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Donuts ~君のためなら何度でも~  作者: 鏡春哉
第二章 落ちた先
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63報告

 ジークフリートに言われた通り、次の日に騎士団の元へと訪れたアルマ。彼女は矢鱈と彼らから歓迎され、何故そこまで彼らがアルマに好印象を抱いているのか分からずに居心地悪く感じていた。特に、騎士団長からの視線はすさまじく、握手を交わした際は、凡そ貴族令嬢にするには失礼で暴力的だとも思われるほどの力強さで握られた。それをものともしないアルマを見て、周囲の団員はさらに活気づいていた。


 彼らによると、どうやらアルマの一助により、騎士団長の命が助かったとのことであった。若し、アルマがあの一発でドラゴンを仕留めなければ、先導をきっていた騎士団長は回復不可能なほどの大きな傷を負い、死んでしまう所だったというのだ。そんな彼らの事情を知るはずもないアルマが、彼らから歓迎を受ける意味が分からなかったのは当然のことであったが、事情を知った後も割とどうでもいいと思ってしまったことは胸に秘めている。


 騎士団からの礼を受け取ったアルマは、早速団員たちの稽古をつけることになった。途中で何故アルマに剣の指南を頼んだのかを団長に訊いた所、第一王子がポロリと零した言葉を耳にして、是非英雄たるユーフェミアに指南役をしてもらいたいと、半ば勢いで頼み込んだとのことであった。なるほど、勢いか、とアルマが溜め息を吐いたことはさておき、まずは団員の実力を推し量るべく、アルマとの対戦方式での戦闘を行っていった。


 団長による訓練は効果的かつ効率的なようで、騎士団には粒ぞろいの人材が集まっていた。アルマはその中でも特に、三人の人物に目を付けていた。一人は特攻型の剣士で、一人は防御型の魔法剣士で、最後はオールマイティな騎士団長子息だった。アルマは取り敢えずその三人に剣術を指南することにし、後は団長に丸投げすることにした。


 一人目の特攻型の剣士は、スピードがあるという利点があるにもかかわらず、周囲があまり見えていないという欠点があった。故に、フェイント攻撃をかけることで周囲に目が行くような訓練を施し、彼がだいぶ慣れてきた頃合いに団長の元へと返した。次の防御型の魔法剣士には、主に付与魔法と強化魔法に関する指南を行った。これについては、ニコラスが魔法教師と共に編み出していたものを借用しつつ、より強固な守りになるような訓練を施した。


 最後に騎士団長子息については、特に教育方針が見つからなかったため、取り敢えず対戦方式を取ることで時間を潰していった。さすが騎士団長の息子だというべきか、その遺伝子は優秀であり、アルマもついつい本気を出しそうになるまで対戦してしまったことは微笑ましい出来事であった。


 騎士団での稽古は夕方には終了した。アルマは魔術師団の方に目を付けられないうちに帰ろうとしたが、その前にフェリシアンに捕まってしまった。彼と王城で出くわすのは初めてで、魔術師団の正装を身に纏っている彼を見ると、彼も歴とした貴族であることを感じさせられた。


 フェリシアンは今日の騎士団の訓練を見学していたらしく、アルマの実力を目の当たりにして大分表情を引き攣らせたようだった。彼に何をどう思われようとアルマには関係なかったため、幾ら貴族の淑女らしくないなどといわれようとも、アルマは全てを聞き流していた。


 アルマは王城の客間に連れてこられ、フェリシアンと相対してソファに座る。そう間を空けずに今度はジークフリートと、その後ろに昼間相手をした騎士団長子息を引き連れて客間に入って来た。フェリシアンとアルマはソファから立ち上がり、第一王子に挨拶をする。彼はそれを受けた後、上座の席に座り、それに倣ってフェリシアンとアルマがそれぞれ元いた席に座った。騎士団長子息がジークフリートの斜め後ろに控えると、ジークフリートはその他の使用人を客間から出払わせた。


