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鬼才青年の物語  作者: 黒金 翔
第一章 少年編
3/5

第2話    『鍛練、模擬戦』


※注意※

この作品には以下の要素が含まれます。


・残酷な描写。

・出来る限りリアルに仕上げた戦闘描写。

・出来る限りリアルに仕上げた設定。

・男主人公

・貴族物語

・いずれはハーレム


以上の要素が大丈夫で

「そんな事より作品を読ませな。」


「んな事良いからあくしろよ」


「先進んで良いかい?急いでるんだ」

という方は先にお進み下さい。

前述した要素が苦手、無理という方は遠慮無くブラウザバックして頂いても構いません。この作品は読む人を選ぶ作品ですので無理をなさらずに。


それでは、本編開始です。


─────────





─────────

【3月23日午前5時頃】


俺は日が昇る前に起床し着替えて外へ出た。鍛練の為だ。

二日後アウレールと立ち合う為に今の俺の肉体的な限界が知りたいのだ。


彼は現在、帝都聖騎士団の団長職に就いている。10年前に終わった戦争で多大な戦果を上げた。故に男爵位を与えられ聖騎士団団長の職を任されている。

そんな人物と今の体でどれだけ戦えるか。

経験で言ったら断然俺だ。なにせ合わせて60数年戦場に居たのだから。最も、どれも早死だったが。様々な戦場を歩いて来たのだからいくらこんな体であろうとそう簡単には負けられない。いくら今回が小手調べ程度の物とはいえ簡単に負けていては先が思いやられる。


因みに父の役職について少し話しておこうかと思う。この国の防衛は主にいくつかの騎士団並びに駐屯兵団によって成り立っている。

その中には聖騎士団という物がある。


各聖騎士団長の選考基準は戦闘能力のみ。まぁ選考後事務能力がどれだけあるか試験を行う様なので深く言えば選考基準は2つか……試験結果が相当酷くなければそのまま本任命になる。


