キルマリア出陣
ここはアインドラのお城。
そして謁見の間、いるのは王様、キルマリア。
「ぶっ殺せ」
「御意」
それだけで王様とキルマリアの会話は終わりである。殺戮キチガイどもには多くの言葉なんていらない。コロセンサーという殺戮キチガイどもが有する特殊な器官がコミュニケーション補ってくれるからだ。
ただまぁ、それじゃ何も分からないので、二人が何を言っていたのか説明すると――
『儂のことを舐めたアイツを殺してこい』
『わかりました。ぶっ殺してきます』
まぁ、その程度である。王様も殺す理由を詳しく説明する気は無いし、キルマリアも理由を詳しく聞く気は無い。
この会話だけだと頭がおかしい二人であるが、善悪の判定をすると悪人ではない。
キルマリアの方は人殺しが大好きだが、生きていても世の中のためにならない奴しか殺さないので、かろうじて悪とは判定されない。
王様なんかは邪魔な奴、気に食わない奴は皆殺しにしてきたが、それは国の平和を脅かす奴らであり、基本的には善政を敷いているので悪の判定はされない。
もっとも、そんなことはこれから追われる羽目になるラルドには関係のないことではあるが。
「ラルド討伐に向けて出発する!」
善は急げである。王様に『ぶっ殺せ』と命令されたキルマリアは自分が率いる三番隊をすぐさま招集し三十分でアインドラを出発した。
ちなみに、これはラルドが城を脱出してから一時間以内の出来事である。
キルマリアは城を出発するなり、景気づけに部下と共に城下の悪徳商人の屋敷を襲撃し、悪徳商人の一味を皆殺しにした。ラルド討伐はどうしたのか? この襲撃は、そのために必要なことでもあった。
キルマリアは悪徳商人の財産を奪い取ると、ラルド追跡の資金にしたのだ。そしてその金で良い馬を買い、自分と部下に用意し、アインドラを出発した。
途中、食料が無いことに気づいたキルマリアは補給のために近くに隠れ潜んでいるという野盗のアジトを襲撃、一味を皆殺しにすると食料を確保した。
ここまでの流れを見て分かるだろうがキルマリアは手段を選ばない。
悪人しか殺さないので善悪の判定はかろうじて善側に傾いているが、善だろうが悪だろうがヤバい奴はヤバいわけで、ラルドを野放しにしたことよりも、キルマリアに追跡をさせていることの世の中に対しては危険なことであった。
一応説明しておくが、キルマリアという女は何かあったから、こうなったわけではない。
生まれた時から、眼は濁っていたし、人殺しも大好きだった。職業の選択も全くの偶然である。可哀想な背景などはこれっぽちもなく、普通に成長した結果ヤバい奴になっただけである。
「スンスン」
キルマリアは馬から降り、四つん這いになって犬のように地面の臭いを嗅ぐ。
凛々しい女騎士がそんなことをしているのは中々に凄まじい光景であるが、彼女の部下の騎士たちは見慣れた光景であるようで、動じる様子は無い。
「どうやら奴は荒野を進んでいるようだ」
キルマリアは自分の殺すべき相手の臭いを犬以上の嗅覚で嗅ぎ分けることが出来る。そして、その能力で僅かに残ったラルドの臭いを辿り、ラルドの行く先を予測していた。
「荒野を抜ければ港がある。そこから先に行かれたら、我々では――」
言いかけて、別に問題ないと気づく。他国に行ったら他国まで追いかけて殺せばいいだけの話だからだ。
幸か不幸か、ラルドを殺すことに関して、王様から時間制限は設けられていなかった。それならば、キルマリアはそれこそ自分が死ぬまで、どれほどの時間がかかろうが、どこまでもラルドを追いかけて殺すだけだ。
「とはいえ、早めに殺した方が良いだろう。陛下も待っているだろうからな」
そう言って、キルマリアは馬を駆って荒野を走り出す。
その瞳は相も変わらず濁っており、殺戮に飢えていた。