第四話 接敵
村の方角から煙が昇っている。
太陽は地面に近づき黄昏の空へと変わりかけていた。村で何かが起こっている。俺は隣村からずっと走り続けてやっと村の入り口近くに着いた。
まずは自分の家の無事を確認したい――。その一心で村に飛び込むと途中の黒く焼かれた地面に目もくれずまだまだ走り続けた。
額に汗を垂らして肩で息をしながら、やっと自分の家の前まで帰ってくる。家の周りの地面は黒く焼き焦げた跡がたくさん有り、遠くでは煙が見え、悲鳴も聞こえるが、まずは開け放たれた家の中へと入る。
すると、まず目に飛び込んで来たのは頭から血を流して仰向けで血溜まりに倒れる親父の姿であった。
「親父っ! ――あっ!」
玄関前で倒れている親父に、駆け寄ろうとした時、視界の端に階段の下で倒れているティファの姿を捉えた。ティファも頭から血を流しており、階段の途中から滑り落ちたように血の跡が塗られ、床に血溜まりを作っていた。
「く、くそ――、一体なんだってんだ……」
俺はそのまま呆然と立ち尽くしたい気分だったが、まだ無事を確認したい人がいる。
「母さん! キルシュ! いるのか!」
家の奥に入り、台所を確認すると、母さんが血溜まりの中にうつ伏せで倒れていた。
「母さん! 生きてるのか! おい! 母さん!」
その時、僅かに母さんが動いた。――生きている。
俺は血が付くことを一切気にせずに急いで母さんを仰向けにして上半身を支える。すると、力のない目で母さんは俺を見つめる。
「母さん! しっかりしてくれ! 一体何があったんだ!」
「ゼ、クト……、逃げて……、あなた、だけでも……」
弱々しく今にも消えそうな声で母さんは呟いた。
「なんでそんなこと言うんだよ! キルシュは! キルシュはどこなんだ!」
「キルシュ、は……、男達に、さら……われて……」
「男達? どんな奴らなんだ! 母さん! おい! 目を開けてくれ!」
そして母さんはそれ以上喋ることは出来なくなった。
さっきほどの悲鳴からして、まだこんなことをしでかした奴は村の中に居るはずだ。俺がみんなの仇をとってキルシュを救い出すしてやる!
いきり立つ俺は外に飛び出すと、先ほど悲鳴が聞こえた方へと駆け出す。所詮は小さい村だ。元凶と思われる男達の後ろ姿をすぐに見つけることが出来た。
「お前達だな! 待て!」
男達が振り返ると、黒いフードに白い仮面を付けていた。あの時、山ですれ違った奴らだったのか……。俺があの時、やり過ごさずやっつけていればこんなことには――、くそっ!
男達は四人。内一人は大きな布の袋を担いでいる。あの中にキルシュがいるのかもしれない。その男達に囲まれるように、あの山で俺が見つけた金髪の女の子がいた。目は覚めているようだが状況を理解していないのか、不思議そうな顔をしながらボーっと立っている。
俺が呼び止めると男の一人が前に出て来た。
「なんだ、まだ生き残りがいたのか」
そう口にするやいなや懐に右手を入れて拳銃を取り出してこちらに向けようとする。取り出した物を視認すると、俺は反射的に身に付けていたナイフを投げつけてその男の右肩に突き立てた。
「ぐっ……」
それにより右手に力が入らなくなったのか、男が拳銃を落とす。その隙を突いて、俺は剣を鞘から抜いて一気に突っ込んだ。
「うおおおおおおおお!」
威勢良く怯んだ男に斬りかかったが、それを止めようと一人の男がナイフを手に立ち塞がった。
しかし、こちらは長物の剣。臆することなく上段からその出てきた男に打ち込むと、ナイフは折れ、そのまま男の身体を斬り裂いた。血しぶきをあげ倒れる男を蹴っ飛ばし、先ほど拳銃を取り出した男に再度斬りかかる。
捉えた! と思ったが、一陣の風が吹き、それと同時にキンッ! という金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く。
風の正体は山ですれ違った時にこの男達と一緒に居た黒髪の少女であった。先ほどまで姿が見えなかったが急に現れ、俺の剣を刀で受け止めていた。
「くそっ!」
俺は一旦後ろに飛び退いて距離を取る。
「よくやった、一四一番。あいつも殺せ」
男に命令されると、一四一番と呼ばれた少女は戦闘体勢に入る。先ほどの身体能力を見せられたら普通に剣だけで戦って勝てそうな相手ではないとすぐにわかる。
俺は少女が動く前に、すぐ側で俺が斬って倒れていた男を片手で無理矢理立たせると、少女に向かって蹴り飛ばした。それと同時に俺も突っ込んで男を壁にしてなんとかしようとしたが、少女は躊躇うことなく飛んできた、まだ意識のある男を一太刀で斬り裂く。その斬り筋の間から俺と少女の視線が合った。
俺は慌てて飛び込むのをやめて剣を前に構える。斬られた男は真っ二つになったかと思うと黒い炎が両方の身体に燃え広がり、地面に焦げ跡を残して燃え尽きてしまった。隣村でも見た無数の黒い焦げ跡の正体はこれか……。
ただでさえ少女は身体能力が優れているというのに、あの黒い刀は何か不思議な力を纏っているようだ。少しでも刃が触れると先ほどの男のように何も残らず、死ぬことになるだろう。