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Donuts ~君のためなら何度でも~  作者: 鏡春哉
第二章 落ちた先
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Target Side2-6

「ねぇ、理って、一体何者なの?」


 率直に問いかけてくる彼に、理は即座に返した。


『遍く宇宙に存在するすべての法則を把握、管理する、一介の管理装置です』


 ヒルデブラントは興味深げに画面上の球体を見据える。彼が薄々感づいていた通り、理は生命体ではなく、装置という名の無機物であった。恐らく、ステータス測定器にも似た画面上のグラフィックが、そのまま理の姿なのだろうとヒルデブラントは純粋に思った。


 一つの疑問が解決すると、更なる疑問が泉のように湧き起こってくる。彼は一思案し、斜め上方向に視線を遣りながら呟いた。


「つまり、英雄は天魔世界大戦を終わらせるために、普通じゃ作れないようなアイテムを理に要求したってこと?」


『是。戦争当時、カナタ様の周囲は敵対者しかおらず、バトルロワイアル状態に陥っていました。その過酷な状況下で生き残り、尚且つ戦争の終結を促すべく、現状のテクノロジーを大幅に上回る技術によって作製されたアイテムを必要としたのです』


 薄ぼんやりと光る画面の中、理は球体の中で渦巻く光の集合体を規則的に伸縮させる。


『カナタ様が遺跡に安置されていた当方の子機を発見したのは、偶然の出来事でした。戦争の最中、カナタ様が敵の攻撃から逃げ惑い、遺跡の最深部まで転がり込んできた故の邂逅であったと推測されます。当時、当方の子機には言葉の通り、世界の観測装置としての役割のみしか担わせておりませんでしたが、カナタ様の希望や思想と、それまでの動向と状況を鑑み、協力した結果、この超小型式収納管理装置トランクケースモデルが誕生しました』


 因みに、戦後、当装置はカナタ様の協力者や子孫たちの手により、当方の子機が存在している遺跡に安置されることとなりました、と付け加え、理は話を締め括った。ヒルデブラントは感慨深そうに溜息を吐き、画面の中の球体に魅入る。


「なんだか、ものすごく壮大な話になって来たんだけど……。こんなすごい物、僕が使っちゃってもいいのかな?」


 内容の咀嚼が進むと、次第に滲むようにして胸の内に不安が広がっていく。ヒルデブラントは逸る鼓動を押さえ、理の返答を待った。


『問題ありません。現在、当装置の所持者はヒルデブラント様で固定されています』


「いや、そういう問題じゃなくて」


『不問。誰何されし傍観者様から譲渡されたものである故、ヒルデブラント様には歴とした使用権が存在しています』


 目を幾度か瞬かせる。ヒルデブラントは「え、そうなの?」と素っ頓狂な声を発した。


『是。当装置は、ダンジョン化したナギノウミ遺跡にて、誰何されし傍観者様が踏破クエストをクリアした際のボーナス特典として手に入れたアイテムです。その際、超小型式収納管理装置トランクケースモデルの所有権は誰何されし傍観者様に移行しております』


「うん、ちょっと待とうか」


 ヒルデブラントは額に手のひらを当て、顔を顰める。


「フェミーは一体何をしているの? 貴族だよね。侯爵令嬢だよね」


『是。ユーフェミア・ローズ・ハウベル様はハウベル侯爵令嬢です』


「いや、そんなことは分かってるの。訊きたいのはそんな事じゃないの」


『是。誰何されし傍観者様は、真実の探求に向けてステータスのレベル上げを行っています』


 口の端だけで笑うヒルデブラント。理に訊かずとも、この先彼がアルマから要求されるだろうことを、容易に想像することができたからだ。彼は思いやられる未来から意識を背けるべく、無理矢理思考を別ベクトルへと向けた。


「えーっと、うーんと。じゃあ、フェミーもカナタ様みたいに、理とは偶然出逢ったってこと?」


『是。ユーフェミア・ローズ・ハウベル様は、遺跡におけるレベル上げの際に、最深部まで進んだところ、当方の子機と相対しております』


 話題改変に成功したヒルデブラントは、そのまま質問を続けていく。


「ん、そうなると、フェミーと理は無関係というか、知り合いではなかったわけか」


『否。誰何されし傍観者様は、当方の作製者です』


 理の爆弾発言を聞いたヒルデブラントから、表情が消え去った。窓の外は明るみ始め、室内の輪郭がだんだんと明瞭になっていく。


「ごめん、もう一回言って」


 十分に時間を隔てた後、ヒルデブラントが口にする。理は画面の中で変わらず光を伸縮させていた。


『誰何されし傍観者様は、当方の作製者です』


 変わらぬ返答に、変わらぬ表情。ヒルデブラントは乾燥しつつある両眼を、人差し指の甲で擦った。もう一度画面を見据えた彼の目元には、隠しきれない隈が出来上がっていた。


「……あのさ、今色々と混乱してるから確認したいんだけど。取り敢えず、ユーフェミア・ローズ・ハウベルは僕の知ってるフェミーで、誰何されし傍観者? は、僕の知らないフェミーっていう認識で合ってる?」


