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Donuts ~君のためなら何度でも~  作者: 鏡春哉
第二章 落ちた先
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27移住

 こちらの世界に飛ばされて来てから一年が経ち、アルマは八歳になった。その間、ちょくちょくジークフリートが遊びにやって来ており、王子はそんなにも暇な職業なのだろうかとアルマは首を捻った。


 こちらの世界における暦や時間間隔は、アルマの住んでいた世界と変わらず、一年は十二か月、一月は三十日、一週間は七日、一日は二十四時間であった。ご都合主義といえばそうなるが、現に都合が良いことには変わりないため、アルマはその点については触れないこととしている。


 この一年でアルマの教育も随分と進み、今では礼儀作法の授業もさほど苦にはならなくなっていた。同様に、魔法の授業もかなり高度な分野まで行き着いており、担当の教師が目を輝かせながらアルマと魔法談義をするのが日課となっている。自主勉強の方も、図書館ばりにあった家の蔵書を読みつくしてしまったアルマは、そろそろ次の段階へと進まん事をエルマーに申し出ていた。聞けば、王都には王立図書館なる秘蔵書を含んだ大規模な図書館が存在しているらしく、もしかすると、ここにならアルマの求めている情報があるやも知れなかった。


 そういうわけで、アルマは環境に馴染むことも兼ねて、王都のハウベル侯爵邸へと住まいを移すこととなった。付きのライラを携え、少ない荷物を持って馬車に乗る。正直、アルマとしては飛翔して王都へ向かった方が早かったのだが、関所の問題があることから、家紋の入った馬車の利用が一番角が立たないだろうと判断された。


 一週間もの間、整備のなっていない道をゆらゆらと揺らされて行くのは、アルマの体力的にも気力的にも、随分と削がれるものがあった。ここで、幼少期の度重なる旅行生活の中で患った病気により亡くなっただろうとされる、モーツァルトの逸話を思い出したことは、ただの現実逃避でしかなかった。兎に角馬車の揺れが酷く、且つコルセット攻めされているアルマは、この一週間でよく体調を崩さなかったものだと己の頑丈さを僻んだ。


 魔法でそうした揺れを軽減すれば良いのではと思い立ったのは、王都の屋敷に付いた直後だった。アルマは馬車の中では思考が阻害されてしまっていたのだと開き直ることにし、屋敷にいる父親へと挨拶しに行った。


 最近知ったことではあったのだが、アルマはどうやら生まれて一年後に母親を亡くしているらしく、ハウベル侯爵家のものは現在、父エルマーとアルマことユーフェミアの二人しかいない事実に気付かされたのである。法律的には家の爵位を継ぐのに性差は関係ないようであったが、それでも男性が多いことが現状であるし、そもそも跡継ぎ候補が一人しかいないという事態も問題であった。


 それ故に、アルマがこちらにやって来て早々、義弟なるものをエルマーから紹介されても、何ら可笑しなことではなかった。ただ、少々唐突過ぎただけであって、家の問題を考えるとアルマに否やは無かったのである。一つ気になったことがあるとすれば、エルマーの隠し子である可能性についてであったが、彼の言い分からすると、連れてきた少年は魔力の高い平民であるとのことであった。


 貴族が平民を連れ去る事態が実際にあるのだな、と半ば他人事のように考えていると、アルマの虚ろな視線から何かを感じ取ったらしいエルマーは、この少年がハウベル侯爵家の血筋のものが平民に嫁いだ家系の末裔であると説明した。先日、事故で彼の両親が他界し、天涯孤独となってしまった故、その魔力の高さも相まって、ハウベル侯爵家で引き取ることにした模様であった。


 少年はニコラスと名乗った。度々アルマが出会う人間はデフォルトが無表情なのか、彼もまた、表情の無い顔をしてアルマの前に佇んでいた。ただ、端から表情の出ないエルマーや煩わしさ故に能面顔のジークフリートとは違い、ニコラスの無表情にはどこか影があった。平民出身であるということから、彼の過去にはどこか虚しい出来事でもあったのだろう。しかし、元から他人に関心を持っていないアルマは、相手からのアクションがない限り、関わろうとすら思わない質をしていた。彼に何があったのか、そんなことはアルマにとってはどうでもいい些事であり、それ故にアルマは彼を放置した。


 その日から、ニコラスにもアルマと同様、貴族としての教育が施されて行った。彼はアルマより二歳下で、正真正銘の六歳であるにもかかわらず、驚異的な学習能力を示して見せた。未だアルマの教育範囲には届いていないものの、魔法教師曰く、一般の六歳児と比べてかなりのスピードで授業が進んでいるとのことであった。


 因みに、礼儀作法と魔法以外は自主勉強をしたアルマだったが、彼にはその他の講師もつけられているらしかった。さすがに此処までアルマと同じだったなら、彼の中の人を疑う所だったものの、時折見せる年相応な面を垣間見ると、その疑いもいずこへか霧散していった。




 王都に来てから一ヶ月が経っていた。この日は週に三日ある、講師による授業の日だった。ミセス・バレーヌが去り、昼食後の休憩をとっていたところに、来訪者が現れる。


「久しぶりだな、ユーフェミア嬢。随分と座り姿が様になっているようだ」


 どこからともなく現れたこの国の第一王子、ジークフリートが、颯爽とアルマのもとへと近寄って来た。まだ幼い者同士、身長の差は表れていないものの、これからどんどん抜かされていくことを思うと、アルマは勝手ながらに苛立ちを覚えた。


