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Donuts ~君のためなら何度でも~  作者: 鏡春哉
第二章 落ちた先
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23測定

 ジークフリートの様子を確認したエルマーは、準備の整った水晶玉へと視線を移した。


「それでは、ユーフェミア。その水晶玉に手のひらで触れなさい」


 アルマはエルマーの言われた通りに、小さくなった己の手のひらで水晶玉に触れた。ひやりとした感触が伝わってくるとともに、その水晶玉が中心部から輝き出す。瞬く間に、その水晶玉はどの光をも吸収してしまったかのような黒に染まり、悲鳴を上げた。水晶玉に罅が入った刹那、エルマーによってアルマは水晶玉から離される。アルマとの接触から解放された水晶玉は、ゆっくりと透明な玉へと戻って行った。しかし、表面のみならず中心部の方まで亀裂が入ってしまっていた。


 間を置いて、水晶玉の台座部分に空いている長方形の穴から、一つの指輪が転がり落ちてきた。その指輪には0.5カラット程のブラックダイヤモンドのようなものが付いている。ジークフリートがその指輪を拾い、エルマーに抱え上げられた状態のアルマに手渡してくる。アルマは渡されるままにその指輪を受け取ったものの、明らかに自分の指よりも大きい指輪をどうすればよいのか分からず、彼女はエルマーを見上げた。彼は目を細めながら、「それは魔道具だ」と説明し、指輪をアルマの右手中指に嵌める。すると、指輪は自動的にアルマの指の大きさへと変化して、ぴったりのサイズで治まった。


 アルマは自分の指に嵌った指輪を不思議そうに眺める。


「それはユーフェミアのステータスが登録された指輪だ。起動してみなさい」


「ステータス? 何それ、身分証?」


 指輪を眺めたまま呟くアルマに、二人は彼女に以前の知識がないことを思い出す。


「ステータスというのは、自分の状態が表示される、いわば個人情報のようなものだ」


 答えたのはジークフリートだった。アルマは二人によって、ステータスとその開き方の説明を施され、実際に開いてみることにする。そこで不意に気付いたのは、個人情報を他人に見られてしまうという事態についてだった。


「基本的に、ステータスは他人からは見えない。ただ、『ステータス・オープン』といって公にすることは可能だ。因みに、魔力有無の確認のため、家族には初めの状態を公にしておく必要がある」


 エルマーがそういうからには、そうせざるを得ないことを悟ったアルマ。しかし、この部屋には家族ではないものが数人いることも、また事実であった。それについては、エルマーは使用人たちを部屋の外に下がらせることで解決しようとしたが、それでだけでは完全に解決できていないことは、さすがのアルマも騙されなかった。


「いや、ジークフリートは家族じゃないんだけど」


「お前の婚約者なんだから、別に構わないだろう」


「何それ、初耳なんだけど」


「婚約したのは六歳の時だからな。もしもお前が世界五分前仮説でその事実を作り上げたのなら、お前は私とどうしても婚約したかった、ということになるな」


 挑発するように笑うジークフリートに、アルマは言い返す言葉を見つけることができず、ただ不貞腐れることしか出来なかった。これ以上何を言っても不毛であることを理解したアルマは、開き直って「ステータス・オープン」と告げた。


 すかさず、ブラックダイヤモンドの上に透明なプレートのようなものが浮かび上がる。よくゲームやSFの世界で出て来そうなこの機能に、アルマは少しばかり心躍らせた。


 ステータスの内容は、以下の通りであった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


名前:ユーフェミア・ローズ・ハウベル(河橋アルマ) 年齢:七歳?

Lv.‽⊳⁆▯❢*❚❚◊¿⊹⊳«

種族:人族と思われるもの

性別:恐らく女性

職業:ハウベル侯爵令嬢

HP:カウントするのが面倒くさい

MP:何それ美味しいの?

技能:使いたいものを使えばいいと思うんだ

魔法:もう、全属性で良いんじゃない?

固有技能:事象改変

耐性:その場しのぎで発揮しろ

称号:渡りビト 生意気な幼女


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 二人の説明からすると、ステータスには数値が表示されるとのことであった。しかし、アルマが見る限り、数字らしき数字が見えるのは、自分の年齢の部分だけであった。とはいえ、この年齢の部分にもクエスチョンマークが付けられているあたり、どう考えても正確な数値であるとは思えなかった。


 アルマのステータスを見た二人も、さすがにこの適当過ぎる内容に唖然としたのか、反応できずに固まってしまっていた。アルマが静かに「クローズ」と呟くと、その透明なプレートは指輪の宝石に吸い込まれるような形で消失していった。


「お前の性格が、ステータスにもよく現れているな」


 初めに現実へと戻ってきたのは、ジークフリートだった。


「否定はしないけど、不満は残るよね。そもそも、肝心の魔力の有無がこれだと分かんないし」


 いや、何それ美味しいのって、何が言いたいのさ、とぶつくさと呟くアルマを余所に、エルマーとジークフリートは険しい顔をしながら思案する。


「恐らく、魔力は在るのだろう。そうでなければ、水晶は色を変えない」


 エルマーの出した結論に、ジークフリートも同意する。


「あぁ、水晶に現れる色は属性の色だからな。属性が一つならその一色が、複数ならその混合色が、この水晶に現れる」


「……属性って、魔法の属性のこと? 火属性とか風属性みたいな」


 アルマがなけなしの知識で問うた疑問に、ジークフリートは肯定する。


「お前は凡そ全属性が使えるようだな。とはいえ、この調子だと、その全属性の『全』が何を表しているのかが気になるところではあるのだが」


「そこは追々確認して行くよ。それで、結局私は魔法学園、いや、魔法学院だったかな。兎に角学校に通わないといけないってことだよね」


「その通りだ。だから、知識と礼儀作法はきちんと身に付けろよ。そうでなくても私の婚約者なんだ。公の場での失態は許さないからな」


 悠然と微笑むジークフリート。アルマは「えぇー」と零しながら、あからさまに嫌そうな顔をする。


「そこは婚約を取り消すところでしょ。種族が『人族と思われるもの』っていう、そんな曖昧な者を王族の伴侶にするとか、普通に有り得ないから」


「されど『人族と思われるもの』だろう。私としてはそこに否やは無い」


「社会的、法律的に、って話だよ。誰もあなたの意見なんて聞いてない」


 ジークフリートが不満げな顔をする中、二人の合間に咳払いの音が入った。音のした方向を見遣ると、エルマーが居た堪れない色を瞳に滲ませて、アルマたちに視線を向けていた。


「婚約の取り消しは、そうすぐに出来るものではない。加えて、殿下に婚約を取り消すおつもりがない時点で、ユーフェミアに断れる権利もない。よって、明日からユーフェミアには教育を仕込むこととする」


 家長の判決は絶対。そのような雰囲気を纏ったエルマーを見て、アルマは渋々承諾した。その折、ジークフリートが嫌味な笑いを向けてきたことが、アルマの中にこの上ない不快感を残していった。

異世界ものあるある

主人公「ステータスオープン!」

……しかし、何も起こらない

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