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Donuts ~君のためなら何度でも~  作者: 鏡春哉
第二章 落ちた先
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Target Side2-4

 ヒルデブラントは暗い自室で、机上に置かれた小型のトランクケースを見詰めた。


 アルマに言われるまま、このケースの持ち主になって一日が経った。正直な思いとしては、見たことも無い装置への感情は忌避半分、好奇心半分であった。既にこのケースの蓋を開けているとはいえ、アルマの言い様からすれば、据え付けられた宝石以上のものがこの中に収納されている旨が窺えた。故に、どんなものが入っているのか、はたまたその道具がどのような効果を持っているのかに対する恐怖があったし、そもそもそれらがどうやってこの小さなケースの中に収まっているのか、あるいはケースから出てくるのかさえ、不思議で仕方がなかったのである。


 ヒルデブラントは意を決し、ケースを開錠してその蓋を開けた。露になった据え付けの宝石に自分の虹彩を確認させた後、魔力を込めてみる。


 刹那。


 碧く光る膜が宝石を覆い、なにかが起動するような音が室内に響いた。同時にステータス画面のような光のプレートが出現し、その画面中央には『ようこそ、ヒルデブラント様』という文が無機質な字体で表示された。


 ヒルデブラントは淡く照らされたケースを眺め、はたと首を捻る。


 使い方が分からないのだ。結局、アルマによるレクチャーは第三者の介入疑惑により、途中で終わってしまっていた。彼女は宝石部分に魔力を注げば自動的にガイドブックが開かれると簡単に説明していたものの、今彼が見ている画面は初めに表示された画面で停止したまま動かないのだ。故に、ヒルデブラントはどうすれば良いか分からずに、固まってしまったのである。


 暫くすると、画面中央下部に『この画面をタップしてください』という文章が点滅し始めた。ヒルデブラントはもう少し早い段階で表示して欲しかったと心の中で文句を垂れながら、その画面に一触れする。すると、初めの画面から切り替わり、フェードインする形でとある文章が浮かび上がって来た。


『ミミズでも分かる! 初めての超小型式収納管理装置トランクケースモデル☆マニュアル』


 沈黙。ヒルデブラントは能面を張り付けた顔で画面を連打し、先を促した。腹立たしいことに、マニュアルの起動画面は十秒かけてゆっくりとフェードアウトしていった。漸く次の画面に切り替わったと思えば、画面中央に奇妙な形態をしたキャラクターが現れる。


 それは紐状の瑞々しいボディをしており、先の方には、環状に並んだ鋭い歯を伴った口が付いていた。全身が薄く透明な皮膚で覆われているからか、全体的にくすんだ血液の色をしている。しかし、頭の方にポップな青い瞳の目玉が二つ付いており、辛うじてキャラクター然としているキャラクターであった。


「いや、これミミズじゃなくて、魔物(ワーム)なんですけど!?」


 思わず叫んでしまったヒルデブラントは、慌てて自身の口を塞いだ。静けさを取り戻した部屋の中、彼はドアの方を盗み見る。誰かに気付かれた様子はなく、彼は止めていた息を吐き出してから再び画面と向き合った。


 ミミズなのかワームなのか良く分からない、兎に角紐状の体をくねらせているキャラクターは、画面中央で何やら言葉を喋っていた。吹き出しの中に『ボクはミズリン☆ 土の中からどわっと出てくるよ!』と書かれている。ヒルデブラントは、絶対にあの凶悪な魔物が獲物を刈り取る瞬間の説明に違いないと、遠い思考の中で確信した。


 もう一度画面をタップすると、吹き出しの言葉が変化する。


『この超小型式収納管理装置トランクケースモデルの説明は、このボクと、作製者の(ことわり)さんの二人で進めて行くよ☆』


 さらにもう一触れすると、ミズリンによって紹介された理というキャラクターらしい、幻想的な光を閉じ込めたような水晶玉が表示された。


『ご紹介に預かりました、理と申します。質疑等ございましたら、遠慮なく申し付けください』


 顔のない球体が喋る様は、この上なくシュールであった。ヒルデブラントは呆けた顔をしながら「はぁ」と間の抜けた返事を返す。そんな彼の状態に構うことなく、ミズリンは強制的に次の段階へと移って行った。


『まずは、チュートリアルから始めるよ☆ 画面右側に表示されている五つのアイコンの内、【選出】と書かれたアイコンをタップしてね』


 ヒルデブラントは指示された通りにアイコンに触れた。すると画面が切り替わり、格子窓がいくつも並んだような画面が開かれる。その枠の中には、ケースに収納されている道具内容と思わしき絵図が、幾つも嵌め込まれていた。


 ミズリンは朗らかに説明を続けていく。


『この画面に表示されているアイテムの内、取り出したいものをタップしてね』


 ミズリンの頭が大きく揺さぶられ、それはある一つの欄を指し示す。ヒルデブラントは取り出したいものと言っておきながら、これを押せとでも言っているのだろうか、と半ば捻くれた感想を抱きながらも、指し示されたアイテムをタップした。ミズリンは満面の笑みを浮かべ、画面右下へと移動する。


『取り出したいものを選択したら、最後に【決定】ボタンを押してね☆』


 ヒルデブラントは、機械的になりつつある動作で【決定】ボタンを押した。その瞬間、宝石が強く光り出す。彼は「うわぁあ!」と叫びながら目を瞑り、手の甲で影を作った。


 鮮烈な光はすぐに止んだ。一瞬で暗闇に濡れた部屋の中で、彼は幾度か瞬く。あまりにも明暗の差が激しかったせいで、ヒルデブラントは暫く部屋の中を把握することができずにいた。


 少し間を置いて目が慣れてきたところで、彼はどのような変化が起こったのかを確認した。すると、ケースの左横に、綺麗に畳まれた黒い衣服が置かれているのを目にした。彼は自分が選択したものの通りのものが出現したことに対し、純粋に驚きを見せた。不思議そうに近寄り、置かれた衣服を手に取って広げてみる。


「すごい。僕のサイズぴったりだ。これってもしかしなくても、魔道具だったりする?」


『是。諜報用黒装束Ver.1には、防御効果、回復効果、身体能力増幅効果が付与されています』


 理の説明に、ヒルデブラントは「ほえぇ」と感嘆の声を漏らした。しかし、彼はすぐさま先程の出来事を思い出し、疑問を抱く。


「そういえば、あの光は道具を出す度に毎回出てくるの?」


『是。当装置に収納された道具を出現させる際の、演出効果です』


「いや、そんな演出要らないでしょ。なんでそんなもの作ったのさ」


『よくある演出効果を踏襲したに過ぎず、当該効果をプログラムに組み込んだ理由は特にありません』


「なにそれ、意味が分からないんだけど」


 理の説明は半分も頭に入ってこなかったものの、根本的な話からして、あの理解し難い人物から渡された装置である故に、気にしていては際限がないのだろうと彼は諦観した。


『因みに、装置の効果や機能に関しては左下の機能設定から変更可能です』


「いや、それを最初に言ってよ」


 理の呑気な説明を聞きながら、ヒルデブラントは頭を抱えた。

こういった便利装置を自由に設定するのは楽しいです。

ファンタジーものあるあるですな(/・ω・)/

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