父アウレールは当時の戦闘能力選考者の中で三番目に強かったらしい。二番目以上は人間ではあったがとてつもない戦闘能力で正に化け物だったと以前語っていた。

父はその試験に合格。晴れて聖騎士団長となったのだ。

化け物とまでは行かずともかなりの強さを誇る人物。今の体で勝つ事は困難だろう。

だが、簡単に負けていてはこの先どうなるか分からん。最悪の場合廃嫡の件を無かった事にされるかもしれない。

それだけはマズイ。

普通の人間であれば家と爵位を継げる事に喜びを感じるかもしれないが俺は嫌だ。前世、前々世で酷い目に会い続けている。


前世では親族に裏切られ、前々世では部下に裏切られた。どちらも王族や貴族であった事もあり俺は貴族が嫌いだ。深く言ってしまえば人間自体が嫌いだとも言える位に嫌いだ。

早く家を出て一人になりたい。

俺の事を心配してくれている家族やリゼには悪いが俺は家を継ぐ気も家に居座る気も無い。

何としてでも家を出ねば……


さて。俺の母はどうやら異国出身だった様で、俺が表層に出る前。母がまだ健在だった頃に異国の武術を教わっていた様だ。それも皆に隠れて。


その武術というのが前々前世のロシアにあったシステマと日本の剣術らしき物…否、そのものだった。

皆に隠れて俺に教えていたのは恐らく現在この国に蔓延っている男尊女卑思想の影響かもしれんが貴族の側室が表立って武術を教えるという点でも問題だと考えた結果だろう。


母のシステマや日本剣術の精度はとても高かった。

旅の冒険者をしていた時、父と偶々パーティーを組んでそのままこの国に……という人生だった。

遠い異国だった様だが恐らく日本かロシアに似た国、又は似た国家と深く関わりのある国家の出身だろう。前々前世のロシアに相等する国家は……

東ルーシ連邦王国とモスクワ帝国という名前の国家だ。内戦により200年程前に東西へ別れたらしい。国家の歴史や領土については後々思い出すとして今は鍛練しようか。


─────────





─────────

【午前7時半頃】


……この体は思った以上に動ける様だ。

かつて使えた技術を使うには負担が大き過ぎるが少しなら問題なさそうだ。

さて、次はこの国の剣術もやってみようか……

だがその前に朝食だな。


─────────






─────────

【午前10時頃】


朝食後もまた外で鍛練。

ロングソードやショートソードも使ってみたがやはり俺に長直剣類は合わないな。

かつて主に使っていたのはサーベルと刀だったからかもしれんが叩き斬るのは性に合わないし体にも合わない。明後日の為に出来る限り速度と技量を上げよう。


─────────






─────────

【午後1時30分頃】


昼食を食べた後もひたすら鍛練。

だが魔術も一応鍛えておかないともしかしたら魔術でも争う羽目になるかもしれない。

かつての魔力量とまでは行かずとも半分程度の量までいずれ扱える様になりたいな。幸い素質は自分で言うのはアレだが十分過ぎる程ある。

明後日迄に今の倍程度の量は扱えると良いな。

取り敢えず3時からは屋敷内で魔術書籍を読もう。


─────────






─────────

【午後4時頃】


……結論から言うと魔術分野は衰退が激しい。

かつて有った技術や術式については半数程の技術が失われてしまった、又は髙難易度技術として扱われているらしい。俺からすると簡単な技術でも今の世界からすると中難易度又は高難易度技術であるらしい。

……自重するか。見せて良い技術とそうではない技術を見極めよう。

さて、夕食までは2時間と少しある。今の内に実践しておこう。



取り敢えず外に出てきた。

まず、現代での低難易度技術はかつての必須技術に相等する物なので今回は飛ばすとして中難易度技術を試すとするか。


「鉄よ、我が手に。錬金!」


手元が淡く光った。

これは錬金反応という物で錬金術を行使し物を形成する空間に発生する物だ。これを無くす、又は光量を減らす技術も存在するがそれは後々やろう。

今行った現代基準での中級技術は『魔術陣無しでの錬金術の行使』並びに『補助具無しでの錬金術行使』だ。

『魔術陣』は『魔術式』という魔術を行使する為に必要な式を記した模様だ。


これは錬金術系の魔術の場合どの様な物をどのような素材比率や魔力量、形状、強度、構成、組み立て順で錬金するか等々他の魔術と比べて書く内容が多い為大型化し易い。その為かつては錬金術を扱う魔術師にとって重要視されていた技術だった。故に使える物も増えて行ったのだが……


この技術はかつては低難易度技術として扱われていた物だが今では師より巣立つ前の試験内容レベルらしい。最も、魔術陣無しになっても補助具を使い続ける者も多い様だが。


……1秒程で光が集束し、形作る事が出来た。

出来上がった物は…総鉄製のサーベルだ。

出来は……うん。重量や形状はある程度良く今の己に合わせた重心配置も十分出来た。素材構成としても低級鍛冶師の数打ち以上の強度で出来た。まぁこの年にしては上出来だろう。

だがそれではいけない。

この先父やその他の外敵達に勝つ為には更に洗練しなくては。


次はゴーレムを作ろうと思う。

取り敢えず数重視で青銅製の物を作ろう。


「物言わぬ兵士達よ、我が元に集え。ゴーレム!」


俺の3m程前へ横1列に錬金反応が出た。

音を立てながら組上がっていくパーツ。

パーツ数は約300程。

それが16体。

……全機組み上がるまで10秒程掛かったな。

現在基準かつ年齢を加味すると十分か。

……思った以上に魔力を持って行かれた。

残り4割程度か。

丁度良い。現在基準で中級技術である『空気中からの魔素抽出並びに肉体への取り込み』もやってみるか。


……出来た。

消費した魔力は『睡眠』又はこの技術『空気中からの取り込み』、『その他装備品』や『それの付属効果』、『マジックアイテム類』、『薬品類等』によって回復出来る。

その中でも『自然回復系』に分類されるのは『睡眠』と『空気中からの取り込み』や『一部の他技術』、『一部の薬品類』だ。

案外重要な技術なのでやはり使えて損は一切無い。

この中で『一部の技術』に分類される物についての記述は書籍上で探した所何処にも見当たらなかった為恐らく失伝したか秘技に分類されている可能性がある。


そして自然に魔力量と魔力生成量を増やすには『魔力を使い切ってからの睡眠』と『空気中からの取り込み』しかない。他は『他人の手を借りる』か『危険な薬品類の使用』、『人体実験』しかない。

