が立ったけど今は本当に怒っていない。考えてみればジェシーが話せる人が増えるせっかくの機会を理由も意味なく逃すはずがないからね」
「そうだよ。ジェシーは本当はもっといろんな人と話したいんだよ」
「じゃあ、なんでさっきは断ったんだ?」
「うーん、ジェシーからすればなんでウェスにはわからないかが理解できないんだな」
「ジェシーはいったい何をいってるの?」
「それはジェシーにもわからないんだな」
ウェスは「はあー」という声を枕に向かって吐き出した。
「この件は今日はもういいや。襲われた時の話をしよう」
ウェスは顔を一度上げ横を向いてから言う。
「あの6人の男に襲われた時のこと?」
「そう。でも本当は6人じゃなかったんだろ?」
「うん。あの木の後ろになにかいた」
「だけど実際には誰もいなかった」
「うん。いなかった」
「どういうことだい?」
「ジェシーにもわからないんだな」
ウェスは再びため息を吐いた。
「なんだか今日は疲れたよ。僕はもう眠るよ」
「まだ夕方だよ」
「いいんだ。昨日はあんまり眠れなかったし」
「その前にマリーのパンが食べたいんだな」
ジェシーの言葉に反応してウェスはむくりと起き上がり、袋の中にあったパンをジェシーに食べさせた。
「マリーのパンとっても美味しいんだな」
「そうかい。それは良かった」
「ウェスもいつか食べれるといいね」
ウェスはジェシーが全てを食べ終えるのを確認してからジェシーを机の上に置き、「そうだね」と言いながらベッドに倒れ込んだ。そして、そのまま深い眠りに就いた。




