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第九話 休息

 木製の車輪がガラガラと山道の土の上を一定のリズムで音を立てながら転がる。俺は、その車輪が付いた荷台を引っ張ってくれている馬の手綱を持ちながら、その横に並んで歩く。先ほどまではシクナも楽しげにしながら一緒に歩いていたが、村から一番近い町までは、人の足で夜明けから日没までの時間が掛かるほど距離があるので十分の一ほど歩いた所で疲れ果ててしまい、今は白い幌に覆われた荷台の中でお昼寝中である。


「おーい、イヨイー。そろそろ疲れてきたから代わってもらっていいか?」


 馬を止めて、荷台の中に声をかけると、


「承知した」


 その返事と共に、黒い防具を各所に身に付けて紺色の袴を履いたイヨイが荷台から降りてくる。その腰には黒い鞘に収まった刀を携えていて、左肩具にはへこんだ傷が残ったままだ。


「道なりに進んでもらえば良いよ。俺は横になるけど、もし何かあれば起こしてくれ」

「ああ、任せろ」


 イヨイに手綱を手渡すと、俺は荷台に乗り込んだ。倒れないようにロープで固定した水瓶の水を木の器ですくって一気に飲み干した。今日も雲の少ない良い天気で、心地よい陽気なのだが、長い距離を歩いているとさすがに汗をかく。シクナは荷台の隅に敷き詰めた干草のベッドの上で気持ち良さそうに眠っている。この子は、起きている時よりも寝姿を見ている時間の方が長いかもしれないな。これから先の事を考えて、硬い表情をしていた俺であったが、そんな事を思うと自然と顔がほころぶ。



 昨日のあの戦いの中で、村の外れにあったため、無事で住んだ民家にお邪魔して旅に必要なものを拝借した。それから、その横の厩舎から元気そうな馬を選んで荷台に括りつけたが、他の家畜達は野に放すことしかできなかった。三人で協力して荷物を積み込んで旅の支度を整えるとすぐに俺達は村を出た。

 その後、一、二時間ごとにイヨイと馬の先導を交替しながら、町へと続く山道を歩いて行く。何回目かの交替をして、俺が馬を牽いていると空はオレンジ色に染まり、虫の音の種類も変わる。高低差がなくなったぐらいで、周りの景色は相変わらず木々に囲まれあまり代わり映えしないが、山を越えて森の中へと入っていた。

 町までまだ距離があるので今日はここで野宿をすることにする。土を固めて舗装された道を少し外れて、ここを通る人達に幾度も休息の場所を提供したのであろう、木々が立ち並ぶ場所でぽっかり空間ができた小さな広場を見つけ、そこに馬車を止める。腰掛けるには丁度良さそうな倒木が平行に並んでおり、その間には焚き火の跡が黒く残っていた。それをそのまま使わせてもらおうと、俺とシクナで薪を集めてまだ灰が残る、焚き火跡の隣に積んでいく。イヨイは、弓と矢を持って森の中へと入っていった。

 こんな経験は初めてなのだろうか、シクナは嬉々としながら俺の指示に従って野宿の準備を進める。俺の目の届く範囲でシクナに薪を集めさせてる間、俺は馬の世話をした後に、木の足元にロープを巻いてそこにガラスの瓶を括り付け、休憩地の四方を囲むようにそれを張り巡らせた。これで何かが近づいてきてもロープに引っかかって音が鳴る仕組みだ。


「ゼクトー! 木、たくさん集めたよー」


「お疲れ、シクナ。よしよし」


 一仕事終えたシクナを労うようにその小さい頭を撫でてやると、えへへ、と、はにかみご満悦のようだ。

 干草を置いて、その上に空気が入るように薪を組むと、俺は右手の平をそれにかざす。すると、干草から火が上がり薪に燃え移る。あとは徐々に太い薪をくべていけば良い。それにしても、便利な能力を得たものだ。何故急にこんなことが出来るようになったかは全く不明だが。

 倒木に腰掛けて、焚き火の様子を見る。同じく俺の横に腰掛けたシクナは村から持ってきた果物を食べるのに夢中のようだ。――その時、


 コン、コン


 と、ガラスの瓶同士がぶつかる音が微かに聞こえた。焚き火の灯りが周りを照らしているが、その光が届かない所は、すっかり暗くなり、ここからでは闇しか見えない。俺は立ち上がると腰に下げた革の鞘から剣を抜いた。俺が急に緊張したことでシクナは心配そうな顔をしたが、頭に手を置いておとなしくこの場にいるように無言で伝える。剣を片手に慎重に音がした方へと歩いていくと、目の前の胸ほどの高さの茂みがガサガサと揺れた。後ろに飛び退いて、剣を両手で握って前に構えると、人の形をした影が茂みから現れる。


「さすがゼクトだな、警戒用の罠を仕掛けておくとは。――用心するに越したことはない」


「……イヨイ、頭に枝が付いてるぞ」


 現れたのはイヨイであった。弓と矢筒を背負い、その手には二羽の野うさぎが握られていた。あとは、罠に掛かった拍子に転んだのであろう、頭や肩に小さな枝や落ち葉を乗せて身体の前面を土で汚している。


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