第3章 反 撃 1
第 3 章 反 撃
4階レストラン街では女の叫び声とタンタンと言う足音が響いていた。
断続的に襲い掛かってくる4本のナイフを龍朱は避け続けていた。
美涼は予知でナイフの襲い掛かる方向叫び続けていた。
『今は会長さんのおかげで何とかなってるが、どうにかしないとなぁ。』などと思っていると、急にナイフからの攻撃が止まった。
ナイフは4本とも大男の手元に戻っていた。
「どうしたんだいおっさん?」
「少年。手抜いてないか?」
「どうゆうことだよ。」
「いやな、なんかまだ少年から余裕ってのを感じるわけだ。まだ隠し玉持ってるんじゃないのか?」
「勘違いじゃないのか?あったとしても言わないと思うんだけど…」
龍朱は汗まみれの顔でニヤリと笑った。
かなりの時間動き続けており、息も荒い。
しかし、気持ちでは負けられないという気持ちが挑発する笑みを浮かべさせた。
「なるほど。その通りだな。少年。」
ヒュン
大男はナイフを一本飛ばした。
狙いは、美涼。
突然のことで美涼は声も上げずに立ち尽くしている。
キンッ
美涼の1メートル手前で、龍朱がナイフを左手で横から弾いた。
「いい眼だな、少年。心地のいい殺気だ。」
「何のマネだい?おっさん。」
今までの笑みはなく、襲い掛からんばかりの眼光だ。
「いやなぁ、少年。少年が本気かどうか試して見ないとわからないと思ってな。そこのお嬢さんを巻き込んだら少しは本気になるかと思ってな。」
龍朱は拳を強く握りしめ、大男を見据えた。
「そう、その殺気に満ちた眼が見たかったんだよ、少年。喧嘩はそういう顔でないとなぁ。」
ヒュンと空を切り裂きナイフが飛ぶ。
狙いは龍朱。
一直線に向かってくる。
後ろには美涼がいる。避ける事はできない。
キンッ
左の裏拳でナイフを軽々とはじき飛ばした。瞬きもせず。大男を見据えたままで。
「そんなに死にたいかよ。おっさん。」
大男は目を一度見開いた。そして右の口角をクイッとあげた歪な笑顔を見せた。舐められている苛立ちと、この状況でもそういう態度に出てくる相手を見つけた嬉しさが同居している。そんな笑顔だった。
「少年。少年に飛ばされたナイフが戻ってこないんだが。どうゆうことなんだ?これが少年の能力か?」
ナイフをさらに抜き、手持ち無沙汰な様子で振りつつ続けた。
「それで...。その程度で出来るのか?俺を殺す事が。」
ダンッ
龍朱は床を思い切り踏みきり、一気に間合いを詰めようと前に出た。
大男はナイフを2本飛ばす。左右斜め上に上昇し、一直線に龍朱に向かって降下してくる。
「我が左手に宿りし禍よ。」
キンッキンッ
左拳で2本のナイフを弾いた。
その瞬間にナイフの刃は砕け、キラキラと破片が宙を舞った。
大男は持っていた1本を真っ直ぐに龍朱に放つ。
更に、ナイフを2本抜き、今度は左右に飛ばす。
しかし、龍朱は止まらない。
「全ての物をなぎ払い…」
正面、左、右の三方向から迫るナイフ。
ゴウッ!
左拳を横一閃。
音とともにナイフは、左拳に触れることなく刃を失った。
光の鱗片を抜ける。
大男の正面。
「無へと帰せ。」
左腕を大きく振り上げる。
大男がナイフに手を掛け一歩下がる。
「殺戮!」
抜き手にした左手が大男の体の前を掠めた
大男はナイフを抜き放ちニヤリと笑った。
-刹那
大男の胸から腹部にかけて大きな三本の鮮血が噴き出した。
勝ちを得た時の大男のそれは驚愕に変わり、体が意思に反して後ろに倒れていく感覚に見舞われていた。
徐々に失われる意識の中、大男はつい一瞬前の笑顔とは違う、喜びをたたえた笑顔になっていた。