他に分類した3つは危険な技術の為使用すべきではないと俺は考えている。

取り敢えず二つ目までの技術で『魔力量』と『生成量』を増やそう。

因みにこの中の技術も多くが失伝又は秘技扱いされている。


さて、次もどんどんやって行こうか……


─────────





─────────

【3月25日午前5時】


起床して準備を整える。

昨日も一昨日と同じく鍛練ばかりしていた。

実は昨日の鍛練の様子はリゼに見られてしまった。父に情報を流す事は無いとは思うが……少し不安だな。


さて、朝食30分前までは鍛練するか。


─────────

【午前8時】


食堂に入った。

そこには父アウレール、正妻アデーレ、次男アヒム、長女シャルロッテが居た。

もう皆来ていたらしい。

皆着席したのを見計らって使用人達が食事を持ってきた。

さて、食事にしようか。


食事が終わった後アウレールが俺に話し掛けて来た。


「どうやら朝早くから鍛練していたらしいな。リゼが心配する程の物を。使用人達より早く起きて鍛練とは……体を壊しては元も子も無いぞ。」

「大丈夫です父上。加減はしています。」

「そうか……今日は期待しているぞ?」

「こちらも楽しみです……」

弟達はポカンとした表情でこちらを見ているが気にせず席を立った。


「準備がありますので失礼致します。」

「あぁ。10時から外でだ。いいな。」

「はい。それでは……」

俺は扉を開けて準備の為自室に戻った。


─────────


推奨BGM doa 英雄


─────────

【午前10時】


俺と父は屋敷の中庭で向かい合っている。

俺と父の服装は互いに鍛練服。

今からルールの確認だ。


「対戦は木剣で行「父上、鍛練用の金属剣での対戦を希望します」

「……危険だぞ?本当に良いのか?」

驚いた表情で彼は言う。


「構いません。ご用意しておられないのであれば用意しますが。」

一瞬戸惑った表情を見せた彼だが覚悟を決めた様で。


「いや……取っ手こさせよう。誰か!俺の鍛練用の剣を持ってこい!ショートソードだ。」

こう屋敷に向けて言い放った。

「他のルールはどうしますか。無ければ提案が有りますが。」

「何だ。」

「ルールは刃引きがされている鍛練剣を用いた対戦。勝敗は戦闘不能又は参ったというまで。剣術の種類は問わず、魔術無し、でどうですか?」

「……いいだろう。だが時間制限を設けよう。10分間だ。防具はどうする?」

「僕は無しで良いです。速度を落としたく無いので。」

「それなら俺が着るのも可笑しい話だ……俺も無しにしよう。立会人は……剣を持ってきた奴に任せよう。恐らく奴が持ってくる筈だ。」


俺とアウレールは互いに距離を離した。大体7m程だろうか。

アウレールが口を開く。


「お前、剣はどうした?置いてきたか?」

「いえ、今から作ります。鋼鉄よ、我が手に集え!」

詠唱が終わると同時に手元に錬金反応が出る。

……少し造りに凝ったが鍛練のお蔭で1秒程で剣が錬金出来た。

出来上がったのは鋼鉄製のサーベル。手元に重心を載せた速度重視の物。形状自体は耐久性重視にしてあるが重心を手元に置いたから振るい易いだろう。