『否。【ユーフェミア・ローズ・ハウベル】はアルマ様の現在の器に対して付けられた名であり、【誰何されし傍観者】はアルマ様そのものを指し示す名です』


 淡々と訂正する理。疲労で働かなくなりつつある脳みそで、ヒルデブラントは懸命に咀嚼する。飽和した感覚を振り払うように頭を掻き、低い声で唸った。


「うーん、要するに、アルマは人間じゃないってこと?」


『是。誰何されし傍観者様は、高次元生命体です』


「また『高次元』が出てきたよ! これも知る必要は無いっていう奴でしょ!?」


 ヒルデブラントが頭を抱える傍で、理が『是。これはヒルデブラント様が理解する必要のない情報です』と律儀に返す。ヒルデブラントは爆発した髪を押さえつけながら、口をへの字に曲げた。


「いや、もう、人間とかそういう問題超えちゃってるじゃん。そんな危険極まりないものに協力要請されてる僕は、どうしたらいいの? 死んじゃわない!?」


『不問。振り回される可能性は否定できませんが、生命活動が阻害される心配はありません』


「うん、その『振り回される可能性』が怖いの。未知数過ぎて慄くの!」


『不問。当方より高次元存在である誰何されし傍観者様に対して、彼の方の思考を予測することは不可能です』


「ますます不安になったんだけど!? でも、理の作製者ってことは、フェミーが必然的に上位存在になっちゃうんだね。道理で理解できないわけだよ!」


 思考が支離滅裂になりつつあるヒルデブラント。彼の声は叫びに変わっていく。


『是。ヒルデブラント様が誰何されし傍観者様のすべてを把握することは、理論的に不可能です。しかし、不安を抱く必要はありませ………………現地点より100m先に人体反応があります。装置の停止と夜更かしの証拠隠滅を推奨します』


 唐突に自身の言葉を遮った理。ヒルデブラントは反射的に入り口の方へ振り向き、部屋と廊下を隔てる重厚なドアを見遣った。徐に首の位置を戻し、彼は呆然と画面を眺める。


「停止ってどうすればいいの」


『ケースの蓋を閉じると、自動的に機能停止します』


 理の回答を聞くや否や、ヒルデブラントは小型トランクの蓋を閉め、それを持って寝室へと急いだ。装置を布団の中に隠し、自身もベッドの中に潜り込む。


 暫くすると、寝室のドアから控えめなノック音が響いてきた。然程間を開けずに、ゆっくりと木の扉が開かれて行く。ドアの影から顔を出したのは、ヒルデブラントの付き人であるメイドであった。彼女は「王子殿下?」と小声で発し、恐る恐る部屋の中に足を踏み入れた。音を立てないよう、忍び足でベッドの方へと近付いてくる。


 メイドは布団の中にヒルデブラントの姿を確認すると、心の底から安堵の息を吐き出した。


「良かった、殿下が襲われているのかと思った」


 そう呟いた彼女は、軽い足取りでヒルデブラントの寝室を去って行った。


 ドアの閉まる音が響く。メイドの足音が聞こえなくなるまでじっと布団を被っていたヒルデブラントは、徐に体を起こした。彼は隠した装置を布団の中から取り出し、再度その蓋を開ける。魔力を込めると、ケースを閉じた時点と変わらない画面が出現した。理のグラフィックは変わらず、画面の左端に位置している。


「まずいな、僕の声が響いちゃってたみたい」


 ヒルデブラントが不安げに呟くと、理は変わらぬ様子で彼の言葉に返答した。


『是。次回からは、防音結界の展開を推奨します』


「うん、それができれば苦労しないんだけどね」


 溜息を吐く。ヒルデブラントは睡魔のピークを通り越して眠気の霧散してしまった脳内にて、アルマによって半強制的に魔法強化される未来を思い浮かべた。考えるまでもなく、厳しい道のりになるのだろう。しかし、諜報じみた活動をしなければならない分、これが必要な訓練であるということを、今回の経験で十分に実感した第二王子殿下であった。


 彼は羽毛布団に包まり、どうしてこんなことになったのやら、と独りで嘆いていたものの、そのきっかけを作ったのは紛れもなく己であったことを思い出し、再度、深く溜息を吐いた。


『因みに、この装置から防音結界の類の展開が可能です』


 沈黙。ヒルデブラントは鋭い視線で理を睨みつけた。けれども、機械を相手にして彼の感情を理解してくれと言っても、無意味極まりなかった。ヒルデブラントは眉間に寄った皺を解し、ついでに乾燥した目を擦ってから、疲れたように項垂れた。


「だからさ、そういうのは、最初に言ってくれないと意味ないじゃん」


 理はただ、光の伸縮を繰り返すだけだった。

ヒルデブラント視点はここまでです。

理さんとの会話を書いていると、時々自分でも何言ってるのか分からなくなる今日この頃です(´_ゝ`)

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