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Donuts ~君のためなら何度でも~  作者: 鏡春哉
第二章 落ちた先
86/249

58合意

「『Donuts』に関しては、私の手から離れた後は好きなようにして貰えればいいよ」


 一思案して脳みそが糖分を欲した頃、アルマはメイドのライラを呼んでお茶の準備をしてもらった。ついでにジークフリートのもてなしも頼み、アルマは執務机から立ち上がってジークフリートの向かい側のソファへと腰を下ろした。


 貴人が訪れてからそれなりの時間が経っていたにもかかわらず、それまでもてなしが為されていなかったのは、偏にジークフリートがハウベル侯爵邸に訪れる頻度に起因していた。公務が増えているのか、歳が一桁だった時よりも訪問回数は減っているものの、総じてアルマが彼からの手紙を無視し、そんなアルマの意図を無視する彼は、半ば迷惑な王族として認識されているのである。されど王族故にぞんざいに扱うわけにもいかず暫くはきちんともてなしていたのだが、毎度不定期にやってくる彼に辟易としたアルマが、指示するまでもてなさずともよいとしたのだ。


 ジークフリートはジークフリートで自らの訪問を無作法と心得ているからか、もてなされなくなったことへ小言を言うような真似はしなかった。寧ろ侯爵家に気軽に訪問できるようになったとポジティブな解釈をしており、さらにハウベル侯爵家の頭を悩ませることとなった。


「クリエイターの後任者を育てていると聞いたが、本当に手放す気だったんだな」


 ライラによって用意された紅茶を嗜みながら、アルマはゆっくりと頷く。


「えぇ、私が欲しいのは利益じゃなくて、商品の方だから」


 そういうアルマに、ジークフリートは苦笑する。


「ある意味貴族らしいが、そういう意味で言ってるのではないのだろうな」


「当然でしょうに。……話を戻すけど、店の方では私が冒険者という体でウルフスタン夫人に接しているから、ジークもその設定に即した対応をしてもらいたいと思ってるんだよね」


 そう言って、アルマは一口サイズのマフィンを口にする。しっとりとした口触りに満足した彼女はもう一度マフィンの皿に手を伸ばした。


「あぁ、それは心得ているが、ウルフスタン夫人ならお前の正体に気付いていそうな気もするんだがな」


「それは言っちゃあ駄目な奴だよ、ジーク」


「はは、分かっているさ」


 沈黙。合間に茶器の接触音が静かに鳴り響く。アルマは三つ目のマフィンを口にした後、クッキーを齧った。舌の上に残るバターの風味が中毒性を生み出し、一枚、また一枚と食していく。五、六枚食べたところで味に飽きてしまったアルマは、再び紅茶を飲んだ。


「ついでに、別地点で展開している都市と繋がる転移魔法陣を見つけた話をしておこうかな」


「それはついでに言うことじゃないな。詳しく話してくれ」


 笑んではいるが目の笑っていないジークフリートが、王族の威圧を掛けてきた。アルマはそんな彼に淡々とシェルターの話から、第三シェルターの探偵事務所、延いては天魔大戦についてまでを彼に話した。唐突な情報開示に、ジークフリートは暫し思考の整理をする。その優秀な頭脳は、短距離で物事のピースを正解の場所へと当て嵌めていく。


「……これが本当なら、最早国だけの問題ではなくなってくるな」


「そうだね。国際問題、いや、人種も超えた問題になってくるのかな」


「あぁ、そうなると、第五シェルター内で小競り合いをしている場合じゃなくなる」


「でも、シェルター内の問題を先に片付けておかないと、その外にある問題には手が付けられないよ?」


「それが厄介なんだ。同時進行にしたいところだが……、いや、出来なくはないか?」


 一人でぶつぶつと呟き始めるジークフリート。アルマはそんな彼を眺めながら、独り、ティータイムを愉しんでいた。


 彼の前に置かれたカップの紅茶が冷め始めた頃、漸くジークフリートは意識を浮上させた。彼はアルマを見ると、突如としてよそ行きの顔で笑んだ。嫌な予感を覚えたアルマは手に持っていたカップをソーサーの上に置いた。姿勢を正し、彼を見返す。


「『アルマ』に協力を願う。君の言う、探偵とやらを私に紹介してくれないか」


 彼がアルマに頼み事をするだろうことは想定の範囲内であった。加えて、第五シェルターの者を第三シェルターに連れていくという行為は何度も行っているため、さしたる抵抗はなかった。けれども、彼がどのような立場としてあちらへと出向くかによっては、協力要請を蹴らなければならなかった。


「無論、お忍びという形で会わせて貰う」


 彼の言葉を聞き、アルマは頬を緩めた。やはり次期国王ともなる器の持ち主ならば、周囲への情報開示をする時期というものを確と計算しているらしかった。


「その要請、承諾するよ。一日二日程度あれば面会は可能だと思うから、都合の良い日にちを教えてもらえる?」


「そうだな……。もうすぐ騎士団と魔術師団の合同試合があるから、それ以降なら」


「じゃあ、三週間後くらいかな?」


「そうなるな。取次、宜しく頼む」


「頼まれた」


 二人は固く握手を交わし合い、不敵に笑んだ。

長らく現代の舞台を放置している感が否めない。

第一章で出てきた登場人物が第二章で出てきたり、伏線を回収するたびに思う。。

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