手に馴染む様に柄を造ってあるので尚更振るい易く出来た気がする。

因みに鞘も錬金した。腰元にある。


「……魔術陣と補助具無しでの錬金だと?お前さてはブリュンヒルデから教わっただろ。我が子ながら凄いなお前。しかも俺はサーベルの扱いを教えていない。独学か?」

「それは剣を交えてお確かめ下さい。」

「そうだな……来たかカイン!模擬戦の立会人を頼む。後俺の剣を。」

カインと呼ばれる執事がやって来た。

彼は武術が堪能な人物で時々父上の鍛練の相手をしている時もあった筈だ。


「何をなさるおつもりですか……これはこれは坊っちゃま。おはよう御座います。」

「おはようカイン。父上と模擬戦の約束をしていてね。立会人をお願い出来るかな?」

「まだ貴方には早いかと……後数年待たれては如何ですか?」

「いや、俺も一度ジークの技量を見ておきたい。それに今後の稽古内容にも生かせるしな。立会人を頼むぞ。」

「本当になさるのですか……分かりました。」


「それでは両者もう少し離れて下さい。」

父に剣が渡った後少し離れた。

「時間はどうするのでしょうか。又、ルールは?」

先程の会話内容通りの事を伝えよう。


「ルールは刃引き済みの刀剣を使った剣術戦。時間は10分間。勝敗は参ったとの宣言又は戦闘不能状態に陥った時。剣術の種類は問わず。魔術は無し。防具も無しだ。」

この言葉を聞いた後彼は呆れた様に

「……本当に鎧無しで良いのですか?」

「「構わない」」

二人揃って言う。

これを見て彼は強情な人物を見るような目付きと諦めた様な溜息を吐き

「……分かりました。カウントします。」

カウントを始めた。


「5…」

瞳を閉じる


「4…」

集中力を高める。


「3…」

瞳を開けアウレールを見る。


「2…」

瞳に映る世界が遅くなる。時間が引き伸ばされる。


「1…」

体から力を抜いた。


「初め!」

刹那、俺は体揺らめかせ飛び出した。

体から力を抜き倒れ混むかの様に前へ出る。踏み出す瞬間に最大の力を込め他は力を抜く。

直ぐに距離が詰まった。

縮地。


「な!」

父の驚いた表情が瞳に映った。

右からの切り上げ。

父は即座に剣を体の近くに引き寄せ防いだ。

手首を返し右手を落とさんとサーベルを振るう。が、父が下がった為に少し掠っただけとなった。

俺も距離を離した。手を使えなくさせる気だったんだがな。流石父か。


距離を保ったまま父が口を開いた


「お前速すぎだろ……今の動きはブリュンヒルデの物じゃなかった。一体何なんだ?」

彼が質問してきた。……少し虚実混ぜて答えるか。


「僕が母か聞いた話を元に編み出した物です。東洋の武術の話を聞きまして再現してみようかと。」

本当は前世で俺が使っていた技術だがブリュンヒルデが生きていた頃東洋武術について教わった時に話題となった事もある物だ。

今回は本気でやると体が直ぐ限界を迎えてしまう為速度を落としている。


「お前……天才所かそれ以上だな。本気を出さんと負けそうだ。」

そう父が言い終わった瞬間に先程と同じ技術で突撃。今度は動きをアレンジして彼の左側面に回り右から袈裟懸けに剣を振るう。先程以上に速度を上げた。だが彼なら防ぐだろう。

