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第十九話 王都フリーシュテット

 カーレイの町がリクスに襲われてから三日が経過した。

 今、俺達は山道に長い長い人と馬車の列を作って王都を目指している。立ち聞きした話だとそろそろ到着するそうだ。

 難民となった町の人達の様子は、まだ不安や悲しみを拭いきれていないようだが、シクナを始め、子供達が元気に走り回ったり楽しそうなやりとりを見ていると、悲観ばかりしてはいられないと大人達に元気を与えていた。

 木々に挟まれた緩やかな丘をゆっくりと下って行くと、とても大きな湖が姿を現す。そして俺達のいる場所の反対側の湖畔に、空高く昇った太陽に照らされた白っぽい建物が建ち並んでいた。一緒に先頭を歩いていた、この長蛇の列を率いる兵士がそれを目にすると、後ろの人々に向かって、


「フリーシュテットの都が見えてきたぞー! もう少しだ!」


 意気揚々に叫んだ。ようやく三日間の苦労が報われるわけなので、その言葉で皆の気持ちも高ぶったように見えた。



 襲撃を受けた翌朝、寝ずの番をしていてくれた兵士さんに俺達も王都に行くと伝えた。

 出発の準備を整え、シクナとイヨイを馬車に乗せて幌の布を閉めた。日が昇って明るくなった町並みは酷い有様で、死体は片付けられていたが、道や建物に血が飛び散り、町の中心街に向かうほど建物は真っ黒に焼け落ちていた。つい昨日に楽しくご飯を食べたり買い物をした場所がこんな姿になっているのをシクナにはとてもではないが見せられない。

 町の中心街から少し離れた教会の前に着くと、たくさんの人と王都までの旅路に必要な荷物を積み込む馬車や荷車が集まっていた。あとから聞いた話によると、その人数は百五十人程度で、男性よりも女性や子供が多い。男性の多くは町に残り、生き残った数人の兵士と共に復興の作業を行い、その間、妻と子供は王都で保護してもらうということでこの比率になったらしい。

 朝早くから商売のために周りの村々からやってきた人達は、町の変わり様に愕然としていたが、自分達の商売のためにも復興の手伝いをしてくれていた。

 そんな彼らを心の中で応援しながら、俺達は王都を目指した。

 道中の行程は順調で、難民の人達と同行している七人の兵士さんの気配りのおかげだろう。ただ、急に住み慣れた町を出て、三日間の旅をすることになった人々の心労は大きいはずだ。王都で皆、元気に生活出来れば良いが……。



 王都フリーシュテットは、大きな堀を作って周囲を囲み、接している湖から水を引いて外敵から町を守っている。俺達はその王都に入るための跳ね橋の前で三十分ほど待たされていた。

 カーレイから同行していた兵士の内の三人が先に橋を通り、王都に入っていったのだがまだ戻らない。俺達より先にカーレイを出た兵士が、王都に着いて一部始終を報告しているはずだが、まだこの百人を超える人々を受け入れる準備が出来ていないのだろうか。

 そんな心配をすることさらに十分ほど待つと、俺達と同行してきた兵士達とは違う兵士が五人やってきた。五人とも、丸を縦に半分にするように線を引いて、その線の真ん中から斜め下方向に二本の線が入っているこの国の国章、それが描かれた青い外套を身に着けている。その兵士達の一人が集まっている俺達の前で大声をあげる。


「皆さん! 遠路はるばるここまで辿り着きお疲れかと思います! しかし、今皆さんをこの町に入れることはできないのです! 野営の準備は致しますのでご理解のほど、よろしくお願いします!」


 その兵士の言葉で避難して来た人々に動揺が広がりざわめきが起こった。ここまで来てどうしてか、国は民である我々を邪険に扱うのか、そのような雰囲気が漂う。

 そんな人々を置いて、橋の向こうから資材を運んできた兵士達が次々と野営の設営を始めた。一部の人々が王都に入れない理由を兵士に問い詰めたが、兵士は謝るばかりで理由は教えてくれない様子であった。俺とイヨイとシクナは、その事象をただ立って見守ることしかできなかった。


「うーん、どうして中に入れてくれないのだろう?」


 独り言のように呟いたつもりであったが、傍に居たイヨイの耳に入ったらしく返事が返ってくる。


「どうだろうな。この大きな町ならこれぐらいの人数が住まう場所ぐらいありそうだが、それをさせないということは入れさせたくない理由があるのだろう」


 入れさせたくない理由か……。考えてみたが俺の頭では思いつきそうにない。



 町に入れない現実を受け止めて、落ち着きを取り戻した人々は兵士達が用意した衣食の配給を受け取っていく。俺達も受け取りに行くか、と思い始めた時、青い外套を着ていないカーレイの兵士に声を掛けられる。


「あっ、いたいた。キミ達に詳しい事情が訊きたいと王様が仰っているんだ。子供もいるみたいだし、どちらか一人、城まで来て欲しいんだけど良いかな?」


 突然の話で驚いたが、そういうことなら俺が行くしかないだろう。イヨイもそのつもりで特に相談することなく、俺が了承すると、その兵士と青い外套を着た兵士二人に付き添われ俺は橋を渡って町へ入った。

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