表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/35

第十話 イミテーション

 村から持ってきた野菜をスープにしたものを今日の晩飯にしようと思っていたが、そこにイヨイが獲ってきたうさぎ肉を入れて豪華な鍋となった。料理をしている場に立ち会った記憶がないということで、イヨイもシクナも俺が野菜を刻んだり、うさぎを捌いたりする様を興味深そうに見ていた。肝心な味の方も満足してくれた様で三人で一鍋を平らげる。俺が、手を合わせてご馳走様の挨拶をすると、イヨイに、それはなんだ、と訊ねられる。俺達の血肉となってくれたうさぎや野菜達に感謝する挨拶であること、食事をする前にも同じように手を合わせていただきますと言ったのも同じ意味であることを伝えると、なるほど、と頷き、俺のマネをして手を合わせてご馳走様、と口にする。その一連を見ていたシクナも同じように手を合わせて、ご馳走様を口にする。この二人にとって、普段の何気ない行いが新鮮に感じてしまうことを思うと、俺が色々と教えてあげなければという気持ちにさせてくれた。

 使った調理器具や器などを荷台に戻すと、俺達は焚き火を挟んで倒木に腰掛ける。あとは、明日に備えて寝るだけ……、だが、せっかく落ち着いて話ができる場ができたので、焚き火の向こうで、刀を鞘ごと腰から抜き、自分に立てかけるように持って座っているイヨイに話しかける。


「なあ、イヨイ。魔晶……だっけ? あれに操られていた時の力はもうないのか?」


「ああ、あれか……。身体の奥に何か引っかかるものはあるが、おそらく今は、普通の人間と大差はないだろう」


 やはりあの右手についていた紫色の宝石を取り除かれたことにより、ただの人に戻ったようだ。取り除いた本人は、俺の隣に座って聞いたことのないリズムの鼻歌を歌ってご機嫌である。


「シクナ、朝も聞いたけど、やっぱり昨日より前で覚えてることはなんにもないのか?」


「うーん? 昨日、起きたらベッドに寝てたことと、ゼクトがイヨイと戦うって言ったことしか覚えてないかな? あとは、なんか夢の中に居たみたいにフワフワしててよくわからないの」


 朝と変わらずか……。イヨイも魔晶の力で操られていた間の記憶はうろ覚えのようだし、研究所のことをこの国の兵士に伝えて探してもらうしかなさそうだ。

 俺が唸っているとイヨイが静かな口調で俺に話しかけてきた。


「私も不思議に思っていたことがあるのだが……、ゼクトはよく魔晶の力に支配されていた私と渡り合えたものだな。一人で魔晶の暴走まで止めるのは、手練れの兵士であったとしても難しいだろうに……」


 それは俺も感じていた謎だ。手練れの兵士どころか一国の軍隊でもあの暴走したイヨイに勝てるかどうか。――いや、あんな一瞬で人や家屋を蒸発させる力相手では全滅させられる可能性の方が遥かに高い。


「んー、それは俺にもよくわからないんだよな。剣の腕には自信あったけど、あんなに戦えるはずはないと思う。なんかこう、イヨイと戦っている内に、身体の奥から力みたいなものが溢れてきてそれでって感じかな。イヨイの刀で斬られても何故か俺は燃えなかったし、炎を出せるようになるわで、自分でもわからないことだらけだ」


「それは、やはり……」


 イヨイが口篭る。


「やはり、俺にも魔晶か、またはそれ以外の何かの力があるってわけか」


「ああ、おそらくは」


 超人的な力には超人的な力。まあ、そう考えた方が自然だろう。だが、生まれも育ちも片田舎の小さな村で、ある程度幼少の頃の記憶も残っているが平凡な生活をしていたつもりだ。しかし、俺の力の原点を今ここで探っても見つかることはないだろうし、次の話題へと移る。