また彼は体を捻り剣を寄せ防ごうとした。だが予想通りだ。


「甘い!」

サーベルが彼の剣に当たりそうになった瞬間に左足を左に動かし右足を寄せつつ手首を返し左から袈裟斬り。


このタイミングでなら当たるだろう。彼は今半身になっている。背中が開いている

アウレールの表情は驚きに満ちており急いで防ごうとしていた。だが遅い。

金属同士が当たる音が周囲に響き渡る。


「グッ!」

俺の剣は狙い通り彼の右肩に当たった。実戦であれば筋が斬れているだろう。一応剣で受けられてはいるがこれ以上食い込まない様に出来る程度の受けだ。

彼も反撃してきた。左手に持ち替え左からの袈裟掛け。だが既に攻撃場所から俺は離れている。


「フッ!」

息を吐きつつ彼の背後に回り込み左からの横凪ぎを放つがアウレールは左足を左に動かしステップで回避される。


「ハァァ!」

左からの逆袈裟に対して彼の剣の下側に刺し込む様に受けてから時計回りに手首を返しつつ弾く。これにより彼の剣は唐竹に振るい易い位置に来たがどう動くかな。


「セィ!」

右からの横凪ぎ。

これをまた彼の剣の下側に刺し込む様に受け今度は反時計回りに手首を回しつつ距離を詰める。これにより俺のサーベルの鍔元にアウレールの剣の刀身が来る。

彼の剣をサーベルで押さえつつ左手で彼の首へ手刀を放つと同時に彼が蹴りを繰り出した。


「チッ!」

舌打ちと共に下がって回避。だが回避し切れず少し掠った。

流石に簡単には終われんか。


「今度はこちらから行かせて貰おう。」

アウレールが距離を詰めてくる。

左からの袈裟掛け。下がって回避するがアウレールの方が体が大きい為直ぐ距離を詰められた。


「どうだ!」

手首を返して左下からの突き。

これに剣を内側に傾けつつ外側で受ける為に動かす。

流石に騎士団長なだけあって普段仕事で使っていない種類の剣を使っても動きが滑らかだ。だがこの程度で俺はやられたりはしない。

また周囲に鳴り響く金属音。


「フッ」

受けた瞬間、腕から力を抜きつつ左足を左に動かしながら時計回りに手首を回し、突きから派生した左からの袈裟斬りを受け流す。

受け流すと同時に右足を左前に動かしつつまた手首をひねり左袈裟斬り。


「グッ!!」

この攻撃は予想通り右上腕に当たった。

その後は流れる様に首を狙った左からの一閃。

だが流石に調子に乗りすぎた様で咄嗟の所で避けられ右から腕が振るわれるのが見えた。

俺は……


「グフッ」

重心移動で右側に動きわざとアウレールの拳にぶつかるかの様に当りその反動で距離を取った。

約3m左へ跳ばされながら体を方向転換させた。

それと同時に靴の裏を地面に擦らせつつ停止。

これにより5m程距離を取った。


「「…………………………」」


両者にらみ合いながら円を描く様時計周りに動く。

20秒ほど時計周りに動き続けていたら


「シッ」

息を吐きつつアウレールが突っ込んで来た。

速度も速い……が俺程じゃない。

右から放たれる一閃に上から剣を当てて叩き落とそうとしたが筋力が足りず少し下がっただけだった。


これにアウレールは手首を返し俺の右上腕を斬らんとばかりに左上から剣を振るう。

俺も下がりつつ手首を返し受け流そうとしたが間に合わず前腕に当たった。だが当たった直後に剣を受けられたので恐らく実戦であれば軽い切り傷程度の感触だった。

危険を感じたので距離を詰めて体当りを行った反動でまた距離を離したが。


「シッ」

即座に詰めて左上から斬りかかったが剣同士を当てて弾き合うに留まった。


「ハッ!」

手首を返し右上から切りつけるが又これも互いの剣を弾き合うだけとなった。



この後は様々な手段で攻撃し合ったが、お互い実戦であれば軽症となる様な攻撃の当り方であったり場所にしか当たらなかった。

だが俺の方が若干多く相手に手傷を負わせた気がする。


その様な形で10分が過ぎた。


─────────






─────────


「時間です。双方剣をお納め下さい!」

カインのその言葉でお互いに模擬戦であった事を思い出し剣を納めた。

周りを見渡すと靴が擦れた跡が周囲に残されている上に屋敷の方には数名の使用人達がこちらを見ている。

アウレールの方へ視線を向けるとどうやら精神的疲弊が酷そうな呆然とした表情だった。

俺はと言うと途中で集中が途切れて手を読み間違えたりした上に、身体能力面で勝っている人物に対して無理矢理技術で身体的不足を補ったせいか体をかなり消耗した。これは明日は筋肉痛かな。


アウレールに近寄る。


「時間切れの時については取り決めしていませんでしたが……どうしましょうか。」

彼が俺の瞳を見つつ真面目な表情で口を開いた。


「……既にお前は体が俺に追い付きさえすれば十分勝てる技量があるだろう……今回も時間切れでなければ完全に負けていたかもしれん。……一体誰にそんな技術を教わったんだ?」

先程に同じく虚実を混ぜて回答する。


「サーベルは基本を母上に教わりましたがほぼ我流又は教わった技術のアレンジです。後母上が使われていた東洋剣術の技術も取り入れています。歩方に関しては母上から聞いた東洋武術の技術の再現。これは完全に我流です。魔術も母上からですが鋼鉄の錬金は母上が亡くなってから身に付けた技術です。」

アウレールは考え込んでしまった

「……双方ショートソードやロングソードを使った場合でも俺と互角又は少し劣る位の技量だろうな。それにお前東洋剣術についてもブリュンヒルデから伝授されただろう。彼女の剣を取り入れただけにしてはしっかりしていた。どうなんだ?」

「はい。東洋剣術に関しても教えを受けました。」

最も、かつて俺も使っていたせいでもあるが。

……彼は言葉を続ける。


「……正直今のお前でも冒険者であればDランク程度の強さはあるだろう。最も、長時間戦闘を想定した上でのランク想定だが。そうでなければCランク位だろうな。技術に肉体が付いてくればC、Bもいずれは十分に有り得る位だ。

