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第十四話 裏切り

 その後、出会い頭に二匹と、町の人を追いかけ襲っていた四匹、死体を貪っていた三匹を始末する。苦戦したのは最初の一匹だけで、複数同時に相手することもあったが、冷静に対処すればどうということはなかった。

 それよりも気になったのが兵士の死体だ。狼に喰われてボロボロになっていたものもあったが、まだ綺麗に残っていたものの中に、後ろから刃物で刺されたような傷がある死体がいくつかあった。狼以外にも何人いるかはわからないが、人間もこの殺戮に加担しているようだ。

 背後も警戒しながら町の中心街に到着すると、辺り一面が火の海になっており、たくさんの死体が転がっている。広場のようになってしまったその場所は、昼間にシクナ達と来た面影はもうない。そんな地獄のような場所で一人だけ生きている者の姿を見つける。


「あっ――、リクスさん! リクスさん、大丈夫ですか!」


 全身を銀色の防具で身を包んでいるが頭には防具を着けておらず、遠くからでも目印になる銀髪で判別がついた。片手には身長よりも長い槍を持っているリクスさんは、仲間の兵士の死体を調べるかのようにしゃがみ込んでいた。俺が声をかけて駆け寄ると、驚いたような表情を見せて立ち上がる。


「ゼクト君かい! なぜこんな所に、危ないじゃないか! 詰め所に隠れておかないと死んでしまうぞ!」


「すみません、でも、俺も戦えるので力になりたいんです! ここまで来るまでにもたくさんの狼をやっつけて来ました。俺にも手伝わせてください!」


「あの狼達を――? いや、だが、しかし……」


 悩むリクスさんに俺は頭を下げる。こうしている間にも人々が襲われているのだ、事態は一刻を争う。


「――わかった、人手が足りていないのは事実だ。だが、キミは一般人だ。あまり無茶はしないでくれよ」


「はい! 頑張ります!」


 リクスさんが右手を出してきたので、俺はその手を掴んでガッチリと握手を交わす。軍の人にも認められたんだ、早くこの町を救わなければ。


「じゃあ、俺は向こうの人達を助けてきますね! リクスさんもお気をつけて!」


「ああ、ありがとう」


 俺が背を向けて走り出そうとした瞬間、背中にとてつもなく嫌な感覚が襲い掛かる。慌てて振り返ると、一本の槍が俺の身体を貫こうと迫っていた。それを咄嗟に横に転んでかわすとすぐに立ち上がり、その槍を向けた人物に怒鳴った。


「――リクスさん! 一体何を!」


 外れた槍を手元に引いて、何事もなかったかのように前髪をかきあげると、


「いやあ、キミの力を試そうと、ね。これなら一人でも心配ないかな、ハハハ」


 爽やかな笑顔を見せながらそう言い切った。


「そんなことしている場合じゃ――」


 先ほどリクスさんが見ていた死体が目に止まり、言葉の途中で沸騰していた頭が冷静に戻る。あれは、この騒動の直前に俺と話しをしていた中年の兵士か。うつ伏せの状態で倒れていて、背中の傷から鮮血が次々に溢れて血溜まりを作っている。それは、死後間もないことを意味している。そして先ほどのリクスさんの行動から答えは導き出される。


「まさか……、まさか、リクスさんが兵士さん達を……?」


「ん? なんのことかな? それよりも早く行かないと町の人達が――」


「とぼけないでください!」


 俺が一喝すると、リクスさんは空いた片方の手で、やれやれ、といったポーズを作った。すっかり辺りの悲鳴は止み、今は、炎が燃え盛る音と、それにより建物が崩れ落ちる音だけが俺達の間に流れる。無言のまま、俺が睨みつけていると観念したのか、リクスさんが口を開く。


「いやー、まいったね。人を殺す趣味はないが、一応武器を持った人間だけでも、と助力していたんだけど、こういう結果になるとはねー。キミは凄いね、只者じゃないな」


 ふざけた口調で物を言うリクスさんに俺は苛立つ。


「どうしてですか、どうしてこんなことを! この狼達もあなたの仕業ですか!」


「おっ、ピンポーン、よくわかったね。普通はそこまで気がつかないはずだけど……、キミは何かを知っているね?」


 ふざけた態度から一変、冷酷な表情で鋭く俺に問いかける。その問いかけに俺は鞘に納まった剣の柄を握り、それを引き抜いて前に構えた。


「それはイエスってことで良いんだね。じゃあこちらも、出し惜しみする理由はないね。その秘密が広まるのはまだ早い。キミには死んでもらうよ」


 そう言うとリクスさん――、いや、リクスは腰の辺りからこぶし大の紫色の宝石のようなものを取り出した。そしてそれを空に向かって掲げると妖しく光り始める。


「この魔晶石のことも知っているんだろう? じゃあ、今から何が起こるかわかるよねえ」


 リクスが歪んだ笑みを浮かべると、掲げた魔晶石の力に引き寄せられるように、俺の背後に町中の狼達が集まってくる。その数は二十か三十といったところだろうか。


「殺れ!」


 リクスが叫ぶと、扇状に広がっていた狼達が一斉に俺に向かって駆け出してきた。俺は冷静に辺りを見渡す。この周辺には町の人の姿はなく、炎上している建物しかない。――ここなら大丈夫。

 俺は握った剣を横になぎ払う。すると、剣を振るった先で赤い炎が、ドンッ! と燃え上がり、向かってきていた狼達を一瞬で焼き尽くす。一薙ぎで大量の狼達を殲滅すると、背後から乾いた拍手が鳴った。


「いやあ、見事見事。良いものを見させてもらったよ。それは魔法かい? それとも魔晶の力? どちらにしてもキミはやはり只者ではないようだ」


 振り返り、再び剣をリクスに向けて構える。焦った表情はなく、余裕すら感じ取れる。


「ずいぶん余裕なんですね」


「ああ、もちろん。そんな雑兵程度の魔獣がやられても焦ることはないさ。焦るのはこいつを倒されてからかな!」


 リクスが再び魔晶石を空に掲げると、大きな黒い影がどこからともなく飛んできて、ドーン、という大きな地響きを立てながら着地した。

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