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Donuts ~君のためなら何度でも~  作者: 鏡春哉
第二章 落ちた先
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39裏側

 村を発った後、気ままに竹林の中を彷徨っていると、アルマは不意に空間が切り替わったことに気が付いた。彼女は空間魔法に長けている故、通常なら気付かない空間の異変も察知できるようになっていたのである。


 彼女はゆっくりと周囲を見渡し、そこに何があるかを確認した。そこで微かに魔力の筋を感じたアルマは、その筋を辿って竹林の中を歩き回り、魔力の筋をマッピングしていった。すると、半径五キロもの広範囲の中に、複雑な幾何学模様が描かれていることが判明した。


 すなわち、魔法陣。


 この竹林は、一帯に不可視の転移魔法陣が隠されていたのである。また、この魔法陣の発動条件を調べたところ、一人当たり、アルマが通常、空間転移に使う魔力量とおおよそ同じ量の魔力が周囲に垂れ流れた場合であることが分かった。この魔力量というのは、一般に魔法で魔物と対峙できる程度の魔力量を持っていれば、余裕で垂れ流すことのできる量となっている。


 つまるところ、ポラリスの村人や冒険者たちがこの竹林の中で忽然と姿を消したのは、彼らが何らかの理由によってこの地で魔法を使い、そこから流れ出た余剰の魔力が巨大な魔法陣を発動させてしまった故であるということが窺える。それでは彼らは何故、必ずといってもいい程にこの竹林の中で魔法を使う必要があったのか。


 この問いに関しては、考えるまでもなかった。アルマはこの竹林を散策している中で、高確率である魔物と遭遇していたからである。それも、国の騎士団長になれるくらいの腕前でなければ、剣では到底対処しきれないタイプの魔物である。アルマはこの魔物の名を知らないが、狐のような、豹のような、兎に角すばしっこく、さらには攻撃力も高くて頑丈な魔物である故に、対峙するたびに顔を顰めた。とはいえ、独学による彼女の剣の腕前は、軽く騎士団長もベテラン冒険者たちをも超えているため、魔法を使うまでもなくあっさりと片付けることができたのだけれども。


 結論としては、戦闘職でない村人やミーハーな三流冒険者がこの竹林に足を踏み入れると、必然的に魔法を使って魔物と対峙することとなり、地味に戦闘にも時間がかかることから、それが原因で魔法陣の発動条件を満たしてしまい、いずこへかと飛ばされてしまったというわけである。このように考えると、空間魔法、それも転移の使えるアルマなら、例え見知らぬ地に飛ばされたとしても、戻ってくることができるのである。ただし、この世界における「魔法」が通用する場でなければ、行ったきり戻れない可能性も無きにしも非ずだった。


 アルマは暫し忖度し、結局は行かなければ来た意味がないことと、少々の好奇心によって実行に旗を上げた。彼女は転移する際と同じ量の魔力を垂れ流し、魔法陣の発動を待った。


 徐に、周囲が明るく輝き出す。巨大な魔法陣の中に組み込まれている多数の小さな魔法陣の中で、アルマの足元にある魔法陣だけが反応しているらしかった。アルマは人数を問わずに発動できる魔法陣なのだろうと、その効率の良さに舌を巻いた。同時に、この仕組みであれば竹林の中のどこにいても、魔力さえ供給すれば魔法陣が発動してしまうため、誤作動が生じるのも止むを得ないと感じた。


 白に染まる視界の中、彼女ははたと首を傾げる。


 もしや、この竹林に入ってきた際に感じた空間の切り替わりが、竹林全体を覆い隠している結界だったのではなかろうか。その結界が、長い時を経て、機能不全になって行ったのだと推測できる。そうすれば、アルマが感じた空間への違和感も、誤作動を想定していない魔法陣の作りにも、説明が付くのである。


 アルマは独りで納得しながら、魔法陣の力の流れるままに身を委ねて行った。暗転して視界が切り替わるまで、僅か0.5秒。それまで竹林に居たはずの彼女は、仄暗い洞窟の中にいた。広々とした空間を観察するに、そこはダンジョンの一部であるようだった。


 なるほど、竹林からいきなりダンジョンに転移されては、帰れるものも帰れない可能性が高くなる。ダンジョンのマップがない故に現在地を把握できず、さらにサバイバル度が上昇してしまうのである。こんなところで魔物と遭遇した暁には、対ダンジョン用の装備をしていない者であれば、命尽きるのも想像に易かった。


 アルマは気の赴くままに暗い洞窟の中を歩き続けた。そこで違和感を覚えたのは、幾ら歩き回っても、魔物という魔物に遭遇しないことであった。寧ろ、とある階層には果物のなる木すら生えており、飢えの危険性も、襲撃の危険性も全くないということが判明した。この理由として一つ考えられることがあるとすれば、アルマの能力値が高すぎる故にダンジョン内の魔物が彼女を避けている可能性である。しかしながら、それにしてはアルマの広範囲な気配察知に何者も引っかからないというのも、非常に奇妙な現象であった。


