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Donuts ~君のためなら何度でも~  作者: 鏡春哉
第二章 落ちた先
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44量産

 ヒルデブラントはアルマに言われた通りに、理を呼び出した。小型のトランクケースの蓋を開け、装置を起動させる。通信機能の欄から理に連絡を入れ、返事を待つ。理の反応は人間のそれよりも圧倒的に早く、理からの返事はすぐさま返って来た。


『如何いたしましたか、ヒルデブラント様』


「あ、理。フェミーが呼んでって言ったから」


『畏まりました。何用でしょうか、誰何されし傍観者様』


 ヒルデブラントはケースをアルマの近くにある岩の上に置いた。アルマは光のプレートに映し出された球体のグラフィックを見遣り、機嫌よく「やぁ」と声を掛ける。


「このネックレスを寸分違いなく量産して欲しいんだけど」


 アルマは件のネックレスを、手のひらから吊り下げた状態で理に見せた。理は『承知しました。少々お待ちください』と述べ、掲げられたネックレスを分析する。それから間もないうちに青色の光が発せられると共に、相当数のコピーされたネックレスが出現した。


『差し当たり、一万点ほど量産しておきました。追加のご希望があれば、またご連絡ください』


「どうも。因みに、頼んでいた物は見つかった?」


『是。お探しの物は、ヤマト国国立図書館特別貴重室にて厳重に保管されております。ただ、資料の保管状態が悪く、落丁や湿気、黴などにより一部閲覧不可能な箇所があるため、資料閲覧の際は当方子機のアーカイブからお求めになることを推奨します』


 アルマは半目になって理を見遣る。そのすぐ傍で、ニコラスが大量に湧いて出てきたネックレスを丁寧に鞄の中へ仕舞い込んでいく。それを見たヒルデブラントは、この先、これらのネックレスの行く末を想像し、途方もないことを淡々とやってのけるアルマに対して半ば呆れの感情を抱いていた。


「別に内容を確認したかったわけじゃないんだけどね……。まぁ、いいや。それがどの世界でいつ作製されて、どういう経路を辿ってその図書館まで辿り着いたか、教えてくれる?」


『了解しました。……清見清羅著『5丸jる#ノ‐か*jj*Qj‐無$る 瑠#ぎヲ%$ぎxj』は、第3141592653589793238462643383279並行世界におけるグレゴリオ暦20××年11月3日に出版されたもので、約3281年前にこちらへと移り住んできたヨーロッパ系の天使によって第3141592653589793238462643383279並行世界から第3141591653589793219467380647819並行世界へと持ち込まれ、他種族混交世界規模戦争後にカナタ様の手に渡り、後にヤマト国国立図書館特別貴重室に保管されるという流入経路を辿っております』


「そう、あの本の出版は新しい事象だったわけだ。言の葉の言い分からすれば、運命改変は着実に進んでるってことかな」


『是。第3141592653589793238462643383279並行世界は他の並行世界とは大幅に異なる道筋を辿っています。此度の回にて終結する確率は、82.3%です』


 アルマは指を組み、夜空を見上げた。月には霞がかかり、地に影を落としている。焚火が爆ぜ、火の粉が上空へと舞い上がった。


「うーん、微妙だねぇ。以前と比べると格段に上がってはいるんだろうけど、確実とも言い切れないところがまた、悩ましいところだよね」


 アルマは小さく息を吐き、視線を焚火に移す。ヒルデブラントはアルマと理の会話を聞くだけで、その間に割って入ろうとはしなかった。


「ま、どうでもいいか」


 そう呟いたアルマは、皿の上の最後のカットフルーツを摘まみ、口の中へと放り込んだ。ゆっくりと咀嚼し、徐に嚥下する。口の中に残る仄かな酸味を感じつつ、アルマは真顔に戻った。彼女は姿勢を正し、焚火の先にいるニコラスへと視線を向ける。


「そういうわけでニコラス、そのネックレスの件、頼んだよ」


 ニコラスは無表情のまま「はい、姉上」と了承する。彼は何か言いたげに眉を顰めているヒルデブラントを無視し、アルマに尋ねた。


「ところで姉上、このネックレスは国内外と幅広く流布させたほうがよろしいでしょうか」


「そうだね。なるべく私たちの情報が錯綜するように仕向けるのがいいかな。采配に関してはニコラスに任せるから」


「了承しました」


 ニコラスは深く頭を下げた後、野宿の準備を始めた。アルマから渡されているアンティーク調の鍵を懐から取り出し、無の空間へと突き刺す。彼が鍵に魔力を与えるや否や、鍵から白銀の光が生み出された。その光は即座に縦長の長方形に形を成し、何も無い魔物の森に一つの重厚な扉が出現した。彼は一度扉の中へ入ると、さらに三部屋に分かれた部屋の内、一番左の部屋へと足を踏み入れる。薄紫色のエレガント調の内装をした部屋のベッドメイクをし、すかさず隣の部屋に移動する。こちらは先の部屋とは違い、質素な内装ではあるものの、家具や調度品の一つ一つは高級品が取り揃えられており、およそ野宿に使われるものとは考えられない様相をしている。ニコラスはこの部屋のベッドメイクも済ませると、最後の部屋には入ることなく初めの扉の外に出た。彼は静かにドアを閉めると、そのドアに背を向けて焚火の前に座る二人を見据えた。


「寝室の準備が整いました。如何なさいますか」


 ニコラスの声に、二人が振り返る。彼がベッドメイクをしている間に魔法で体を清めていた二人は、すぐさま眠りにつくことを選択した。彼らは重厚な扉の内に入り、それぞれの部屋の中へと消えていった。ニコラスは二人の姿を見届けると、水魔法にて焚火の火を消した。彼は焚火跡を片付けると、自らの身体を魔法で清め、一度周囲を見渡してから扉の中へと入る。そして扉の鍵を内側から閉め、一番右の部屋へと入って行った。


 ニコラスが扉と閉じると同時に、魔物の森にはそぐわない、重厚な扉は霞むように消失していった。

理さんの便利なこと。

一家に一台は欲しいところ(*´ω`*)

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