 彼はソファに深く腰掛け、膝の上で指を組む。主から視線による指示を受けたフェリシアンは、ゆっくりと頷いてから口を開いた。


「先日のドラゴン強襲の件ですが、協力者のクラウスに確認したところ、ゲオルクという、魔族の四天王の一人が差し向けたものだったようです」


 フェリシアンの報告に、ジークフリートは「そうか」と短く返す。いつもなら食えない会話を展開する彼を見ているアルマからすると、違和感の塊でしかなかった。


「四天王の一人、というのは、魔族の幹部を指すものと耳にしておりますわ。その一人がドラゴンを差し向けてきたということは、侵略戦争の宣戦布告となるのでは?」


 フェリシアンからくるまっすぐな視線にアルマは痛々しさを感じる。彼は彼で、アルマの貴族らしい口調や態度に違和感を覚えているらしかった。


「そうなるのだろうな。しかし初手で王都にドラゴンを寄越してくるあたり、向こうは人族国家を本気で壊滅させる気なのやもしれない」


「気になるのは、最初に強襲されたのがここ、クラルヴァイン王国ということですわ。地理的に魔族の領域から近いのは、隣国のネスチェロフ共和国になるでしょう?」


 アルマの意見に、二人が頷く。


「ドラゴンが如何様な経路を辿って人族の領域までやって来たかが気になるところだが、今現在考えなければならないのは、例の協力者の存在だな」


 ジークフリートは能面を張り付けているが、そのエメラルドの瞳は一直線にアルマを射抜いていた。


「彼が信用に値するか否かと問われれば、グレーゾーンの域を出ません。彼の一声によってこの国がいの一番に狙われた可能性も否めませんが、それにしては彼の態度がこちら側に傾き過ぎているようにも思われるのです」


 誰かが息を呑んだ。ジークフリートは眉間に皺を寄せており、確認するようにフェリシアンへと視線を向けた。フェリシアンは姿勢を正し、肯定の意を示す。


「はい、彼がこちらに居を構える前までの情報については問題なく聞き出せるのですが、それ以降の最新の情報となると、こちらから依頼して調査させる形で情報を得ることになっているので、彼は魔族と手が切れていると考えてもおかしくはありません」


「そのように振る舞っている、ともいえるだろう」


「えぇ、ですからグレーゾーンなのですわ、殿下。彼の存在は諸刃の剣です。けれども、今は彼からの情報を上手く利用するしかないのです」


 二人の意見を聞いたジークフリートは、瞼を閉じ、深く息を吐いた。暫くしてゆっくりと目を開いた彼は、どこをともなく鋭い視線を向けた。


「どちらにせよ、例の協力者からは事後情報しか得られないということなのだな?」


「そうなりますね。此度のドラゴン強襲の情報が彼から得られなかったのも、それが原因であると考えられます」


 フェリシアンの答えに、ジークフリートは「ふむ」と唇を結んだ。


「ユーフェミア嬢の言う通り、確かに彼は諸刃の剣だな。だが、ゲオルクという魔族の四天王が今後こちらへちょっかいを掛けてくるだろうことが分かっただけでも僥倖か。国の守りを固めると共に、人族間における情報伝達も必要になってくるだろう。よって、この件は国王へ報告することにする。今後とも、情報収集を頼んだ」


 ジークフリートの宣言に、フェリシアンは「かしこまりました」と頭を下げる。アルマも軽く目を伏せ、了承の意を示した。


 報告兼会議が終了すると、ジークフリートは強張っていた体を緩め、肺の奥から溜息を吐いた。パブリックからプライベートに切り替わった旨を悟った二人も、少しばかり気を抜かせる。唯一この部屋の中で態度を変えなかったのは、第一王子の後ろに控える騎士団長子息だけだった。


「騎士団への指導の後、唐突に呼び止めて悪かったな、ミア。フェリシアンから報告があると聞いたものだから、どうしても君も同席させたかったんだ」


「構いませんわ、殿下。実に有意義な時間でした」


 切れ長の瞳を半月に歪め、愉しそうに笑む。


「それは良かった。ところでミア、今夜は空いてるかい?」


「残念ながら。今夜は予定がありますの」


 笑い合う第一王子とその暫定婚約者。フェリシアンは強引で身勝手でマイペースなアルマしか知らなかったが、見るからに貴族として対応できている彼女を見て、益々彼女への計り知れなさに戦慄した。


「その代わり、耳寄りな情報をお土産として残しておきましょう」


 張り付けた笑みでそういうアルマに、ジークフリートは「ほう、それは楽しみだ」と微笑み返す。アルマはわざとらしく唇を左右に引き延ばし、面白そうにクスクスと笑った。




「魔族という種族はこの世に存在していません。いるのは、天使族です」




 彼女はどこまでも、周りに爆弾を落としてくれる破天荒な少女であった。

騎士団長子息の名前を出す機会を損なってしまった。

恐らく、少しすれば出てくると思われる(´-ω-`)

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