 それからまた暫く歩くと、アルマはダンジョンの外に出た。同時に、件の竹林に入った時よりも、空間の切り替わりを強く感じた。これ程までの切り替わりようなら、外にいる魔物が中に入り込むことはないだろう。けれども、ダンジョンなるものは外界で自然に出現したものが住み着いた洞窟なのではなく、ダンジョンそのものが生きており、養分回収をするべく、ダンジョンが自らその内で魔物やトラップを生み出すものなのである。


 アルマは再度はたと首を傾げた。自身は今し方出てきた洞窟のことを、ダンジョンであると考えた。何故かと言えば、今まで彼女が踏破してきた別のダンジョンと、空間の質が似通っていたからである。すなわち、生きているものの中にいるように感じたのである。


 ならば何故、それらのダンジョンと同じように、洞窟内で魔物やトラップと遭遇しなかったのだというのだろうか。アルマは洞窟の入り口が隠された森の中を彷徨いながら、つらつらと思考を連ねた。その折、件の竹林の近くにあったシェルターが、このダンジョンの近くにも存在していることを発見する。幾ら魔法を打ち込んでも、物理的に切り裂こうとしても、びくともしないのは向こうのシェルターと全く変わりが無かった。


 このまま森の中で彷徨っていても埒が明かないと判断したアルマは、飛翔にて人の居る場所を探した。すると、思ったよりも近くに都市があるのを見つけたのである。


 そう、都市である。


 ここ近年久しく見ていなかった、高層ビル群。整った道路。コンクリートとアスファルトで出来た、灰色の街。彼女が知っているものと少し違ったのは、サイエンスフィクションで出ていそうな、近未来的な風景が加わっている点であった。例えば、車輪の無い丸型の自動車が空を飛び交っていたり、何も無いところに広告の映像が流れていたりしている事が挙げられる。アルマは額を押さえ、『向こう』との圧倒的な差異に眩暈を覚えた。


 彼女は、転移後の地で、転移前の地と同じように魔法を使用することができた。つまり、この地は『向こう』の地と同じ世界に存在しているか、或いは同じ法則で成り立った地である旨が窺える。もしも前者だったならば、『こちら』は同じ世界の中で『向こう』とはまた別の歴史を歩んできたことになる。しかし、アルマが把握している世界には、あまり足を運べないエルフの居住地域や魔族領も併せて、ここまで発展した文明があるとは思えなかった。というのも、エルフは総じて前時代的な民族衣装を身に纏っているし、魔族領に至っては、件の不毛な土地にかような都市を築き上げることは不可能な上に、そもそも此処まで発展しているのならば、とうの昔にその圧倒的な文明の差により人族は滅んでいるだろうと考えられるからである。


 そうであるならば、ここは一体如何様なる場所だというのだろうか。この疑問に対して、ここは二つ目のシェルターの中にある、居住可能地帯であるとアルマは考えた。すなわち、この世界は総合すれば、アルマがこちらに来る前の世界と同様に広大であるものの、大気汚染なり何なりが原因となり、生物が生きられない地帯となったが故の措置として、古代の人々、或いは神話時代に生きた連中が巨大なシェルターを作り出し、居住可能地帯を点在させた可能性が高い、ということである。


 そこまで考えると、天気も自在に操れるこのシェルターの技術が気になってくる。もしかすると、シェルターを作ったものは、こちらの地帯にいるものなのかも知れなかった。アルマは開かれた都市部に入り、雑多の中を彷徨った。若干彼女の格好が目立っていたものの、道行く人々は何も見なかったかのようにすれ違い、無視を決め込んでいた。アルマは懐かしい現象を目の当たりにした、と独りで感慨に耽りながら、これからどうすべきかを考えた。


 せっかく第二の居住地域内にやって来たのだから、何の情報も無しに帰るのも憚られた。とはいえ、このような都市部において、一体どこで情報収集すれば良いのかが分からないというのも事実である。恐らく、アルマの予想が当たっていれば、ここに居る人々は主に携帯端末や情報機器等で情報を手に入れていると考えられる。つまり、わざわざ「人に聞く」という行為をしないのである。それ故、アナログ的な情報収集の場は限られていると結論付けられるのだ。


 もしかすると、そこまで考える必要はないのかも知れない。しかしながら、アルマの記憶にある科学文明の発達した世界は、この世界よりも数段時代遅れなのである。つまり、勝手が分からないのは当然であって、最悪を想定しておいた方が後々困らずに済むのであった。

魔法陣って、どういう理論で成り立っているんでしょうか(´・ω・`)

ファンタジーものは御伽の国のお話だから、きっと不思議な力が働いているんだと思う(´-ω-`)察し

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