「ごきげんよう、殿下。私に作法を学べとおっしゃったのは、どこのどなたでしたかしら」


「他の誰でもなく、私だな。ふむ、お前は切り替えのできるタイプの人間らしい」


 飄々と皮肉を躱して見せるジークフリートに、アルマは既視感を覚える。けれども、それが本当に既視感なのか、実際にアルマの記憶にあったことなのかについては、残念ながら思い出すことができなかった。


「ご用件は」


「つれないな。二人の時はくずしてくれて構わないと言ったろうに」


 気障な八歳児というのも、なかなかに見物であった。それは偏にアルマの精神年齢が肉体とそぐわない故に抱く感想なのだろう。アルマは普通のご令嬢たちは、こうした王子様然とした王子様が好きなのだろうか、と思考の片隅で考えた。


「じゃあ言わせて貰うけど。突然来るっていうのは、礼儀に反するんじゃない? どの口が作法を学べって言ったのかって話なんだけど」


 アルマは表情を変えぬまま、いつもの口調に戻ってみせた。ジークフリートは肩を竦め、アルマの正面にある椅子へと座り込む。


「辛辣だな。だが、連絡を入れても君は大概拒否するじゃないか」


「何が悲しくてあなたと会わなきゃならないの。それくらいなら、魔法教師と魔法談義する方が有意義だと思うね」


 ジークフリートは眉間に皺を寄せる。


「魔法教師、というのは、確か、魔法科大学大学院研究室所属のオーラス・バーベナ・ルノワールだったか」


「そうそう、オーラル・バーなんちゃら・ルミノールみたいな名前の、視界に鬱陶しい人」


「……………………名前はちゃんと憶えていないんだな」


 ぼそりと呟かれる言葉に、アルマは半眼になりながら返した。


「さすがに、必要な分は覚えたよ。ジークフリート・フォン・ミヒャエル・クラルヴァイン。はい、言えたー。噛まずに言えたー」


 アルマの煽るような言い様に、ジークフリートは小さく吹き出した。彼は暫く肩を小刻みに震わせ、テーブルに片手を突く。


「そのくらい、出来て当たり前だろうが。私としては物覚えの良いミアが、何故人の名前だけ覚えられないのかが疑問に思えるのだが」


「こういうのって、興味の問題になってくるからね。人にあまり興味が無いっていうのは、今も昔も変わらないし」


 そう言って紅茶を啜るアルマ。最近ではストレートでも飲めるようになっていたアルマは、いずれ隣国の特産品である緑茶を手に入れたいと思うようになっていた。


 ジークフリートは徐に姿勢を正し、同じ調子で話題転換を図る。


「あぁ、それで、用件なんだが。ハウベル侯爵家が養子をとったと聞いてな。お前の義弟がどんな人間かを見てみたくてここに来たんだ」


「それなら私のところじゃなくて、直接ニコラスのところに行けばよかったのに」


「打てば響く鐘のようだな。私が婚約者に挨拶しに来るのは当然じゃないか」


 聞くだけで喉の奥から砂糖が込み上げて来そうな発言に、アルマは顔を顰める。しかし、そうした反応をしたところで大した効果は無く、ジークフリートは爽やかに微笑み続けていた。


「それで、そのニコラスはどこに?」


 ジークフリートはいつの間にかメイドが用意していた紅茶を口にする。


「それなら、今から魔法の授業があるから、そこで会えるよ」


「いつも一緒に授業を受けているのか?」


 無表情で肯定するアルマ。


「唯一同じ教師に習っているのが魔法だし。ルミノール先生は優秀な教師だから、一人でも二人でもあんまり変わらないんだろうね」


 そう言ってカップを空にするアルマ。すかさずメイドが中身を注ぎ、温かな紅茶が湯気を薫らせる。


「……さっきから思っていたんだが、教師の名前は間違ったまま呼んでいるのか?」


「間違ったまま? まさか。ミセス・バレーヌの名前を間違えるとか、この世の終わりだよ」


「いや、魔法教師の方だ」


「ルミノール先生のこと? ……これは、まぁ、あれだ。うん、あだ名だよ、ジークフリート君。別に先生がルミノール試験で血痕鑑識してそうとなんか、思ってないよ、全然」


 呆れた視線がアルマに刺さってくる。


「説明している時点で分かって言っているような気がしなくもないが、まぁいい。そのルミノール試験というのも、〝アルマ〟が知っている知識なのか?」


「そうだね。大抵警察の科学捜査で使われている試験で、血液を反応触媒の一つとする薬品として知られているよ」


 そうか、と呟くジークフリート。アルマは新しく入った紅茶を啜りながら、これまでも幾度かこうして『向こう』の知識を教えてきた過去を思い出す。それが実際に彼の中でどのように消化されているのかをアルマは知らないが、やはり人間である以上、知らない知識を知ることには貪欲になるようであった。


「そのルミノール試験薬の作り方は分かるか?」


 彼はまっすぐにエメラルドの瞳をアルマに向ける。アルマはカップをソーサーに置き、「うーん」と唸った。


「知ってはいるけど、教えたところで材料が無かったら意味ないと思うんだよね。それより、魔法で検出できるような方法を考えた方が、よっぽど現実的かな」


「そうか……」


 視線を宙へ落とし、机上で指を組むジークフリート。すぐに顔を上げた彼には、既に切り替えた雰囲気が纏われていた。


「話を戻すが、魔法の授業は良いのか?」


「あぁ、そろそろ時間だね。私は庭に出るから、これで。……まぁ、どうせジークフリートも付いてくるんだろうけど」


 諦めたように呟くアルマに、ジークフリートは笑みを深めた。


乙女ゲーム世界における悪役令嬢物あるある(/・ω・)/

唐突に義弟がやってくる。

ゲーム内では不仲だが、転生者の悪役令嬢は義弟と仲良くなる。

義弟はヤンデレになる。

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