かつてBランク冒険者として活動していた俺と既にほぼ同等又はそれ以上の技量……天才、否鬼才とはこういう者の事を言うのだな。

我が子ながら嫉妬しそうになるよジークフリート。

……昼食を取った後書斎に来てくれ。話がある。」

あの件についてか。


「分かりました。後程お伺いします。」

タイミングを見計らってかカインがこちらに寄って来て話掛けて来た。

「それで、アウレール様。勝敗はどうなさるおつもりでしょうか?」

彼は考え込んだ。

「……ジークフリート。今回は引き分けで良いか?それともお前の優勢勝ちか?」

「……引き分けにしましょうか、父上。」

「分かった……良い勝負だった。また後で。」

そう言い残して彼は屋敷へと入っていった。

カインも一礼した後屋敷へと戻って行った。

俺も戻るとするか。


「ジーク様!一体何をお考えになってアウレール様と戦われたのですか!私は心配しました!お怪我はありませんか?」

……戻ろうとしたらリゼに遭遇してしまった。

どうやら模擬戦を見ていたらしい。


「腕試しだよ。今までの鍛練がどれだけ身に付いたか試したかったのさ。」

そう言うと彼女は黙り込んでしまった。

「……それならもう何も言いません。昼食までに身を清められますか?」

「そうだね。そうしようか。」

「分かりました。準備します。……無理はなさらないで下さいね。」

……彼女は何かに気が付いているな。

「心配しなくてもいいさ。さぁ、屋敷に戻ろう。ね?リゼ。」

「分かりました。」

取り敢えずリゼは感が強そうだ。要注意だな。

彼女の性格上廃嫡の事を知ったらアウレールに嘆願するかもしれない。そうなると出て行き辛くなる。


─────────





─────────

【ヴァイマル新男爵邸執務室正午頃】


「カイン、ジークフリートの剣を見てどう思った。正直に言ってくれ」

個人的にあれは異常な強さだと俺は感じた。俺が8歳位の時はあそこまで強く無かった。精々他の男爵家の子弟より一枚上手程度の技量だった。

奴はどうやってあの強さを得たのだろうか。

ブリュンヒルデの影響だけであれは可笑しい。

彼女は俺より剣の腕が立ったがサーベルはそこまで得意ではなかった。

本当に我流なのだろうか。ジークフリートに付けている家庭教師の報告だとあそこまで強く無かった筈だ。俺があいつの年齢位の時より出来が良い程度だった筈なんだが……

まさか技量を隠していた?こうなる事を予見して?

そんな馬鹿な……


カインはかなり考え込んだ後言葉を発した。

「……年齢からすると異常な強さです。私と彼が戦えば恐らく負けるでしょう。家庭教師からはどの様な報告が?」

「……俺があいつ位の年の時より出来が良い程度だった筈なんだが……恐らく技量を隠していたな。ブリュンヒルデが使っていた東方の国家の言葉に《能ある鷹は爪を隠す》という言葉があったそうだが正にそれだな。俺達にですら隠していた。ブリュンヒルデが秘密裏にジークフリートへ様々な事を教えていたらしいがそうだとしても半分は我流だそうだ。鬼才とはああいう奴の事を言うのだろう。」

我が子ながら本当に恐ろしい奴だ。


─────────






─────────

【午後1時頃】

昼食後アウレールの書斎前にやって来た。

この気配はアウレール、アデーレ嬢、カインか。

コンコンコン

「ジークフリートです。只今参りました。」

「入れ」

中から返答があったので入る。


「失礼致します。」

中には予想通りの三人が居た。

「唐突だがジークフリート、帝都にある各職業ギルドへの登録を認めよう。お前はその年で身を守る事が容易い程の技量を得ている。」

唐突過ぎるな。

「本当に唐突ですね。……本当によろしいのですか?」

こうなったという事はやはり思った以上に技量を見せすぎたらしい。

途中からあちらも本気で攻撃してきたから俺も隠していた部分を多く出しすぎてしまった。

だがあそこであっさりと負けては後々不味い事になったかもしれない。怪しまれたかもしれないが早めに事を進められるんだ。準備期間が伸びたのだから己にとって出来るだけ有利な様にしよう。

だが今後はもう少し自重しつつ頑張ろう。


「構わない。だが職業訓練期間は必要だろう。各ギルドには育成学校がある。そこに入れ。……で、何処のギルドが良い?」

……悩むがやはり……


「……冒険者ギルドの登録を行おうかと。冒険者とハンターのランクは統一されていると聞きますし。

どちらの業務にも興味がありますので。」

「そうか……冒険者育成学校の入学式は今日を入れて8日後の4月1日の筈だ。期間は一年間。途中入学、途中退学、途中卒業可能な場所だ。お前が必要な知識、技術をを全て習得出来たと思ったら自主退学したって良い。だがそれ位なら卒業まで頑張った方が良いと思うがな。あそこの学費は月払いだから辞めるなら月末にしてくれると助かる。今から冒険者登録してくると良い。登録料、入学金と学費は払ってやる。」

