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出戻りを狙う戦士と戦士を思う勇者たち

こういうのを書くのも楽しい


 冒険者ギルドの襲撃を突破した俺は無事にアインドラの街を脱出した。そもそも追放という話になっているんだから、アインドラから出て行ったとしても、それを咎めるような奴はいないはずだ。

 ただ、王様の前で色々とやらかしてしまったし、冒険者ギルドにも目の敵にされている以上、追手が掛からないとも思えないので、なるべくアインドラを離れようと思う。


「だけど、行く先がなぁ」


 目的の無い旅は辛い。武者修行の旅をするのも悪くないが路銀が無い。レグルから受け取った金は何日か宿に泊まれば、無くなってしまう額だ。これでは修行だけして暮らすのも難しい。


「なんで、こんなことになったのかなぁ」


 俺は道端の岩に腰掛けて空を見る。

 思えば、俺の人生にケチがつき始めたのは、勇者パーティーを解雇されてからだ。それまで順風満帆だとは言えないが、生きていて困ったことは無いし、ここまで人に追い立てられるようなこともなかった。


「働くのが嫌で、ひたすらに修行してただけなのに、そんなことも許されないのか?」


 俺は世界に問う。答えは当然だが返ってこない。俺は溜息をついて昔を思い出す。


「勇者パーティーにいた頃は良かったなぁ」


 勇者パーティーにいた時が、遠い昔のことのように思える。たった一週間前のことなのにな。勇者たちは今は何処にいるんだろうか? 一週間では、さほど遠くには行っていないと思うが…………


「冒険者ギルドだって、勇者パーティーに魅力を感じているくらいだし、俺も戻れるなら戻りたいよ……」


 感傷に浸り、独り言を漏らす俺。だが、その時、俺の脳裏に天啓が奔った。


「そうか!」


 極めて単純な話だったんだ。勇者パーティーにいた頃が良かったならば――


「戻ればいいんだ!」


 勇者パーティーに出戻りを決め込めばいい。

 勇者どもは、俺には故郷に帰る理由があったとか思っていて、そのために俺を無理矢理アインドラに転送したので、そのまま戻っても、不審に思うかもしれない。だが――


「理由はなんだって良い。婚約者は治ったとか、逆に死んだとかどっちでもいい。とにかく、婚約者が勇者と一緒に戦って、世界を救って欲しいと頼んだとか言って、もう一度、仲間に加えてもらおう」


 アイツらだって、俺が仲間でいた方が良いはずだ。俺がいないと前衛は勇者だけでパーティーのバランスが悪いからな。俺が戻れば、きっと喜ぶぞ!


「待て……だが、勇者たちと俺の距離はどうなんだ?」


 俺が転送を食らってから一週間。転送直前にいた場所からアインドラまでの距離、そして一週間の間に勇者たちが移動した距離……


「……分からないが、追いつけなくはないはずだ」


 旅の途中で勇者たちは人助けやら魔物退治やら色々な事件に巻き込まれる。それに時間を取られることを考えれば、今から俺が全速力で追いかければ、間に合うかもしれない。


「そうと決まれば善は急げだな」


 俺は座っていた岩から立ち上がり、スキルを発動。高速移動のスキル〈疾駆アクセル〉を使って走り出す。スキルの使用により、俺の走る速度は普段の数倍に達し、馬以上の速さで俺は駆け抜ける。


「転送される直前にいたのはドライセル帝国。あの国に行くには海を渡って、ツヴァイゼム王国に行く必要がある」


 走りながら頭の中の世界地図を思い浮かべる。ドライセル帝国は大国だが問題も多いから、あの国で足止めを食らう可能性は高い。恐らく一か月は滞在する羽目になるだろう。

 海を渡らなきゃいけないから、俺の方も多少は時間も食うだろうが、今の速度で走ってアインドラの港に到着するまでに5日、船旅で5日、ツヴァイゼム王国を縦断してドライセル帝国に入国するまでに14日。ドライセル帝国内で勇者を見つけるまでに7日。合計して31日だ。

 この計算が上手くいけば、ドライセル帝国で勇者と合流できるはず。仮に合流できなくとも、ドライセル帝国から勇者が向かう先は、ドライセルの隣のフォーザンヌ共和国かツヴァイゼム。そこで、事件に巻き込まれてくれれば、追いつくことは間違いなく出来るはずだ。


「待っていろ勇者。戦士ラルドが再び、お前の仲間になってやるからな!」




 ☆☆☆☆☆



 ――その頃の勇者たち。


「ラルドさんは元気だろうか……?」


 勇者レイオルは別れた仲間を思い、空を見上げていた。

 激しい戦闘を繰り返してきた勇者たちは戦いの疲れを癒すために宿屋で休息を取っている。

 最強の戦士ラルドと別れた勇者たちは、戦術の見直しに迫られている事情もあり、戦闘を控えつつ、戦闘があった際には、ラルドがいた頃よりも長めの休みを取るようになっていたのだ。


 ラルドがいない現状では、前衛が出来る者は勇者しかおらず、勇者の負担は非常に大きい物になっており、勇者一人では、後衛の魔導士ミルカを魔法が発動するまで守りきるということが困難になっていた。魔導士の魔法による攻撃力が失われたことで、戦闘時間は長くなり、全員の負担が増していた。


「今頃、何をしているんだろうか?」

「さぁね、婚約者とでもイチャイチャしてるんじゃない?」


 魔導士ミルカは勇者に寄り添い、故郷で平和に暮らしているであろうラルドのことを勇者と共に思い浮かべる。

 頼るものを失った過酷な旅路は二人の距離を急速に縮めていった。しかし、その関係は健全とは言い切れない。レイオルとミルカはお互いをラルドという自分たちを守ってくれる存在の代わりと見なし、互いに依存することで心の安定を保っていたのだ。

 お互いのことを憎からず思っていたはずの二人であったが、その思いは歪な形に変わりつつあった。


「勇者様……」


 そして、そんな二人を物陰から眺める影。その眼差しには暗い色が宿っていた。

 ラルドという男を失った勇者パーティーは泥沼の三角関係に陥ろうとしていた。


「次に会った時は、子供を抱いてたりしてね」

「ラルドさんが? 想像できないな。でも、良いお父さんになりそうだよね」


 勇者と魔導士は平和な未来を夢見て、微笑み合う。そして、自分たちが夢見る平和な未来のために、命を懸けて戦うという意思を強くする。


「ラルドさんのためにも平和な世界を作らなきゃね」

「ええ、そうね」


 二人はお互いに笑い合う。笑顔を見せられるうちは、まだ頑張れる。二人はそう思っていた。


「ところで、これからの予定は?」


「うーん、ドライセル帝国で活動するには今の僕たちは力不足の感じもあるから、この国には申し訳ないけど、一旦別の国で腕を磨いて、連携を見直した方が良いかもしれないと思っているんだ」


「早めにフォーザンヌに行くかツヴァイゼムに戻る?」


「それも考えておかないとね。ただ、それを判断するにしても、もう少しだけ、この国で頑張ってみようと思うんだ。その結果しだいで、僕たちの行く先は変わるだろうね」


 勇者たちは一か月間ドライセル帝国に滞在する。そんな予想を前提にしたラルドの計画は本人の与り知らぬ所で破綻を迎えようとしていた。









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