「この炎の力……、おそらくあの黒い刀で斬られたことで発現したんだと思うんだ」


「ふむ……、自分の中に秘めていた力と似た力が接触して発現したのか……、私の力――、魔晶の力を吸収して自分のものにしたのか……」


「たぶん、俺はイヨイの魔晶の力を何度も無効化していた。そのことを考えると、吸収したのが正解かもしれないな。そんなことを魔晶の力で可能なのか?」


 イヨイは首を振り、わからない、と口にした。


「ただ、確認する方法はある」


 そう言うとイヨイは、左手をこぶしにして自身の目の前に出す。そして右手を合わせ何かを掴むような仕草をすると、両手を水平にズラしていった。


「今は出来なくなってしまったが、これで私は刀を空間から抜刀していた。ゼクトが私の持っていた魔晶の力を吸収しているのなら、同じようにすれば空間から刀が現れるかもしれない」


「なるほど……」


 俺は、イヨイの言葉に促されて先ほど見せてもらった動きをやってみる。隣のシクナは俺達の話が退屈だったのか、眠たそうにしていたが、今から俺がやることに興味津々で視線を注いでくる。緊張した面持ちで左手でこぶしを作って前に出し、右手を合わそうとすると全身の力が両腕に集中する感覚に襲われる。その感覚を十分に感じながら右手を合わせると、赤い皮が網目状に巻かれた黒い柄が現れる。それを掴むと確かな感触があり、力を感じる。そして、それを水平にゆっくりと引き抜くと朱色の刃が姿を現す。持っているだけですごい力を感じる。おそらく、イヨイの黒い刀同様、物体を斬り裂くと炎が燃え広がるのだろう。


「で、出来たな……」


「ああ、やはり私の力を吸収して自分の能力としたようだな……」


「ゼクト、すごーい!」


 はしゃぐシクナとは裏腹に、俺はドキドキが止まらず、刀を上にしたまま固まっている。


「こ、これどうしたらいい?」


「あ、ああ、先ほどと同じように左手に鞘を持ってると思って、それを収めれば消えるはずだ」


 慎重に言われた通りにすると刃は左こぶしの中に収まり、鍔が左手に触れると柄も消えてしまう。ふー、緊張した。あんな力の塊のようなもの、扱いを誤ると大惨事に繋がるだろう。


「これでハッキリしたな。ゼクトの力は魔晶の力を吸収して自分のものにしてしまうようだ。おそらく、研究所の連中が知ると泣いて喜び、お前を実験体にするだろうな」


「それは御免こうむるな……。これで俺のことはある程度わかった。あとは、シクナについてもわからないことが多いが……」


 シクナの顔を見ると、よくわからないと言いたげに首を傾げられた。

 イヨイも暴走していたので覚えていないようだが、シクナがいなければ俺はイヨイに殺されていた。あの不思議な光を放っていたシクナがイヨイの魔晶の力を消し去ってしまったのだ。その事をイヨイに伝えたところ、魔晶を制御する方法は確立されていたらしいが取り除く力は知らないとのこと。まあ、そういう研究をしていてその成果がシクナと考えても不思議ではないか。


「今後、シクナがまた狙われる可能性は?」


「十分にある……、とまでは言わないが、研究所がこの子をどれだけ重要視しているかだな。魔晶を取り除く力を所持しているのを知っていれば今頃、血眼になって探しているだろう」


 シクナを狙って研究所の者が来てくれたら俺が接触して研究所の場所やその他の情報を聞き出せるかもしれない。だが、そのためにこの子を危険な目に会わせるわけにはいかない。どちらにせよ、今の俺達に出来るのは国に危険因子があることを伝えることしかないか。

 俺とイヨイが黙ってしまい、夜の森はパチパチと燃える焚き火に音だけになると、シクナが大きな欠伸をする。


「ゼクト……、シクナ、眠たい……」


「本当にシクナはよく寝るなあ。――イヨイ、シクナを荷台に寝かせてくるついでに俺も少し休ませてもらうよ。数時間おきに見張りを交替しよう」


「承知した。私は大丈夫だからゆっくり休むと良い」


 頼もしい言葉に、おやすみ、と返して、シクナと一緒に荷台に向かう。馬も静かに佇んで眠っているようだ。

 明日は、ようやく町に着く。村に起きた惨状を信じてもらえるか難しいところだが、なんとか説明するしかない。上手く事が運んで、国が動いてくれると良いのだが……。

 シクナは、すっかり専用のベッドとなってしまった干草の束に寝転ぶと、すぐに寝息を立てた。その早さに驚きながら、俺も横になり、少し睡眠をとることにする。イヨイにも休んでもらいたいので、あまり眠りこけないようにしなければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