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Donuts ~君のためなら何度でも~  作者: 鏡春哉
第二章 落ちた先
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45情報

 第三シェルターに転送され、河橋という探偵に出会って半ば事故的に記憶の一部を取り戻したアルマは、『向こう』での記憶と共に、理に関する情報も共に思い出していた。それ以前に遺跡のダンジョンクエストをこなした際、彼女は理の子機と相対し、小型トランクケースの収納装置を手に入れていたわけであるが、それはアルマからすればまったくの偶然であり、記憶を取り戻していなかった当時、わざわざ理の方からアルマに接触してこない事も相俟って、アルマは理のことを完全に思考から外してしまっていたのである。


 今思えばなんて遠回りなことをしでかしていたのだろうか、と彼女は悔恨の念を抱いたものの、時既に遅し。とはいえ、結局は理のことを思い出しているわけであるし、そうでなくともアルマが動き回らなければ解決しようのない事態もあったために、彼女は過ぎたことに執着するような真似はしなかった。それよりも寧ろ、気付いた時点から積極的に理を活用していった方が真実の探求には有効であり、事実その通りであった故、アルマは使える所は理を使い、効率的に情報収集を行っていったのである。


 しかしながら、こちらの世界における理の有効範囲は限られており、この世界に存在するものでなければ情報を掴むことができないのだ。つまり、アルマが元居た世界、すなわち穴に落ちてこちらにやってくる前までに住んでいた世界の情報を手に入れるには、その世界に縁のある『こちら』の物や生命体を通して収集するしか手がない故、現時点で『向こう』の情勢がどのようになっているのか、アルマの知る術が恐ろしく少ないのである。それは偏に、アルマが観測専用の理の子機としか連絡が取れないからであり、理の本体とはこの世界よりも高次元の世界に赴かなければ直接連絡を取ることができない故であった。子機と本体とは思考は繋がっているものの、情報連絡は子機から本体への一方通行であるために、『向こう』の情報を上手く手に入れられないのである。


 ならば、子機の機能を変更すれば良い、という話になりはするのだけれども、容易く『向こう』の情報をこちらへ流入させるという行為もまた、『こちら』の世界の歯車を狂いさせかねないという問題が発生してしまうのだ。それ故に、子機を通して地道に情報収集していく他はなく、それでもそれなりの収集量は得られているために、アルマはこの程度の収集能力で甘んじているわけなのである。


 さて、理と連携を図ることにより新たに得られた情報は、この世界の戦争時代に生きた農作物の研究者についてであった。正確に言えば、戦争時代にこの世界へとやって来て、己の研究成果をばら撒いた後に忽然と姿を消した者についてなのだが、どうやらその研究者はアルマが以前親しくしていた友人の知り合いであるらしいのである。


 どちらの友人か、と問われれば、アルマはすかさず「天使の方」と答えるのだが、その研究者も同じく天使であり、農業試験場という名の人類の滅びた並行世界を大いに利用して奇抜な農作物を開発し続けているマッドサイエンティストでもあるとのことであった。アルマは理から運が良ければ第二シェルター内で彼女に会えるとの情報を掴んだのだが、如何せん、件の研究者は出不精故になかなか出会えずにいたのである。漸く出会えたのもほんの数週間前の出来事で、その時絶賛社交界シーズン真っただ中にいたアルマは、エルマーや第一王子、その他大勢の圧力による多大なストレスを抱えたまま彼女と会話をすることと相成っていた。


 この時、彼女に出されたきゅうりの浅漬けで気分が回復したことには大層不服を抱いたものの、久々に漬物を食したアルマとしては、どこか感慨深く感じられるところも無きにしもあらずだった。ヤマト国に行けばそこらで漬物が売られていることはアルマも知ってはいたのだが、やはりヨーロッパ系の生活習慣が根強くついているクラルヴァイン王国では滅多にお目にかかれる代物ではなかった故に、どこか郷愁を覚えたのかも知れなかった。


 そのいかれた研究者は、ノエルと名乗った。彼女もアルマと同様にマイペースな性格をしており、時折世界間を渡り歩いては自身の研究成果を広めているとのことであった。主に、第三次世界大戦後、文明が残り、魔法法則の体制が敷かれた十二の並行世界にて活動しているようであった。しかし、アルマの居た十三個目の並行世界にはほとんど足を運ぶことはなく、アルマの友人と顔を合わせるのは専ら農業試験場のある並行世界だと彼女は述べた。


 何故ノエルは十三個目の並行世界へは赴こうとしないのか。それは、彼女の開発した農産物が、魔法法則を前提にしているからに他ならなかった。未だ体制の敷かれていない、戦前の世界で開発した農作物を育てようにもうまく育てることができないのに、わざわざそのような世界でその農作物を広めようとは思わない故の判断であった。


 そうであるのに、アルマの友人、加絵とノエルが知人であるのは何故かというのは、彼女らが大学時代の同級生であるからということで説明が付けられた。二人は互いに別の学部ではあれど、優秀な人材として注目されていたことから、自然と知り合ったというのが事の成り行きであった。アルマとしては、高校生のなりをしていたあの友人が、既に大学を卒業していたことに驚きを覚えたものの、天使の法則が人間のそれと当て嵌まるはずもなく。


 兎にも角にも、接点のなさそうな二人ではあれど、アルマと加絵、或いは真奈と加絵の組み合わせを考えれば、ありえない話でないことは理解できる。アルマもまた、高校で偶々同級生だった故に加絵と出会い、友人となったのだから。とはいえ、この点に関しては些か作為的なものがある気がしないでもないのである。というのも、〝天使〟は〝彼等〟が生み出した作品であるし、真奈は真奈でより高度な人工知能であったという事実から、あの二人が三次元世界へとやって来たアルマをサポート、或いは監視していた可能性も考えられるのである。否、寧ろ偶然アルマの元に集まり、アルマの友人になったという方が奇妙であり、やはり作為的と考えた方が腑に落ちるのである。


 アルマは〝彼等〟が何故そのような事をしたのか、というような野暮なことを考えはしなかった。考えたところで無意味であろうし、アルマには関係の無いことであると判断されたからである。それよりも、ノエルから『向こう』の情勢を間接的に聞き出すことの方が有意義であり、一刻も早く事態の収束を図ることができると推測された。


 アルマは彼女が何故、奇妙な効果を付与した農作物を開発しているかに関しては訊き出さなかった。若干ほど気になりはしていたものの、どこか選帝侯とは質の違う食えなさをノエルから感じ取っていたアルマは、必要な情報収集を優先したのである。


 彼女曰く、「もう始まっている」とのことであった。何が始まっているかについては聞くまでもない。アルマはさらに詳しい話を彼女から訊き出そうとしたものの、あまり情勢には興味がなかったらしい。ノエルからはその後、大した情報を得られずに別れることとなった。その折、大量の怪しげな農作物を貰ったことに関しては、アルマは目を瞑ることにしている。


 残念なことにノエルがこの世界にやってくる頻度は少なく、大抵は通信機器で連絡を取るか彼女の元へ出向くというスタンスがとられることが多いようであった。故に、アルマは自ら縛りを入れているとはいえ、この世界から出られないことから、彼女とは不定期に連絡を取ることとした。けれども、あまりノエルからの情報を期待していないため、何か知りたいことがあれば連絡を入れるという程度に留めることにした。

ミナサマ、オボエテマスカ?

ヒキコモリノヘンクツ天使ノコトヲ。

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