「何から何までありがとうございます。必ず後々お返し致します。」

そう言ったらアウレールは困った表情になり


「礼は要らないさ。お前には家を継がせてやる事は出来なくなった上に未成年の内から自分で金を稼いで生活させる事になるのだから。ついでに武器防具も買ってくると良い。それくらいの金は出すさ。幾ら要る?」

「月々頂いている自由裁量金がかなり余っていますのでそちらから全て出します。というより気が付いたのですが自由裁量金から入学金も学費も払えるかと。今金貨が35枚ありますので。」

こう俺が言うとアウレールは表情を歪ませ考え込んだ。

5歳から月々金貨1枚貰っていたのだがほぼ使っていなかったらしく35枚残っている。因みにどれくらいの価値かと言うと

金貨1枚=20XX年日本円での100000円

大銀貨10枚=金貨1枚

大銀貨1枚=銀貨10枚

銀貨1枚=大銅貨10枚

大銅貨1枚=銅貨10枚

銅貨1枚=20XX年日本円での10円

に相等するので

日本円にして約350万円分俺は今所有しているのだ。

この国の一般的な平民1家族は1ヶ月につき金貨1枚と大銀貨5枚~金貨3枚で生活している。

そう考えると俺はかなりの金持ちだろう。

そう考えている中父はようやく口を開いた。


「……親としての対面や面子もある。それに冒険者をやるのであれば今後金はいくらあっても足りん。

入学金や学費、登録料まで子供に払わせる程金に困っている訳じゃない。逆に金は貯まってるんだ。気にせず言いなさい。」

「……武器防具は錬金術で作りますので必要ありませんが……防具や柄の素材に革類を使いたいので大銀貨二、三枚程お借り出来るとありがたいです。錬金術で革は作れませんので。布、服類は魔術で作れますので要りませんし薬品類、登録料を考えると余裕を持たせて大銀貨三枚あれば大丈夫かと。それに今回掛かった金額や月々の自由裁量金、学費類もいずれ家を出る時にはお返し致します。」

こう言うとアウレールは表情を険しくした後こう言い放った

「……本当にそれだけで良いのか?というか遠慮しなくても良いんだぞ……そんなに心配されると親として心苦しくなるんだが……俺だって騎士団長職についているから金に余裕はあるんだ……学費類の返金も不要だ!」

え?

「え?」

「もういい!金貨10枚やるからこれで必要な物を買い揃えて来い!カイン、ジークフリートと共に買い物と冒険者登録に行ってきてくれ。」

「畏まりました。」

あっさりとカインは引き受けた。彼なら止めそうだったんだが……

「ジークフリート、学費の支払いも返金も不要だ!いいな!俺は金に困ってる訳じゃないんだ!さぁ、行ってこい。剣を買わないのであれば良い素材を買って来るがいい。お前が考えていた以上の素材が買えるだろう。」

そう言いながらアウレールに背中を押されつつ書斎を追い出された。因みに追い出される時にさりげなく金貨の入った袋を渡された。

……仕方ない。アウレールが言った通り考えていたより良い素材が買える可能性が高まったのだから喜ぶとするか。

金は廃嫡され家を出る時に押し付けて返そう。


─────────






─────────

全く……金には困ってないんだが……

子供に気を使わせる。……親としては最低だな俺は。だが長男なのに、俺と同等の剣術の技量なのに家を継がせてやれないんだ。初期資金程度出してやっても別に構わないだろう。


先日あいつが言った事は正しかった。

上司である帝都騎士団長のバーデン伯爵へ相談しに行き、ジークフリートの事を話した瞬間


「廃嫡すべきだ。火種は摘んでおけ。だが早すぎると醜聞になる。時期を見て行え。」

と言われてしまった。

やはり貴族社会の中では長男と言えど母親が平民出、しかも側室だと家を継ぐ事は難しい。特に俺は新男爵。

継いだとしても貴族社会の中では低位。

……それなら平民として比較的自由に生活させてやった方が良いのかもしれない。

冒険者なら腕っぷしの強さや魔物、依頼に関する知識さえあれば上へ上へ行ける。

奴にそちらの方が合っているだろう。

アヒムの教育は今からすれば良い。あいつに負けない程とは行かないだろうが最低でも成人する時には俺の一歩後ろ程度の強さに鍛え上げよう。


─────────




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